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東日本大震災の災害心理学:命と心を守るために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
仙台の津波被災地を走る自衛隊の車

こんにちは。新潟青陵大学の碓井真史(うすいまふみ)です。「心理学総合案内こころの散歩道」では、東日本大震災の直後から、「東日本大震災の災害心理学:命の心を守るために」としてページをアップしてきました。震災から2年を前にして、災害発生時にどう生き残ったらよいのか、そしてこれからをどう生きていくのかを、考えたいと思います。

震災直後:まずはじめに安心安全を

「泣いてもいい。でも一人ぼっちで泣かないで」

震災直後に必要なことは、専門家のカウンセリングなどではなく、安心して、寝ること食べることです。水と食料と毛布と、安全な場所と、適切な情報。そして、心の問題として言えば、孤独感に陥らないことです。大切なのは、身近な人との交流でしょう。

避難所生活から仮設住宅、復興住宅へ

より良い避難所生活のために。 次々と避難者が集まる混乱期から、生活確保期、秩序確保期、自立運営期(機能回復期)と避難所生活が安定し、そして人々が出て行く避難所解消期となります。混乱期においても、たとえば避難所のトイレを正しく使えれば、ずっときれいなトイレが使えるでしょう。避難所はいずれ解消されますが、避難所からは社会的強者から出て行くでしょう。また、避難所の統廃合、仮設住宅、復興住宅と、転居を繰り返すことは、心の負担になります。

郡山市の仮設住宅(ここでは支援活動が活発でした)
郡山市の仮設住宅(ここでは支援活動が活発でした)

東日本大震災では、混乱期があまりに長く続いたと思います。身体の健康を失った人も多く、またその時の「見捨てられ感」で、深く傷ついた人も多いでしょう。さらに福島県では、何度も転居を繰り返した人も多く、心身の大きな負担になったことでしょう。

今回は、仮設住宅での生活も長引いています。郡山市の仮設住宅を訪問した時にお聞きした言葉です。「住まいに「仮」はない。 より良い暮らしやすい環境を、あたたかで豊かな人間関係を」。ただ、このように良い活動が行われている仮設住宅と、なかなか上手く行かない所とがあるようです。

東日本震災後に、様々な理由で亡くなった震災関連死の半数は、福島県の方々です。放射線問題で苦しみ、生活に苦しみ、人々の心ない言動で苦しむ人もいます。 

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ご家族、友人を亡くされた方へ

ご家族、友人を亡くされた方へ。  このような形で、大切な人を失えば、大きく心が傷つくのは当然です。まだたった2年です。心はゆっくり癒されます。死別の現実を受け入れ、しっかり長く深く悲しみ、その後で、少しずつ元気になるでしょう。

感情を外に出す、孤独の世界へ逃げ込まないなど、死別の悲しみを癒す10のポイントなども研究されています。

葬儀の花(イメージ)
葬儀の花(イメージ)

ご家族ご友人を亡くされた方をケアする人は、特に悲嘆のプロセスごとの注意点・災害時の特殊性を理解しておくことが、助けになるでしょう。深く長く悲しむことは当然ですが、「病的悲嘆」になってしまうと、前に進めなくなります。また、こんな言葉も、時にはご遺族を苦しめます。これであの人は楽になった・寿命だった・年齢は十分・あなたは生きていてよかった・がんばって乗り越えましょう・お気持ちはわかります。

災害弱者を守るために

子ども、子どもの親、高齢者などは、災害時にも社会的弱者となりかねません。子どもの心のケア高齢者の心のケア両親の心のケアを、それぞれの特質に応じて考えましょう。

災害後の子どもを見ると、弱い子、悪い子になったように見えることがあります。災害後の「赤ちゃん返り(退行現象)」などの知識を持っていても、ずっとこのままで半という不安に負けそうになることもあります。でも、大丈夫です。子どもたちは立ち直ります。また、逆にとても優等生になることいますが、無理はさせないようにしたいものです。

高齢者にとっては、自分の家や町、そして自宅にあった思い出の品の数々を失うことは、若い人には理解できないほどの大きな苦しみになるでしょう。近くにいる方々は、ぜひお話を聞いてほしいと思います。

お父さん、お母さん方は、本当にがんばってきました。いつも、その時々にできるだけの最善を尽くしてきたと思います。この先も、子どもを守っていくためための大切な仕事のひとつは、ご自分を守ることです。どうぞ、ご自愛ください。

災害発生時に自分や家族の命を守るために

パニックは、防がなければなりません。しかし、人々はパニックよりも、逃げ遅れで命を失います。最悪は、逃げ遅れたために、パニックになってしまうことです。

新しい津波警報は、逃げ遅れてパニックにならないためのひとつの方法でしょう。「津波てんでんこ」の教えも同じです。これは、決して自分勝手に逃げろではなく、指示待ちをせず、自主的に避難せよであり、目の前の人は助けなさいという教えです。そして、パニックの心理学によれば、自分だけ助かろうとせず、人のことも考えると、冷静になれるとされています。

災害報道による心の傷:共感疲労

災害報道による共感疲労に陥る人もいます。 災害の状況を知ること、忘れないことは、いうまでもなく大切です。しかし、中には心身の不調をきたしてしまう人もいます。無理をする必要はないでしょう。それだけ共感しているあなたですから、自分の心身の健康を守ってこそ、被災地支援もできるでしょう。

被災地で働くプロを守ろう

大災害では、プロも疲れ、傷つきます。消防士、警察官、海上保安庁のみなさんなど、被災地で働くプロを守りましょう。 

彼らは、弱さを出せず、時には家族にも言えない守秘義務を持ちます。悲惨な遺体を扱う・子どもの死に接する・被害者が肉親や知り合いである・活動中に自分自身、または同僚が負傷する、あるいは殉職する・十分な活動ができない・活動に対して批判、非難を受ける。こんなときは、特に大変です。あなたが理解を示すことも大切です。

人々を傷つける言葉、態度

言葉は、何を言うかではなく、いつ言うかが大切です。だから、「禁句」といったものを機械的に決められないと思うのですが、やはり被災者を傷つけない言葉態度は、考えたいと思います。「被災者」という言葉も、「弱者」も、時に人々を傷つけます。

がんばってください・前向きに行きましょう・早く忘れましょう・泣いてはいけません・気持ちはわかります・私にはとても耐えられません・あなたはまだましという言葉で傷つく人は少なくなく、「復興」という言葉が辛く感じる人もいます。

「がんばれ」と言ってもいい人は、その方の深い悲しみと懸命な努力を理解している人だけではないでしょうか。

ASDとPTSD

災害発生直後に発生するのは、ASD:急性ストレス障害です。これが尾を引いてPTSD:心的外傷後ストレス障害にならないようにしたいと思います。大きな天災や列車事故などは、PTSDになりやすいため、特に注意が必要です。

ショッキングな出来事があっても、その後のケアが十分なら良いのですが、むしろストレスが重なる場合もあるでしょう。原発避難者の6割にPTSDの可能性があるとする調査もあります。

PTSDの症状として、突然あの時の感情がよみがえるフラッシュバックなどは、激しく辛い症状ですが、心のバランスが乱れているとわかりやすいでしょう。でも人生の選択がしにくい、なにか気弱になってしまったなどは、PTSDの症状としてわかりにくく、自分を責めたり、他の人から責められることもあるかもしれません。

東日本大震災から2年

2年がたった今だからこその心の問題があります。

このテーマは、引き続きアップしたいと思います。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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