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エースが登板予定日にユニフォームを切り裂き、代役としてリリーフ投手が8年ぶりに先発

宇根夏樹ベースボール・ライター
クリス・セール(シカゴ・ホワイトソックス)Jun 26, 2016(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

7月23日、シカゴ・ホワイトソックスのマット・アルバースが、8年ぶりに先発マウンドへ上がった。この試合はエースのクリス・セールが投げる予定だったが、開始1時間前に登板回避となり、その30分後にはリック・ハーンGMから声明文が出された。

そこには「試合前のクラブハウスにおける出来事により、クリス・セールは今夜予定されていた先発登板をホワイトソックスに取り消され、ボールパークから自宅へ帰されました。この出来事は、身体的なものとはまったく異なり、球団はさらなる調査を進めています」とあり、「調査が完了するまでホワイトソックスはこれ以上のコメントをしません」と締めくくられている。

故障や怪我でないとすれば、登板回避の理由としては、家族にまつわるアクシデントかトレードが考えられる。しかし、どちらもクラブハウスの出来事ではないし、調査は不要だろう。声明文を100%信用するわけではないが、少なくともこういった文章にはなるまい。

数人の記者のツイートによると、セールは試合で着用するはずだった1976年の復刻版ジャージ(ユニフォーム)を切り裂いたという。FANRAGスポーツのトミー・ストッキは「ジョークではない:情報源によるとセールの怒りは復刻版ジャージを着たくないことに起因しており、彼がジャージを切り裂いたので誰も着られなくなった」とツイートした。このジャージは大きな襟が付いていて、色はネイビー。胸に白く「CHICAGO」と綴ってある。結局、ホワイトソックスは1983年の復刻版ジャージ(写真)を着てプレーした。

この2日前に、FOXスポーツのケン・ローゼンタールは「別の情報源によるとホワイトソックスは過去48時間の間にセールに対して申し出られた“莫大な見返り”にただ“ノー”と返答した」とツイートしている。セールを獲得したいというトレードの申し込みを断ったということだ。今回の登板回避により、トレードの可能性はより高まりそうな気がする。身体的なものではないとGMがコメントしているのは、トレードの障害にならないようにするためと見ることもできよう。また、今回のセールの行動は、移籍したいという気持ちの表れなのかもしれない。

いずれにせよ、この夏にトレードが成立すれば、見返りは莫大なものになる。セールは現在のメジャーリーグを代表する左腕で、年齢も27歳と若い。さらに、球団オプションをフルに行使すれば、来年から3シーズンは保有でき、しかも、その年俸が1600万ドルを超えることはない。

復刻版かどうかはともかく、セールがホワイトソックスのジャージを再び着ることはあるのだろうか。それとも、テキサス・レンジャーズやボストン・レッドソックス、シカゴ・カブスのジャージを着たセールを目にすることになるのか。今年は7月31日が日曜日なので、ウェーバーを経由せずにトレードできるデッドラインは、8月1日に設定されている。

なお、アルバースは初回にヒットと盗塁、エラー、内野ゴロで1点を失ったが、2回表は3人で片づけた。雨による1時間14分の中断を挟んだ3回表はマウンドに上がらず、ホワイトソックスはそこから5投手を繰り出した。試合は8回裏が終わったところで3対3のまま中断され、続きは翌日、予定されている試合の前に行われることになった。あり得ないとは思うが、9回表はセールが投げることも可能だ。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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