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先発3投手のリレー。ノーヒッター中の投手に代わってエースが出場し、エースもすぐに別の先発投手と交代

宇根夏樹ベースボール・ライター
マット・ケイン(サンフランシスコ・ジャイアンツ)Jul 31, 2016(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

サンフランシスコ・ジャイアンツの先発3投手、マット・ケインマディソン・バムガーナージェフ・サマージャが、同じ試合に出場した。ワシントン・ナショナルズと対戦した7月31日のことだ。

彼らは皆、先発と救援の両方をこなすスウィングマンではなく、今シーズンもローテーションを守って20先発以上している。言うまでもないことだが、この試合はワールドシリーズ第7戦ではないし、ポストシーズン進出がかかったレギュラーシーズンの最終戦とも違う。ちなみに、2001年のワールドシリーズ第7戦では、アリゾナ・ダイヤモンドバックスのカート・シリングミゲル・バティスタランディ・ジョンソンがリレー登板しているが、当時のバティスタはスウィングマンだった。

もっとも、ジャイアンツの先発3投手のうち、マウンドに上がったのはケインだけだった。先発登板したケインは、5イニングをノーヒットに抑え、5回裏に打順が回ってきたところで、代わってバムガーナーが打席に入った。そして、バムガーナーがライトフェンスを直撃する二塁打を打つと、代走としてサマージャが出場した。サマージャも登板はせず、6回表は救援投手のジョージ・コントスが投げた。

この先発投手3人の交代には、いくつかの理由があった。まず、ケインは被安打ゼロながら、すでに93球を投げていた。今シーズンのケインの投球数を25球ごとに区切ると、1~25球、26~50球、51~75球の被打率はいずれも.300未満だが、76~100球だと.451に跳ね上がり、被出塁率と被長打率も同様の傾向にある。もしかしたら、ケインが4年前に完全試合を演じていることも、付け加えてもいいかもしれない。ケインに対して、ノーヒッターを達成させてやろうという配慮は必要なかったということだ。

また、ケインの打席はイニングの先頭だった。塁上に走者はおらず、試合は中盤に差しかかったばかり。相手は左投手で、スタメン出場していない野手4人のなかに右打者は1人しかいなかった。ブルース・ボウチー監督は、ここで起用するのはもったいないと考えたのではないだろうか(その後、ダグアウトにいた野手は4人とも試合に出場した)。

バムガーナーは、左で投げて右で打つ。しかも、その打撃は、投手の水準を遥かに超えている。2014年はホームラン4本、2015年は5本を放ち、今シーズンも2本を叩き込んでいる。6月30日に登板した際には、ア・リーグのチーム、オークランド・アスレティックスのホームゲームであるにもかかわらず、ボウチー監督はDHを使わなかった(バムガーナーはこの試合でも二塁打を放った)。バムガーナーには代打の実績もあり、昨シーズンは4試合に起用され、3打数2安打、1四球を記録した。

サマージャの代走についても、試合終盤に野手を残しておきたいという意向があったのだろう。その点を踏まえるなら、バムガーナーと同じように、サマージャも適任だ。これまでに盗塁を試みたことはないが、サマージャは大学時代にアメリカン・フットボールのワイドレシーバーとして活躍していた。ボウチー監督はこの前日にも、サマージャを代走として起用している。

バムガーナーが無死二塁のチャンスを作ったものの、続く2人はサマージャを三塁へ進めることもできず、3人目は三塁へゴロを打った。このイニングは無得点に終わるかと思われた。ところが、三塁手の悪送球によってサマージャはホームを踏んだ。ジャイアンツは直後の6回表に1点を失っただけに、サマージャの得点は重みを増した。7回裏にも1点を加えたジャイアンツは3対1で勝利を収め、ケインは通算100勝目を手にした。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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