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いじめ・体罰の深刻化(犯罪化)、いじめ自殺・体罰自殺を防ぐために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
子ども達、若者達に笑顔を

大津のいじめ自殺事件、大阪の体罰自殺事件。そのあとも、いじめ体罰自殺に関連した出来事が、次々報道されています。いじめは、被害者に大きな心の傷を残し、体罰は違法であり、自殺は、止められる死であり、止めるべき死です。

■現代的いじめ

昔のいじめは、ジャイアンがのび太をいじめるようなスタイルです。スネ夫のような取り巻きもいますが、守ってくれるしずかちゃんもいるし、正義の味方の出木杉(できすぎ)くんもいます。

このようないじめであれば、のび太は、「ドラえもん〜、ジャイアンをやっつけてくれよぉ」となります。

ところが、現代型のいじめは、クラス全体で、一人の子を長期的にいじめます。出木杉くんのような優等生タイプも、いじめのターゲットになり得ますから、正義の味方は出にくくなります。

子どもは、クラス中からいじめられると、世界中からいじめられていると感じます。こうなってしまうと、いじめ被害者は、いじめっ子をやっつける発想ではなく、自分自身がダメな人間だと感じてしまうでしょう。

■いじめの深刻化(いじめから犯罪へ)

最初は、「いやがらせ」のレベルだったことが、本格的な「いじめ」に進んでいます。さらに放置されれば、恐喝や傷害とも呼べるような犯罪的な「いじめ非行へと進んでいきます。

いじめは、いじめっ子の心理的問題から発生しやすくなりますが、掃除をやらせたり、金銭を得られたりするようになると、心理的満足感に加えて実際上の利得を得られるようになり、いじめがさらに深刻化、犯罪化していくでしょう。

佐賀県の中学1年の男子生徒が、昨年4~10月の約半年間にわたって、同学年の男子生徒少なくとも13人から暴行されたり、総額約70万円を脅し取られたりするいじめ(犯罪被害)を受けていたとの報道もありました(2013.3.21報道)。

文科省は、「犯罪行為になるいじめの例」をあげています(2013.5..17報道)。

■いじめ、体罰許容環境と体罰の深刻化

いじめたい心、体罰を加えたい気持ちになっただけでは、継続的ないじめや体罰は起こりません。いじめたい、体罰をしたいと思った人が、いじめ許容環境体罰許容環境に置かれたとき、行動が生まれます。

クラス中からいじめられていると感じているときですら、実際は違うでしょう。いじめっ子(加害者)がいて、はやし立てる取り巻き(観衆)がいて、そして見て見ぬふりをする人々(傍観者)がいます。

悪いのは、もちろん加害者ですが、実は「傍観者の存在」が加害者の行動を後押しします。たとえば、私がゴミを室内に捨てたとします。正義の味方が直接注意しなくても、みんなが非難の目で見れば、私はそれ以上ゴミを散らかさないでしょう。

ところが、みんなが見て見ぬふりをすれば、私はまたゴミを捨てます。すると、一緒になって無造作にゴミを捨てる人々が表れます。しだいに部屋中がゴミだらけとなり、そうなってしまうと、正しくゴミ箱にゴミを捨てる人の方が、気まずく感じるほどになるでしょう

部活、スポーツチームなど、閉じられた社会で、体罰が行使されほどの強い権限を一人の人が持ってしまえば、行動は悪化しがちであり、受ける側も甘受しやすくなります(日本体育心理学会緊急声明)。

今回問題になった高校の教師は、傷害罪で書類送検されました(2013.3.22報道)。本人も、「単なる体罰(というレベル)ではなかった」と、容疑を認めています。また、コーチの体罰が大きく報道された女子柔道の選手達は、全くの演技で、感謝の寄せ書きを贈るなどコーチとの偽りの信頼関係を作っていったとも述べています。

(いじめや体罰の被害を受けているのに、喜んで進んで従うかのようにになってしまうのは、監禁された人が「模範囚」になる「プリゾニゼーション」に似ています。「アメリカ監禁事件の犯罪心理学」・「監禁の心理学:逃げられない理由・脱出できた理由」:20130517補足)

生徒、選手だけでなく、保護者や教職員、関係者まで、いじめや体罰を見て見ぬふりをしてしまう環境では、加害者としては、いじめ、体罰を認められたように感じて行動をさらにエスカレートさせていくでしょう。被害者は、ますます孤立無援の思いを深めていくでしょう。

補足(2013.3.23)

文科省が全国で行っている体罰調査において、兵庫県の中学校で、「父母会の会長が「体罰なし」と回答するよう保護者に要請」との報道もさています。

また、ただの友だちのような力のない教師は、生徒の統制がとれず、いじめ許容環境ができやすくなります。一方、体罰を使うような高圧的な教師のクラスでは、子ども達がまねをするために、やはりいじめ許容環境が生まれやすくなると言われています。

