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『逃げ恥』石田ゆり子さんの「清純」と「エロス」、現在も進化中!?

碓井広義メディア文化評論家

社会現象にもなったヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)。新垣結衣さん、星野源さんはもちろん、ヒロインの伯母を演じた石田ゆり子さんも注目された。

先日、審査員を務めさせていただいている「コンフィデンスアワード・ドラマ賞年間大賞2016」が発表されたが、2016年を代表するドラマとしての作品賞は、やはり『逃げ恥』となった。主演女優賞も『逃げ恥』の新垣結衣さんかと思われたが、最終的に『トットてれび』(NHK)の満島ひかりさんに決定。しかし、助演女優賞には『逃げ恥』の石田さんが選ばれた。

あのドラマでの石田さんは、仕事のできるキャリアウーマンにして独身。部下を率いるしっかり者が、ふとした瞬間に見せる素顔や本音がチャーミングだった。

しかし、女優としての凄さはそれだけではない。たとえば『さよなら私』(NHK、2014年)では、高校時代からの親友(永作博美さん)の夫(藤木直人さん)との不倫関係を演じていた。

石田さんは独身の映画プロデューサーで、永作さんは専業主婦。ふとしたきっかけで、永作さんは夫の浮気相手が石田さんであることを知る。言い争う2人だったが突然、互いの心と身体が入れ替わってしまう。大林宣彦監督の懐かしい映画『転校生』みたいな現象だ。

なんと石田さんは、永作さんの意識を抱えたまま、藤木さんと抱き合うことになる。難しい芝居だ。不安と戸惑いの中で過ごすうち、今度は石田さんの心を持った永作さんがガンに侵されてしまい・・・という展開だった。

この年代の女性の微妙な心理を、本音と建前も含めて丁寧に描き出した脚本は、この4月からのNHK朝ドラ『ひよっこ』を手がける岡田惠和さんだ。石田さんと永作さんは複雑な役柄を繊細な演技で表現し、大人が見るべき1本になっていた。

また『コントレール~罪と恋~』(同、16年)は、過って自分の夫を死なせた男(井浦新さん)と禁断の恋に落ちる、切ないラブストーリーだった。

石田さんが演じたのは45歳の未亡人だ。幼い息子の母親としての自分と、一人の女性としての自分。その葛藤に揺れながらも、あふれ出す情念を抑えきれない。鏡の前で、久しぶりにルージュを手にする表情など絶品だった。

どちらのドラマも、石田さんが併せ持つ「清純」と「エロス」に驚かされた。

そんな石田さんが目の前にいる。そしてグラスに“大人のビターチューハイ”を注いでくれる。それが現在放送中のキリンチューハイビターズのCM「あなたの顔」編だ。

画面には、テーブルをはさんで“差し向かい”になった石田さんしかいない。しかもグラスを差し出しながら、あの笑顔で「ゆるんで、いいよ」とか、「もっと、ゆるも」なんて言ってしまうのだ。そりゃもう乾杯どころか、完敗です。

<参考>「コンフィデンスアワード・ドラマ賞年間大賞2016」の結果

作品賞:『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)

主演男優賞:山田孝之/『闇金ウシジマくん Season3』(MBS/TBS系)、

『勇者ヨシヒコと導かれし七人』(TX系)

主演女優賞:満島ひかり/『トットてれび』(NHK総合)

助演男優賞:草刈正雄/大河ドラマ『真田丸』(NHK)

助演女優賞:石田ゆり子/『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)

脚本賞:野木亜紀子氏/『重版出来!』(TBS系)、

『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)

新人賞:ディーン・フジオカ/連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)、

『ダメな私に恋してください』(TBS系)、

『IQ246~華麗なる事件簿~』(TBS系)

審査員特別賞:岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥/

『ゆとりですがなにか』(日テレ系)

http://confidence-award.jp/

(主催:エンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』)

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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