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やっぱり、クドカンから目が離せない!

碓井広義メディア文化評論家

近年は「あまちゃん」などの脚本家として知られるクドカンこと宮藤官九郎さんですが、今も得難い役者の一人です。現在、ドラマとCMで、その両方の才能を堪能することができます。

●CM~キリン杏露酒「ひんやりあんず」

テレビプロデューサー時代に、「噂の探偵QAZ(カズ)」(日本テレビ、94年)という深夜ドラマを制作したことがある。

QAZ(故・古尾谷雅人さん)はコンピュータを駆使して事件を解決する私立探偵(パソコン探偵と呼んでいた)。パソコンやインターネットが、現在のようなインフラとなる以前の、先取り・実験的なドラマだった。

その時、QAZの弟分で、のちに裏切り者となるチンピラ役を、松尾スズキさんが主宰する劇団「大人計画」の役者だった、若き日の宮藤官九郎さんに依頼した。闇社会のボスの恫喝(どうかつ)に脅えながらも、薄笑いを浮かべて強がる、クドカンのチンピラが見ものだった。

ちなみに、クドカンと対峙する「闇社会のボス」を演じたのは、プロデューサーの私です(笑)。

近年は「あまちゃん」などの脚本家として知られるクドカンだが、今も得難い演者の一人だ。キリン杏露酒「ひんやりあんず」のCMで見せる、妻(宮崎あおいさん)の尻に敷かれた、やや軽めの夫も可笑しい。

妻に向かって料理の味をホメれば、「あんたのママのレシピだよ」と突き放される。恐怖映画を一緒に観ても、「あんたの顔がホラーだわ」と真顔で言われてしまう。その瞬間のクドカンの表情が何ともカワイイ。ツンデレ妻にいじられるのが嬉しくて仕方ない夫がハマリ役だ。

書いても演じても、そこに現出するのはクドカンワールド。ほろ酔い気分で楽しみたい。 

●ドラマ~「ゆとりですがなにか」

確かに「ゆとり世代」と呼ばれる若者たちがアタマにくるのも当然だ。社会人になった彼らは、「使えない、覇気がない、ガッツが足りない、言われたことしかやらない、ライバル意識がない、危機感がない、緊張感がない」など、言われ放題だったのだから。

それに、彼らは好きで「ゆとり」をやってきたわけではない。学校の土曜休みも、薄い教科書も、国が勝手に決めたことだ。それでいて、学力低下となったらポンコツ扱いじゃあ、文句のひとつも言いたくなるだろう。そんな「ゆとり世代」の声なき声を感知し、ドラマの形でカウンターパンチを繰り出したのが、宮藤官九郎脚本「ゆとりですがなにか」(日本テレビ)だ。

まず、登場人物たちのキャラクターが光る。主要人物は、食品会社勤務の正和(岡田将生)、小学校教師の山路(松坂桃李)、客引きのまりぶ(柳楽優弥)、そして正和の同期にして上司、しかも恋人の茜(安藤サクラ、絶妙)の4人だ。

嫁や娘と暮しながら、正和の妹(島崎遥香、役名:ゆとり、好演)に手を出したりするけど、どこか憎めない、まりぶ。積極的な教育実習生(吉岡里帆)にドギマギしたり、性教育の授業に尻込みしちゃう、女性体験皆無の山路。勢いで結婚宣言はしたものの、大いに不安な正和と茜。

いずれも29歳の「ゆとり第1世代」。クドカンは、仕事や恋愛や自分自身との“折り合い”で悪戦苦闘する彼らの姿を、笑える応援のヤジを飛ばしながら描いている。

劇中の山路が言うように、この世代には「他人の足を引っ張らない」「周囲に惑わされずベストを尽くす」「個性を尊重する」といった長所がある。

登場人物それぞれが大混乱の現状に、今週末19日(日)の最終回でクドカンがどう決着をつけるのか、注目だ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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