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首位打者は「トニー・グウィン賞」と「ロッド・カルー賞」に。もし、イチローの名前を賞につけるなら?

宇根夏樹ベースボール・ライター
イチローがオールスター・ゲームMVPを受賞 July 10, 2007(写真:ロイター/アフロ)

サイ・ヤング賞」には、史上最多の511勝を挙げた大投手の名前が冠してある。これは、1956年に賞が創設された時からだ。ヤングはその前年に88歳で亡くなった。

だが、「ロベルト・クレメンテ賞」は最初からこの名称だったわけではない。1971~72年の「コミッショナーズ賞」が、クレメンテ死去の翌年に変更された。「新人王」は「ジャッキー・ロビンソン賞」の別名を持つが、1986年まではそうではなかった。ロビンソンその人は、自身の名前がつく40年前、1947年に新人王を受賞した。

近年も、この流れは続いている。各リーグ最高のリリーフ投手を称える「デリバリー・マン・オブ・ザ・イヤー賞」は、2014年より、ア・リーグが「マリアーノ・リベラ賞」、ナ・リーグは「トレバー・ホフマン賞」に取って代わった。昨年7月には、ア・リーグの首位打者を「ロッド・カルー賞」、ナ・リーグを「トニー・グウィン賞」と名づけることが発表され、ホゼ・アルトゥーベ(ヒューストン・アストロズ)とDJ・ラメイヒュー(コロラド・ロッキーズ)がそれぞれ最初の栄誉を得た。

名選手にちなんだ名称を持つ賞は、今後も増えていくに違いない。もしかしたら、日本人メジャーリーガーの名前を冠した賞ができるかもしれない。そうなるとすれば、現時点で最も有力なのは「イチロー賞」だろう。

ただ、首位打者には、カルーとグウィンの名前がすでについている。首位打者の獲得回数も、イチローの2度に対し、カルーは7度、グウィンは8度を数える。

また、イチローは2007年のオールスター・ゲームでランニング本塁打を放ち、MVPを受賞しているが、この賞はその5年前に「テッド・ウィリアムズ賞」と銘打たれた。イチローは殿堂選手の名前を冠した2つの賞、「ジャッキー・ロビンソン賞」と「テッド・ウィリアムズ賞」の受賞者というわけだ。ちなみに、「テッド・ウィリアムズ賞」と命名された2002年のオールスター・ゲームは引き分けに終わり、MVPは選ばれなかった。翌年、ギャレット・アンダーソンが“最初の”受賞者となった。

やはり、「イチロー賞」と名づけるのにふさわしいのは、シーズン最多安打だろう。イチローは首位打者を獲得した2001年と2004年に加え、2006~10年もリーグで最も多くの安打を打った。7度のシーズン最多安打は、タイ・カッブの8度に次ぎ、グウィンとピート・ローズに並ぶ。さらに、イチローはシーズン安打の最多記録も保持している。2004年に262安打を放ち、1920年にジョージ・シスラーが記録した257安打を追い抜いた。

シーズン最多安打7度以上の4人中、カッブとイチローはすべてア・リーグ、グウィンとローズはすべてナ・リーグで記録した。カッブを差し置いて「イチロー賞」とすることについては、前例がある。カッブがア・リーグで獲得した首位打者11度(12度説もある)はカルーの7度を上回るが、「タイ・カッブ賞」ではなく「ロッド・カルー賞」と名づけられた。首位打者と同じように、ア・リーグを「イチロー賞」、ナ・リーグを「ピート・ローズ賞」とすれば、両リーグが揃う。

とはいえ、イチローはまだプレーを続けており、その名前が賞に冠されるとしても、しばらく先のことになりそうだ。また、ローズの場合、永久追放の処分が解かれない限り、賞に名前がつけられることは、まずあり得ない。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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