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2017年を明るくする「新人女優」たち

碓井広義メディア文化評論家

オリコンの専門誌「コンフィデンス」から、映画・ドラマで「来年期待の新人女優」について、取材を受けました。来年のことを言うと、鬼に笑われるそうですが、ざっと以下のようなお話をさせていただきました。

● 中条あやみ、小松菜奈

「期待の新人女優」ということでは、大別すると、日常とはかけ離れたある種のファンタジーとしての女優と、どこかに隙や素朴さを感じさせる女優。その2タイプが現代では求められている印象があります。

圧倒的に少ないのは、誰が見ても美少女というタイプ。明らかに自分たちとは同じ土俵ではないけれど、男女問わず、別次元の存在として憧れてしまう。中条あやみさん(CM『ドコモ』『ハーゲンダッツ』)などが代表格ですね。

とにかく、画面に映るだけでゴージャス感が自然にこぼれ出る。ただ、それだけにドラマや映画での扱いが難しい面はあると思います。2017年には映画『チア☆ダン~』で重要な役どころでの出演がありますが、そんな普通の女子高生役で大丈夫なのか(笑)、心配してしまうほどです。

このタイプでは、小松菜奈さん(映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』)にも注目しています。2人とも、来年はかなり話題になるでしょう。

● 森川葵、石井杏奈

もう一方の、“隙がある”タイプというのは、全体に、何か物語を持っていそうな空気感がある女優さんと言い換えてもいいと思います。

あるいは地方色かもしれません。いえ、実際に地方在住という意味ではなく、いわゆる都会的洗練とは違った魅力。地方にいながら自分を探して密かに努力している感じというか。単純にスターを目指すとかではなく、どこか屈折して秘めた思いがあるような。

そういう意味で、例えば森川葵さん(NHK・BS/プレミアムよるドラマ『プリンセスメゾン』で主演)は、女の子の集団の中にいても気になってしまう存在感があります。何かを背負っていて、奥行きを感じさせるような役柄ができるのは貴重ですね。

東京出身の石井杏奈さんも、映画『ソロモンの偽証』やドラマ『仰げば尊し』(TBS系)などで見せてくれたような、どこか痛みを抱えた役がとても似合います。元気で可愛いけれど、決してそれだけではない。実年齢と重なりながら成長していて、来年が楽しみな女優さんです。

いずれにしろ、実人生は、まだせいぜい20年くらいしかないわけですから、実際に闇を抱えているかどうかの問題ではありません。それを想像させる余地があるか、ということであり、そういう意味での隙間が重要ということです。

感情移入できる余白としての隙は、見ていてホッとできる親近感にもつながっていきます。そうした要素が求められる背景には、時代の閉塞感があるのではないでしょうか。

簡単な例で言えば、ちょっと息苦しい炎上社会ですよね。ソーシャル疲れ、SNS疲れという現象もあります。息抜きしたい、癒されたいという無意識の傾向はもっと強まるのではないかと思っています。

完璧な美女や美少女というのは、近寄りがたく、どこか緊張を強いられる面がありますしね(笑)。もちろん、前述のように、そういう美しさを求めるニーズも決して無くなりはしませんが。

● 上白石萌音、永野芽郁、八木莉可子、平祐奈、深川麻衣

他にも、注目する新人女優が何人かいます。

まだこれからという方も多いですし、無理にタイプ分類はせずに置きますが、たとえば上白石萌音さん(映画『君の名は。』でヒロインの声)は、今後の“顔出し”演技での世界観の作り方に期待しています。

永野芽郁さん(フジテレビ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』)は正統派の美少女ですが、ちょっと二面性のある役どころなどにも挑戦してみてほしい。

八木莉可子さん(CM『ポカリスエット』)もどう成長するのか、非常に楽しみです。

平祐奈さんは、映画『ぼくが命をいただいた3日間』(2016年3月公開)での落ち着いた演技に感心して以来、注目していますね。

ちなみに、個人的に応援している「乃木坂46」ですが(笑)、その関連の人材として、女優転向宣言をして卒業した深川麻衣さん(『プリンセスメゾン』に出演中)に期待しています。

これは全ての「これからの女優さん」に共通して言えることですが、小さな役からコツコツと。って、西川きよしさんみたいですが、基本的には、そこでどう埋没せずに輝けるかが勝負です。「みんな、がんばれ!」とエールを送りたいですね。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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