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豊作か!?「オトナの男」にオススメの秋ドラマ(その1)

碓井広義メディア文化評論家

2014年秋クールのドラマが始まった。「食欲の秋」に負けない、「ドラマの秋」であって欲しい。NHKも民放も力を入れるこの季節、「オトナの男」にオススメの秋ドラマをチェックする。

●脇役たちの存在感が光る、NHK朝ドラ「マッサン」

「花子とアン」の後を受けてスタートした、NHK連続テレビ小説「マッサン」にはいくつかの特色がある。

まず、主人公が男性であることだ。女性の一代記を基本とする朝ドラでは、95年の「走らんか!」以来19年ぶりのトライとなる。

次に、「花子とアン」に続いて実在の人物であること。ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝(ドラマでは亀山政春)だ。近年、ビールや焼酎などと比べて影の薄いウイスキー。しかもサントリーではなくニッカという渋い選択が挑戦的でいい。

そして今回の目玉が、”朝ドラ史上初の外国人ヒロイン”だ。政孝がリタ夫人(ドラマではエリー)を伴って帰国したのは大正9年。夫を支えながら昭和の戦中・戦後を生きぬいた。このドラマの主人公は確かにマッサン(玉山鉄二)だが、実質的にはエリー(シャーロット・ケイト・フォックス)と二人三脚の”夫婦物語”なのである。

第1週で際立っていたのが、国際結婚に断固反対するマッサンの母親(泉ピン子)の存在だった。

この設定は上手い。なぜなら、「外国人の嫁なんて」と2人の前に立ちはだかる鬼母・ピン子を置くことで、視聴者は“初の外国人ヒロイン”を応援する気持ちになるからだ。

慣れない日本で頑張ろうとする外国人妻・エリーと、同じく日本のドラマに初挑戦する女優・シャーロットが重なって見えてくる。

また、第2週からさっそく大阪へと舞台を移した「マッサン」。今度はサントリーの前身・寿屋創業者の鳥井信治郎をモデルとした、鴨居商店社長の堤真一が強烈なキャラクターで登場してきた。

玉山が演じるマッサンも、シャーロットが扮するエリーも、基本的には生真面目な性格であり、主人公としてはやや地味に見える。脇から盛り上げていく存在が必要だ。

それが1週目はマッサンの母親役・泉ピン子であり、2週目からがシリアスな役からユーモラスな役まで幅広く演じることのできる堤真一になるわけだ。

作り手側としては、堤が主役を喰うくらい思いきり暴れた方が盛り上がるという計算だろう。これも今のところ成功している。二枚目俳優・玉山が好演する二枚目半のマッサンも含め、上々の滑り出しだ。

●ヒロインを際立たせる、テレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」

第一印象は、「本気で取りにきたなあ」である。シーズン3となる、テレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」だ。「相棒」と並ぶ二枚看板の名にかけて、果敢に勝負してくるとは思っていたが、その“エンタメぶり”は予想以上だった。

まず「国立高度医療センター」という新たな舞台を設定。手術室など施設や設備を含め、病院としてのスケールがぐんとアップした。

またそこに居並ぶ面々が豪華だ。いきなり更迭される総長に中尾彬。入れ替わる新総長は北大路欣也。そして次期総長の座を狙うのが古谷一行である。ライバル関係が続く外科部長は伊武雅刀と遠藤憲一。前シリーズで帝都医大を追われながら、しっかり西京大病院長に収まっている西田敏行も元気だ。

この面子を見ながら、「白い巨塔」(フジ)と「華麗なる一族」(TBS)と「半沢直樹」(同)がオーバーラップして苦笑いした。

男たちの権力争いは往年の東映やくざ映画のようにむき出しで、遠慮がなく、分かりやすい。すべてはヒロインのためであり、その暗闘が激しいほど、「私、失敗しないので」とマイペースで患者の命を救っていく大門未知子(米倉涼子)が際立つ仕掛けだ。まさに座長芝居である。

舞台の病院が大きくなろうと、男たちの戦いが激化しようと、大門=米倉は決して変わらない。超のつく手術好き、天才的な腕前、少しヌケた男前な性格。このブレなさ加減こそがシリーズの命だ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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