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対戦相手として戻ってきたフランチャイズ・ヒーローの本塁打に、観客はブーイングではなくカーテンコール

宇根夏樹ベースボール・ライター
チェイス・アトリー(ロサンゼルス・ドジャース)Jul 19, 2016(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

ホームランを打ったアウェーの選手に対し、観客はブーイングを浴びせるのではなく、カーテンコールを求める――。8月16日のシチズンズバンク・パークでは、こんな珍しい光景が繰り返された。

ロサンゼルス・ドジャースのチェイス・アトリーが、5回表にソロアーチ、7回表にグランドスラムを放った。アトリーは2度とも喝采を浴び、ホームイン後にダグアウトから出てきて、ヘルメットを脱いでそれに応えた。

昨年8月にドジャースへトレードされるまで、アトリーはフィラデルフィア・フィリーズでプレーしていた。2000年のドラフトでフィリーズから全体15位指名を受け、2003年にメジャーデビュー。シチズンズバンク・パークがオープンしたのは、2004年のことだ。

2005年にレギュラーの座を掴んだアトリーは、2007年からスタートした地区5連覇の原動力となった。この5シーズン(2007~11年)にアトリーが記録したfWAR33.5は、当時はセントルイス・カーディナルスにいたアルバート・プーホルス(現ロサンゼルス・エンジェルス)の35.6に次ぐ。フィリーズの2位はコール・ハメルズ(現テキサス・レンジャーズ)の20.9だった。

アトリーはトレードに際し、フィラデルフィア・デイリー・ニューズ紙の全面広告を使い、ファンに別れを告げた。そこには「ありがとうフィラデルフィア」と題したメッセージと、彼自身がチャンピオン・トロフィーを掲げている、2008年にワールドシリーズを制した直後の写真が掲載されていた。

トレードから1年後、アトリーは8月16日の試合で、初めてシチズンズバンク・パークへ戻ってきた。試合開始とともに打席に立った時には、スタンディング・オベーションが沸き起こった。

だが、フィリーズがポストシーズン進出をめざすコンテンダーであれば、観客の反応は違っていたのではないだろうか。フィラデルフィアのファンの気質は、セントルイスのそれとは大いに異なる。いくら相手がフランチャイズ・ヒーローのアトリーといえども、最初のスタンディング・オベーションだけで終わり、フィリーズから得点を奪うホームランに対し、カーテンコールを求めることはなかったように思う。フィリーズは過去3シーズンとも負け越していて、今シーズンも借金を背負っている。

アトリーとともに地区5連覇を飾ったメンバーのうち、ライアン・ハワードカルロス・ルイーズは今もフィリーズでプレーしているが、もうレギュラーではない。今オフには2人とも、球団オプションを行使されずにFAとなり、そのまま引退する可能性が高い。

アトリーにしても、レギュラーではあるものの、全盛期には程遠い。今オフのFAは2人と同じだ(1年契約でオプションはない)。もしかしたら、かつてホームとしたボールパークで喝采を浴びたこの試合が、最後のハイライトになるかもしれない。アトリーは過去にも1試合2本塁打&5打点を3度記録しているが、これまで、シチズンズバンク・パークと前球場のベテランズ・スタジアムで演じたことはなかった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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