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「カメレオン俳優」山田孝之、今期も絶好調

碓井広義メディア文化評論家

●「手数料を取る男」で際立つ理不尽さ、うさんくささ

山田孝之の「カメレオン俳優」ぶりが続いている。

一見、人畜無害な好青年風なのに、コワモテ闇金「ウシジマくん」にも、脱力系ヒーロー「勇者ヨシヒコ」にも、見事に成りきってしまうのが山田孝之だ。そして、フリマアプリ「フリル」のCM「手数料篇」が、これまた怪しくて、可笑しい。

フリーマーケットで買い物をした女性が、5000円を支払おうとしている。そこへいきなり現れた、チンピラ風の山田。すっとお金を取り上げ、自分のカバンに入れると、今度は4500円を売り主に手渡す。あれ?と思っていると、「差額の500円は手数料」だと言うのだ。

「世の中、すべて手数料なんだよ」「取られているのは君だけじゃない。俺も取られているからね」などと、山田が優しげに説明すればするほど、その理不尽さが際立つ。

怪訝(けげん)な表情の売り主と同様、視聴者だって納得がいかない。すると、追い打ちをかけるように「販売手数料ってバカバカしい」とナレーションが入り、「手数料ゼロ」だというフリマアプリのアピールが俄然効いてくる。  

「日本一の無責任男」といえば往年の植木等だったが、「日本一うさんくさい男」は俳優・山田孝之を讃える称号だ。

●テレ東「移転」祝い!?「勇者ヨシヒコ」永久保存“神回”

虎の門4丁目から六本木3丁目へ。本社移転で、大いに意気上がるのがテレビ東京だ。11月4日に放送された「勇者ヨシヒコと導かれし七人」第5回も、思いっきりハネた内容だった。

例によって、どこかボーっとしている勇者ヨシヒコ(山田孝之)と、その一行が立ち寄ったのはダッシュ村、じゃなくて「ダシュウ村」。5人の若者(リーダー役はホリ)が、ツナギに長靴という姿で農作業をしている。

聞けば、本当は農作業よりバンド活動をしたいのだが、日テレ、いや「ニッテレン」という名の神がそれを許さないという。これだけで、もう笑える。

ヨシヒコたちは、ニッテレンを倒す手助けをしてくれる神を探し回る。最初がCX(フジテレビ)ならぬ「シエクスン」だが、なんと肩に赤いセーターをひっ掛けたまま、息絶えていた。肩掛けセーターやエリ立てポロシャツは、バブル期のCXプロデューサーを指す代表的な“記号”。しかも、「かつては最強だったが・・」という同情の台詞が入るから苦笑いだ。

次の神は「テレアーサ」で、こちらは、まんま「相棒」の右京もどき(演者はマギー)が登場。一緒に戦うことを誓うが、事件発生のため不参加となってしまう。

唯一、折れ曲がったバナナの格好をした神「テレート」(柄本時生)が、助っ人を引き受けてくれる。しかし、ニッテレンに一発で粉砕されてしまう。この弱さがカワイイ。結局、ニッテレンの正体はジャイアンツのユニホームを着た徳光和夫だった、という素敵なオチで終了だ。

一連の“対決”の間、メレブ(ムロツヨシ)はずっと「まずいんじゃないかな」「やり過ぎだよお」と言い続け、仏(佐藤二朗)も「深くかかわりたくない」と逃げ腰なのが、変にリアルで笑わせる。

いや、確かにここまで他局をネタにするのは前代未聞のことだ。脚本・監督の福田雄一による超過激な“移転祝い”は、「ヨシヒコ」ファンもびっくりの永久保存版、”神回”となった。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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