Yahoo!ニュース

中盤戦に入った「連ドラ」のオススメは!?

碓井広義メディア文化評論家

視聴率がイマイチ振るわないことが話題になる今期の連続ドラマ。しかし、面白い作品がないわけではありません。視聴率という数字に惑わされず、自分が楽しめる1本を見つけるのもドラマウオッチングの醍醐味です。ちょうど中盤戦に入った今期の連ドラの中から、エンターテインメントとしてオススメできる何本かを挙げてみます。

●“ポスト相棒”を探る「スペシャリスト」(テレビ朝日系)

今期のドラマには、独立騒動で揺れたSMAPのメンバーの主演作が複数ある。1本は香取慎吾の「家族ノカタチ」(TBS系)。そして、もう1本が草なぎ剛主演による、この「スペシャリスト」だ。

まず、無実の罪で10年間服役していた刑事・宅間善人(草なぎ)という設定が意表をついている。刑務所で学んだ犯罪者の手口や心理など、いわば“生きたデータ”を武器にしているのだ。

連ドラで重要なのは、“お試し客”をも引きつける初回だが、これがかなり面白かった。

首を吊った小説家の死体が自宅で見つかる。自殺かと思いきや、背中にはナイフが刺さっていた。

奇妙なのはそれだけではない。いわゆる「密室殺人」であり、「見立て殺人」であり、被害者が犯人を示唆する「ダイイングメッセージ」まで残っていた。ミステリー小説の定番要素がてんこ盛りの現場だ。

宅間は捜査を開始する。ところが、途中で容疑者の男が射殺されてしまう。しかも宅間がその犯人として逮捕され、法廷で裁かれ、刑務所に逆戻りするという意外な展開となる。

この辺りから、ベテラン脚本家・戸田山雅司の技が冴えまくる。登場人物が連続して死んでいくことで事態は二転三転。先が読めないので、見る側もワクワクしてきた。

その後、回が進んでも、草なぎは飄々としていながら洞察力に秀でた主人公を好演している。「コメとマイナンバーは一生ついて回るよぉ~」などとつぶやく、ひと癖ある上司(吹越満)や、勝手に動き回る宅間に振り回される女性刑事(夏菜)といった脇役陣も上手く活かされている。

大人が見ても楽しめるのは、さすが東映との共同制作と言うべきか。“ポスト「相棒」”を探る戦略商品だ。

(文中、草なぎの「なぎ」は弓偏に前の旧字体。その下に刀です)

●“特殊能力刑事(デカ)”堀北の「ヒガンバナ」(日本テレビ系)

「ヒガンバナ~警視庁捜査七課~」の主人公・来宮渚(堀北真希)は、異色の女性刑事だ。事件現場に残る犯人や被害者の強い感情にシンクロ(同調)して、彼らの声が聞こえるのだから。

死者と会話が出来た「BORDER」(テレビ朝日、14年)の小栗旬にも負けない、いわば“特殊能力刑事(デカ)”である。

この設定、並の女優だと、嘘くさくて見ていられなかったはずだ。しかし堀北には、この特殊能力をもった、しかも偏屈な刑事がよく似合う。

むしろ普通のパイロット(「ミス・パイロット」フジ、13年)や、普通の看護師(「まっしろ」TBS、15年)のほうがどこか浮いていた、というか居心地が悪そうだった。現実とは違うフィクショナルな存在を、リアルに演じられるのは堀北ならではだ。

また、このドラマでは大地真央、檀れい、YOUら、“濃いめ”の女優たちの競演も堪能できる。中でも堀北に振り回される、正義感いっぱいの相棒が、発泡酒のCMで世の男たちを振り回しているはずの檀れいというのは、ちょっと苦笑いだ。

だが、それ以上に興味深いのは、動画での犯罪予告、スマートフォンを使ったいじめ、そしてカリスマ主婦ブロガーの実相など、“ネット社会の裏面”をストーリーに取り込んでいることだろう。社会の合わせ鏡としてのドラマという意味で、意欲的な1本といえる。

●“愛すべき珍獣”観察「ダメな私に恋してください」(TBS系)

何はともあれ(?)、“深キョン”こと深田恭子である。CMでは常に目にするが、連続ドラマの主演は1年前の「女はそれを許さない」(TBS系)以来だから久しぶりの登板だ。

深キョン、ここしばらく、何してたんだろう。そういえば、私生活もよく分からない。ま、そういう生活感というか、現実感が希薄なところも深田の持ち味だ。

今回のヒロイン、「ダメな私」であるところの柴田ミチコには、そんな深田の“ゆるふあ感”が存分に生かされている。「職なし、金なし、彼氏なし。貢ぎ体質の30歳。会社が倒産し仕事も失う。無類の肉好きで肉のためならどんな努力も惜しまない」というキャラが、こんなに似合う女優も少ない。

そして、このドラマの深田は、何とも理屈抜きでかわいい。正確に言えば、33歳の深田が演じる30歳のミチコがかわいいのだ。

自分に自信がなくて、臆病で、思い込みが激しくて、恋愛を含む人間関係においても不器用なミチコ。でも、その明るさと、世間ずれしていないピュアな内面は、“愛すべき珍獣”とでも呼びたくなる。

つい毎週見てしまうのは、番組の視聴というより、ミチコ=深キョンという珍獣の“観察”なのかもしれない。そう、観察ドラマだから、年下のカレシ・三浦翔平との進展も、元上司で間借り先の大家でもあるディーン・フジオカとの関係も目が離せないのだ。

ライト感覚のラブコメでありながら、全体が実に丁寧に作られていることにも好感が持てる。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事