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まだ間に合う!「オトナの男」にオススメの2015夏ドラマ

碓井広義メディア文化評論家

今期の連続ドラマも折り返し点を過ぎました。全体には低調といわれていますが、「オトナの男」にオススメできる夏ドラマを2本、紹介します。

唐沢寿明演じる“スーパー公務員”が熱い

日曜劇場「ナポレオンの村」(TBS系)

今年はじめに放送されたドラマ「限界集落株式会社」(NHK)。ズバリ「限界集落」の文字が入ったタイトルにインパクトがある。過疎の村に現れた経営コンサルタント(谷原章介)が、村人たちに「農業はやり方次第で儲かる」と説き、さまざまなアイデアを実践していく物語だった。

一方、こちらは限界集落を抱える地方自治体に赴任した公務員(唐沢寿明)が主人公だ。効率優先の市長(沢村一樹)が廃村扱いするこの村を、柔軟な発想と抜群の実行力で崖っぷちから救おうと奮闘している。

このドラマの見どころは、唐沢が演じる“スーパー公務員”が何を企画し、いかに達成するかだ。時には、村で作られた米を、ローマ法王に献上して食べてもらうという驚きの仕掛けも登場する。しかも、このエピソードは、原案本「ローマ法王に米を食べさせた男」(講談社)のタイトルにもなっている実話なのだ。

著者の高野誠鮮(たかの じょうせん)氏は、構成作家などを経て、故郷の石川県羽咋市に寺の後継ぎとして戻り、同時に市役所の臨時職員になったという異能の人物だ。

超が付くほど前向き。いつの間にか周囲を巻き込んでいく求心力。いい意味で公務員の既成概念から大きくはみ出た主人公を、唐沢はアッケラカンと明るく、また緩急自在の芝居で見せている。

ただ一点、「ナポレオンの村」という、ミスリード的なタイトルで損をしているのが残念だ。

熟年探偵の“ゆるやかな連帯”

「僕らプレイボーイズ熟年探偵社」(テレビ東京系)

若者狙い、女性狙いが目立つドラマの中で、「三匹のおっさん」に続く、テレビ東京らしい独自路線といえるのが「僕らプレイボーイズ熟年探偵社」である。

何しろ主演の高橋克実(54)が最年少だ。共演者も石田純一(61)、笹野高史(67)、角野卓造(67)、伊東四朗(78)というベテランぞろい。まさに熟年の、熟年による、熟年のためのドラマになっている。

リストラに遭った高橋の再就職先が探偵社。元刑事、元五輪選手といった経歴を持つメンバーの仲間になる。毎回読み切りの物語はいわゆるハードボイルドではなく、もちろん殺人など血なまぐさい事件も起きない。迷子のペット探し、初恋の人探し、中高年の引きこもり解消などが依頼の案件だ。とはいえ、その背景には、涙や笑いの人間模様がある。

5人の探偵たちは、それぞれのキャリアを生かして調査を進める。しかも、チームというより個人プレイの集積という雰囲気に好感がもてる。長い間、組織に属して仕事をしてきた男たちにとって、業務命令やノルマはもうたくさんだ。熟年になったら、できるだけ自由に動きたいではないか。この探偵社の“ゆるやかな連帯”が気持ちいい。

また、このドラマではゲスト出演者も熟年となる。田中美佐子、市毛良枝、秋野暢子など、往年の美人女優たちによる練達の演技を楽しめるのも、熟年ドラマの醍醐味だ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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