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フジテレビ「HERO」初回視聴率26.5%が明らかにしたこと

碓井広義メディア文化評論家

7月14日(月)、フジテレビの新ドラマ「HERO」の初回が放送された。そして、視聴率が26.5%のハイスコアだったことが話題となっている。

もちろん、かつての大ヒットドラマだ。主演はキムタクこと木村拓哉であり、やや人気に陰りと言われても、スターであることは確かだ。それにフジテレビの力の入れようも半端ではなかった。

またストーリーもうまく組み立てられており、テンポの良さと相まって面白く見ることができた。

しかし、個人的には「20%くらいかな」というのが読みだった。26.5%という予想を超える高い数字は、一体どこから生まれたのだろう。

●大学生は「HERO」を見たか?

そこでまず、大学の教室で120名の学生たち(学部、学科、学年もバラバラ)に、「この初回を見た人は?」と聞いてみた。

すると、手を挙げた者が12名いた。学生たちの視聴率は10%だったのだ。

この挙手による教室内視聴率調査、これまでも時々行ってきたが、最近は10%に達するドラマなどほとんどない。その意味では、キムタクと「HERO」恐るべし、である。

しかし、26.5%とはかなり距離がある。26.5%-10%=16.5%という単純計算は成立しないものの、20歳前後の若い衆がこの程度だとすると、どんな年代が見たというのか。

●大票田は中高年層!?

今回の26.5%という数字は、いわゆる「世帯視聴率」である。視聴率には、他に「個人視聴率」がある。年齢、性別、職業など、「どんな人が見たか」について、かなり細かいデータが収集されているのだ。

その「個人視聴率」を確認してみると、「HERO」初回を見た大学生は7%前後だった。教室での数字に結構近い。

年代別でいえば、F2層(35~49歳の女性)が圧倒的に多く、20%以上に達している。しかも、この数字は同時間帯におけるF2のPUT(個人視聴率の合計)の半分以上を占めているのだ。

また、もう一つ、大きな特徴がある。それはM3層(50歳以上の男性)の視聴者も多かったことだ。M3の個人視聴が15%前後もある。

しかも普段、M3が同時間帯で一番よく見ている、NHK「ニュースウォッチ9」をも上回る高い数字だった。

この結果から読み取れることは何か。ずばり、「フジテレビ視聴者の高齢化」である。

これまでF1層(20~34歳の女性)とM1層(20~34歳の男性)に強いことを標榜してきたフジテレビだが、実態としての視聴者の年齢は高くなっているのだ。

●フリーズドライされた主人公

あらためて、「HERO」の初回を振り返ってみる。

このドラマ、最大のポイントは「昔のままの久利生公平」だろう。ファッションから言動まで、見事なまでにその雰囲気が前シリーズと変わっていない。13年という長い時間経過など、まるで無かったかのようだ。

しかし、F2やM3の視聴者にとっては、それがよかった。13年分の人生経験を積んで成長した久利生(=キムタク)など見たくなかったのだ。っていうか(キムタク風)、中高年は変わらない久利生こそが見たかったのかもしれない。

13年間のフリーズドライから目覚めたような“変わらない主人公”は、F2とM3にとって、自分たちの“いい頃”の象徴でもある。

また、このドラマでは、主な舞台である東京地検城西支部の内部も、そこで働く検事や事務官たちのコミカルなやりとりも、さらにカメラアングルさえ、しっかり前シリーズを踏襲している。その懐かしさと安心感も大きい。

制作陣が、どこまで“中高年の視聴者”を意識していたのか、いなかったのか、それは分からない。

だが、結果的に明らかになったのは、今回の「HERO」を見ているのは主に13年前の視聴者であり、いわば年齢層が持ち上がったのではないか、ということだ。

今後も、大票田である中高年層が見続けてくれるのか。また、新たな若い層が視聴参加してくれるのか。それによって、「HERO」のみならず、フジテレビ自体の行方も変わってくる。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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