■いじめ、体罰による心の傷

体罰で人を動かすことはできるでしょう。同時に、体罰には大きな副作用(危険性)もあります。その一つが、体罰を受ける側の心の健康を破壊することです。

体罰の5つの副作用(危険性):Yahoo!ニュース「碓井真史の心理学でお散歩」

女子柔道の体罰問題に関連した、日本オリンピック委員会(JOC)による「暴力行為を含むパワハラ、セクハラについてのアンケート調査」よると、「誰も信用できなくなった」「死んだら楽になると思った」といった選手達の声も紹介されています。

いじめは、客観的には小さな出来事ですら、大きな心の被害を引き起こします。たとえば、使っていたノートが破られていたとしたら、被害額は100円かもしれませんが、心は大きく傷つくでしょう。

さらに周囲の人々が助けてくれない、見て見ぬふりをしていると感じれば、被害者は孤独感におちいり、SOSを出すこともできなくなってしまいます。

■自殺への思い

自殺を考える人は、弱い人、無責任な人、命を大切にしない人でしょうか。そうではないと思います。むしろ、まじめで、責任感が強く、命や人生をしっかり考える人でしょう。だからこそ、悩みが深くなります。

自殺は、孤独の病だといわれています。病苦や経済苦などに加えて、この問題はもう解決できないという絶望感、この苦しみを理解してはもらえないという孤独感の中、今の苦しみと比べたら死んだ方がましだ、死んでしまえばみんなにご迷惑をおかけすることもないだろうと考えてしまうようです。

特に若者の「死にたい」は、心の底では「幸せになりたい」です。ただその方法が分からなくなっています。また子どもの自殺の場合は、死の意味を理解しないままの自殺があるといわれています。

子どもの自殺の特徴としては、小さな動機、衝動性、確実な方法があげられます。

自殺は、心の自殺準備状態が高まっているときに、何かのきっかけがあると、実行への思いがわいてきます。「いじめ自殺」「体罰自殺」と単純に考えてしまうことは、自殺予防の上からはむしろ逆効果です。

大きな自殺報道は次の自殺を生む危険性を高めますが(自殺の連鎖)、精神的に不安定になっている人、同じような問題で悩んでいる人は、要注意です。みんなで見守ること、一言声をかけることが必要です。

■いじめ、体罰をゆるさない

大きな事件が報道されると、日本中の教育現場が非難されることがあります。学校は何もやっていないなどという人もいるほどです。しかし、多くの学校では様々な活動をしています。

普通の学校であれば、生徒を何十発も叩くような体罰が見過ごされたままになることは考えられません。生徒からいじめの報告を受ければ、それがいじめの定義に当てはまるかどうかなどを考える前に、被害者、加害者両者に働きかけ、問題解決を目指しています。

ただ、たしかに一部の学校やスポーツでは体罰が黙認されることもあるでしょう。また一部の生徒指導困難校では、いじめに対する対応が不十分なところもあるでしょう。学校が子どもを支え、社会が学校を支えたいと思います。

また、全国の学校で行われている「いじめ撲滅運動」「いじめ防止運動」など、そんなことをしてもいじめはなくならないと言う人もいるかもしれません。

けれども、いじめはダメだ、体罰はダメだという雰囲気を作っていくことは、とても大切です。一人の正義の味方が登場しなくても、何もしない傍観者を減らすこと、やっぱりダメなんだという心理的環境を作ることが、いじめ、体罰の深刻化を防ぐでしょう。

被害者にとっては、仮にすぐに問題が解決しなくても、孤独ではないと思ってもらえることが大切です。

その上での、いじめ加害者や、体罰を行っている人への対応となるでしょう。

☆いじめ、体罰を受けている君へ☆

よく頑張ってきました。えらいぞ、すごいぞ。このページを読むだけでも、勇気ある行動です。君は、いじめや体罰に負けず生き抜いてきたサバイバー、勇者です。

希望はある
希望はある

さて、君の問題は解決が可能です。だれでもいい。話しやすい人に話してください。できれば、大人の人に。大人に話して裏切られた人もいるかもしれないけど、まだあきらめないで。他にも大人はいます。

世界中が君の味方です。大人に話すことは、チクることではありません。仲間を裏切るのがチクリですが、いじめや体罰を放っておいたら、誰にとっても困ったことになります。大人に話すことは、卑怯なことではなく、正しことです。

大人に話すことは、弱虫のすることではありません。大人に話すことで、君の勇気を示してください。

みんなと一緒に、この問題を解決しましょう。君も、幸せになれますから。

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子どもの人権110番(法務省による無料電話相談)

0120-007-110(全国共通・無料:いじめ、体罰、虐待などで悩むあなたのために)

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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