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今期ドラマも終盤だが、『スーパーサラリーマン左江内氏』の小泉今日子を見逃すな!?

碓井広義メディア文化評論家

堤真一主演『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)は、今期ドラマで最も笑える一本である。とはいえ誰もが笑えるかどうか、それは微妙。何しろ、脚本・演出が『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)の福田雄一監督なのだ。爆笑よりは苦笑という、あのテイストが好きなら、とことん楽しめる。

地味なサラリーマン・左江内(堤)が、ひょんなことから「スーパーマン」になった。というか、スーパーマンより「パーマン」に近い。コピーロボットならぬコピー人形も出てきたし、大人の「パーマン」だ。

会社ではほぼ戦力外で、家庭では嫁の円子(小泉今日子)に支配されている左江内だが、遊園地の爆弾事件を解決したり、コンビニ強盗を取り押さえたりと大忙しだ。

しかし、そんな活躍よりも、このドラマのキモは左江内と円子の家庭内バトルにある。一度言い出したら誰も止められない円子と、ほぼ無抵抗の左江内のやりとりが毎回、苦笑いを誘う。

特に円子に関しては、演じる小泉の愛すべき“ヤンキー性”をフル活用すべく、藤子・F・不二雄先生の原作漫画より強烈なキャラに変更されており、バトルというより常に円子の一方的勝利だ。

たとえば、風呂でくつろぐ左江内に、「お前に、のんびりする権利はないんだよ~」と家事を強制。また料理についても、「頭の付いている魚は無理。私にとって、お魚ってお刺身だから」とニベもない。けれど、そんな小泉がとびきりカワイイのだ。

夜の寝室で、夫婦の話題が芸能人の不倫問題に及んだ時、円子が左江内に言う。「(左江内が)万一でも不倫したら、ぶっ殺すだろうなあ。よくさあ、冗談でぶっ殺すって言うじゃん」と、ここまでは半ば笑いながら。そして左江内をじっと見つめ、「(お前を)リアルに殺す!」ときた。まさに元ヤンの鬼嫁。小泉の凄艶な表情が絶品だ。

今回の小泉を見ていて、ふと思い出すのがNHK朝ドラ『あまちゃん』である。あのドラマの冒頭は、故郷・北三陸の駅に春子(小泉)とアキ(能年玲奈、現在は「のん」になっちゃったけど)が降り立つシーンだった。寂れた小さな町にいくなり現れた春子は、見る者が「空白の24年間」を想像したくなるような、“女の軌跡”オーラを全身から放っていた。

1984年、聖子ちゃんカットの春子(若き日を演じたのは有村架純)はアイドルになるべく、家出同然で東京へと向かった。しかし、大人になった春子(小泉)は目的を果たせないまま結婚し、子育てを続け、今度は夫を置いて故郷に帰ってきたのだ。

ノーメークに近い顔。ややふっくらした体型を包む服装。そしてスナック「梨明日(りあす)」のカウンターの中から、「あんた、本当にわかってんの!」とタンカを切る凄み。その“ヤンキー”なイメージも、どこか若き日の小泉本人とオーバーラップするものがあった。そんな春子と円子が、微妙に重なって見えるのが面白い。

このドラマには、『勇者ヨシヒコ』から出張してきたかのような刑事役のムロツヨシや、占い師や回転寿司の店員などに扮して神出鬼没の佐藤二朗も登場し、例によってマイペースで自由な芝居を繰り広げる。

深夜ドラマの”トンガリ感”と、週末ゴールデンの”ゼイタク感”。その無理やりなハイブリッドで爆走する、福田ワールド全開のドラマだ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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