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ナショナルズの勝利の味は、この上なく甘く、ヒーローはチョコレートにまみれる

宇根夏樹ベースボール・ライター

ワシントン・ナショナルズが好調だ。開幕20試合こそ7勝13敗と出遅れたものの、そこから20試合で16勝を挙げ、ナ・リーグ東地区の首位を走るニューヨーク・メッツに追いついた。

エース級の投手たちをローテーションに並べるナショナルズは、もともと地区優勝の筆頭候補だった。加えて、打線ではブライス・ハーパーが覚醒。4月の5本塁打に続き、5月は20日を終えた時点ですでに月間10本塁打を打っている。また、7年2億1000万ドルで加入したマックス・シャーザーは、大型契約を裏切らない好投をしているだけでなく、チームの勝利を祝う、新たな方法を編み出した。

始まりは、開幕21試合目の4月28日だった――振り返れば、連敗を6で止めたこの試合から、快進撃は始まった。9回表に逆転3ラン本塁打を放ち、試合後にフィールドでインタビューを受けているダン・アグラの顔に、シャーザーはチョコレート・シロップをかけまくった。シャーザーは続いて、5月9日にサヨナラ本塁打を打ったハーパーに、たっぷりとチョコレートを垂らした。さらに、シャーザーは5月19日にサヨナラ本塁打を叩き込んだライアン・ジマーマンにも、チョコレートを浴びせかけた。

シャーザーはこの祝福について、5月12日にMLBネットワークの「インテンショナル・トーク」でケビン・ミラーに訊ねられ、こう答えている。「アイスクリームのトッピングで、一番人気があるのは何か知ってるかい? チョコレート・シロップさ。だから、素晴らしい勝ち方やウォークオフ・ウィン(サヨナラ勝ち)をした時には、最高の仕上げになるんだ」

また、ナショナルズは5月22日に「届いたぞ! #スウィートビクトリー」とオフィシャル・ツイッターに記して、いくつかの段ボール箱が写っている画像をアップした。その箱には「ハーシーズ・シロップ」と印刷されている。ハーシーズからチョコレート・シロップが大量に送られてきたのだ。5月20日にESPNの「スポーツセンター」に出演したハーシーズの広報は「先週、24本のボトルを送ったけれど、ジマーマンがチョコレートをかけられるの見て、さらに108本を追加した」と語っている。もちろん、これは無料だ。ハーシーズにとっては――食べ物以外にかけるのはどうかという意見もあるだろうが――良い宣伝になる。

5月13日には9回表に――審判から退場を宣告されたハーパーに代わって途中から出場していた――マイケル・テイラーが逆転グランドスラムを放ったが、試合後のインタビュー中にシャーザーが現れることはなかった。だが、これはシャーザーが「ルール」を決めたからだと思われる。アグラの時もアウェーだったが、相手チームや観客に配慮して、派手な祝福はホーム限定にしたのだろう。今後も、シャーザーからチョコレート・シロップをかけられる選手は出てくるに違いない。

今シーズン、シャーザーから最も多くのチョコレートをかけられるのは誰か。当然ながら主砲のハーパーは有力候補だが、ここはジマーマンを推したい。チョコレート・シロップの対象は本塁打に限らないだろうが、ジマーマンは歴代10位タイとなる通算10本のサヨナラ本塁打を放っている(最多はジム・トーミーの13本)。ジマーマンの全本塁打に占めるサヨナラ本塁打は5.29%(10/189)で、ホームで打った本塁打では11.36%(10/88)に当たる。このパーセンテージはどちらも、サヨナラ本塁打10本以上の18人のなかで群を抜いて高い。ハーパーも、サヨナラ本塁打はまだ3本ながら、本塁打に占めるパーセンテージは全体の4.29%(3/70)、ホームの7.89%(3/38)と低くない――ジマーマン以外の17人より高い――ものの、ジマーマンには及ばない。

ワシントン・ポストのダン・ステインバーグとジェームズ・ワグナーが書いた記事によれば、ユニフォームからチョコレートをすっかり洗い落とすには、2時間の工程が必要だという。記事のなかで、ナショナルズのクラブハウスの職員、ダーウィン・ビーチャムは「これまでに扱ったうちで最も落としにくいかも」と語っている。親やマネージャーにユニフォームを洗ってもらっている人は、真似しない方がいいかもしれない。ただ、ビーチャムはこう続けている。「でも、それだけの価値はあるね、だって、勝ったということなんだから」

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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