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ガンバ大阪サポーターによるマスコットへの「非常に卑劣な行為」から考えるいじめと攻撃の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
楽しいサッカー観戦を

サッカーJ2のガンバ大阪は3月22日、一部サポーターが対戦チームロアッソ熊本のクラブマスコットロアッソくんに「非常に卑劣な行為」をしたとして、クラブ公式HPで謝罪]しました。着ぐるみの頭部を脱がせたなどの行為があったようです。

〜一部のガンバ大阪サポーターが試合前にロアッソ熊本マスコット(ロアッソくん)に対して、非常に卑劣な行為をしたことが判明しました。ロアッソ熊本の関係者の皆さま、ならびにファン・サポーターの皆さまに対して、深くお詫び申し上げます。

〜クラブとしての処分を課すとともに、サポーターと話し合いを行い、今後、この様な行為が無いよう、再発防止に努めて参ります。

出典:ガンバ大阪公式HP.ロアッソ熊本戦@うまスタ ガンバ大阪サポーターの行為について

■悪いことをするのは悪い人か

この行為が、タブーであり、卑劣な行為であることは、多くの人が同意するでしょう。では、こんなとても悪いことをする人は、とても悪い人でしょうか。

悪い人も悪いことをするでしょうが、「悪い人が悪いことをした」では、何の説明にもなりません。そして人は、しばしば普段は悪くない善良な人も、悪いことをしてしまいます。

■攻撃の心理

人はなぜ他者を攻撃するのでしょうか。金銭を得るためや、邪魔者を消すために攻撃や脅しをかけることもあります。これは、「道具的攻撃」です。怒りなどの感情がない道具的攻撃もあります。一方、自分の得にもならないのに、感情的に攻撃することもあります(「反応的攻撃」)。

それは、いじめとなったり、八つ当たりになったり、乱暴な行為になったりするでしょう。

攻撃心の基本は、欲求不満とされています。人は、良い感情の時には良いことをしたくなりますし、イライラしているときには、破壊的行動がしたくなるでしょう。

良い気分の時に空き缶を見つければ、ゴミ箱に捨てられる人も、悪い気分の時には、踏みつけたり、け飛ばしたくなるものです。

不景気の時には暴動が起きやすくなるという心理学の研究もあります。スポーツの試合で、負けた方の観客が騒ぎを起こすことも珍しくはありません。

名門ガンバ大阪は、昨シーズン屈辱のJ2降格を経験しました。今シーズンのJ2でも、思うような試合ができない部分もあったようです。サポーターのみなさんのストレスは、昨年来かなりたまっていたことでしょう。

実際の攻撃行動には、欲求不満だけでは不十分です。何かのきっかけが必要です(攻撃に関する「欲求不満手がかり仮説」)。

カッとなったときに、目の前に包丁やピストルがあると、攻撃をしやすくなるでしょう。素手で殴るよりも、物をぶつける方がしきいは低いでしょう。

欲求不満がたまり、攻撃の相手、道具、方法、雰囲気などがあるとき、攻撃行動がうまれます。

■いじめの心理

対等な攻撃の応酬は、けんかですが、一方的に攻撃し続けるのは、いじめです。マスコットへの攻撃は、いじめの心理に近いかもしれません。

いじめたくなる人の心の問題は、一般的に次のようなものです。

満たされない権力欲・傷つきやすい自己愛・肥大した自我・人間関係の不安・適切な行動の未学習、欲求不満、ストレス発散、自己嫌悪感などです。

本当は、もっと強く堂々としていたいのに満たされない。本当は愛されたい、ほめられたいのに満たされない、人間関係に不安がある、自信を失っているときなど、誰もが誰かをいじめたくなります。

応援するチームが負け続けたファンの心も、近いかもしれません。

もちろん、これらの心理的な理由があるからと言って、不当な攻撃やいじめを正当化するものではありませんが。

着ぐるみの頭部を脱がせる行為は、物を壊したり、人の体を傷つけたりすることに比べたら、軽い行為かもしれません。実行した人は、ちょっとした悪ふざけだった、悪気はなかったと言いたいかもしれません。しかし、それはとても効果的に心を傷つける行為であり、だからこそガンバ大阪自身が「非常に卑劣な行為」として謝罪したのでしょう。

物理的、法的には重くなくても、あるいはそれほどの悪意がないときですら、関係者の心を大きく傷つけるのが、いじめです。

教育現場のいじめは、大きな社会問題であり、特にいじめ自殺は深刻な問題です。

今回の一部サポーターの問題でも、とても傷ついたり、非常に怒っている関係者も大勢いることでしょう。

■みなさんへ

サッカーは、とても盛り上がるスポーツです。応援も楽しいものです。その一方、悲劇も生まれています。歴史に残るような出来事でなくても、怒ったサポーターによる乱暴は起きます。

数年前、負けが続いた新潟アルビレックスの一部サポーターが、アルビの選手が乗るバスのバックミラーを壊すという事態が起きました。その出来事を重く見たサポーターとチームは、真剣な話し合いを行い、もう一度互いの信頼関係を取り戻すことができました。

新潟アルビも、ガンバ大阪も、すばらしいサポーターを持つチームです。しかし、どんなすばらしい人々も、怒ることがあり、失敗をします。心理学的に言えば、感情的に怒っている人の多くは、心の中で泣いている人です。

人は、うずまく感情を心の中で処理できないとき、行動化(アクティング・アウト)を起こします。その不適切な行為で、さらに共感が得られず、非難され、自制心を失えば、事態悪化の悪循環が始まります。

熱く楽しい応援を
熱く楽しい応援を

しかし、事が起きたことは、良いきっかけになることもあります。「雨降って地固まる」「災い転じて福となす」です。臨床社会心理学の研究によれば、人が本当に反省したときには、やけをおこさず、必要な責任を取った上で、関係修復を目指します。ガンバ大阪、ロアッソ熊本をはじめ、各チームのすばらしい試合と、サポーターのみなさんの見事な応援ぶりを期待しています。

*今回の出来事に関しては、詳細は不明です。特定の人々を責めることが目的ではありません。ただ、タイトルのような形で謝罪と報道がなされ、多くの人々が意見を表明していることをきっかけにして、社会問題となっているいじめ問題について考えてみました。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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