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オセロの中島知子さんのケースから考えるマインドコントロールの解き方

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
マインドコントロールのワナがあなたと家族を狙っている。

■オセロ中島さんの現状

ようやく救出できたと思われていた、お笑いコンビ「オセロ」の中島知子さん。本日2013.3.26の報道によると、関係者は、

「(現状では復帰は)全く無理だ」

「復帰は全く決まっておりません」 と語っています。

本人の言葉としては、

「(霊能師を)歌手デビューさせたい」

「悪いのは私で彼女は悪くない。彼女(霊能師)を救うためならテレビに出る」

「今すぐ会いたい。彼女を救うためだったら自分がテレビに出て本当のことをしゃべりたい」

「彼女に尽くすのが人間としての正しい道だ」

などと話していると言います。

中島さんの身柄は解放されたのですが、心はまだ縛られたままのようです。

(補足2013.3.28報道)

(「今やりたいこと」と質問され、真っ先に口にしたのが女性(自称霊能者)との再会。「彼女に会いたいです」と。そして「(女性に)迷惑ばかり掛けてしまった。彼女は普通の人。自分が悪かっただけでマインドコントロールなんかされていない」と擁護し、「復帰したい。芸能界の仕事に戻りたい」と意欲を示している。)

実は、中島さんに限らず、多くの人がマインドコントロールの被害を受けているのです。中島さんをはじめ、カルトから家族や親友を守るには、どうしたら良いのでしょうか。

自称霊能師の正体

当初、悪者扱いでしたが、後に長時間インタビューに応じ、自分は悪くないと説明しています。このインタビューを、一部マスコミ関係者はいったんは信じたほどです。

   自称霊能者に支配された561日
   自称霊能者に支配された561日

しかし、このときの弁明、「自分は悪くない。中島さんの意志に従っただけ」は、マインドコントロールを使う人々がよく使う手です。私も、そのインタビューが報道された翌日に、フジテレビの「知りたがり」に出演し、説明をしました。

その後、この自称霊能師にだまされていた別の被害者夫婦が、手記を発表しています。

『自称霊能者に支配された561日:中島知子さんもかかった罠』 (廣済堂新書)  千主 ひかる著

この本には、言葉巧みなマインドコントロールの罠に掛かり、夫婦して言いなりになっていく様子が、克明に描かれています。個人カルトのだましの手法の実際がよくわかる貴重な記録だと思います。私も、原稿段階でお読みし、本書の最後に解説を書かせてもらいました。

■マインドコントロールを使う様々な破壊的カルト集団

マインドコントロールを使うカルト(破壊的カルト)には、「宗教カルト」の他に、悪質な自己啓発セミナーなどの「心理カルト」、ネズミ講などの「経済カルト」、病気が治る等と言ってだます「健康カルト」など様々な種類があります。

今回のオセロ中島さんのケースのような少数グループは、「少数カルト」「個人カルト」と呼ばれています。

■カルトからの脱出、マインドコントロールの解除はなぜ難しいか

マインドコントロールとは何か

1 人生観の転換

普通の詐欺なら、結婚とか、株の上場とか、ある部分の嘘だけをつきます。ところが、マインドコントロールは、人生観、世界観、人間観の根底から作り直されてしまっています。

2 情報のコントロール

組織、教祖以外からの情報を禁じます。そのため、嘘に気づけなくなります。

3 行動のコントロール

組織や教祖の言うことをきかず、禁止されている行動をとると激しく罰せられます。

4 感情のコントロール

言うことをきかなかったり、脱会すればひどい目に逢うと脅されています。その不安と恐怖心によって、マインドコントロールを解くことが難しくなります。

5 洗脳的手法による健康被害

薬物を使ったり、眠らせなかったり、栄養のバランスを極端に崩したりしたために、健康を失い、正常な判断ができなくなっている場合があります。

6 脱マインドコントロール手法の事前情報

悪者、サタンが、善人の顔をして、家族の体を借りて、脱会させようとする。彼らはこんな方法を使うと、事前に教えられています。ですから、マインドコントロールを解こうとしても、最初から警戒心が強くなっています。

7 カルトによって、すでに多くのものを失っている

周りが心配するころには、本人はすでに多くのものを失っています。お金、仕事、信頼関係、様々な人間関係、健康。もう戻れないと感じてしまいます。カルトや教祖のもとにいれば、ゆがんだ形ですが、賞賛や安心が得られるために、マインドコントロールを解除し、脱会させるのには、大きな抵抗を示します。

8 個人カルト(少数カルト)の難しさ

今回のオセロの中島知子さんのケースのように、被害者が一人(少数)の場合、その教祖、カルトのことを良く知っている人は限られています。そのマインドコントロールの解き方を考える上での、事前情報が限られます。

また、ごく少数の被害者ために、様々なトラブルを覚悟してでも、かかわっていこうと考える警察、司法、マスコミ関係者は限られるでしょう(それではいけないのですが)。

マインドコントロールの解き方

1 良くある失敗

カルトや教祖の間違いに周囲が気づくと、強くそれを指摘し、力づくで脱会させようとしますが、しばしば逆効果です。かえって、カルトにのめりこみ、マインドコントロールの解除どころか、かえってマインドコントロールが強くなってしまうこともあります。

2 人間関係の回復

まず、人間関係を修復しましょう。ケンカしていれば、謝りましょう。お説教ではなく、愛と優しさでアプローチしましょう。コミュニケーションを回復しましょう。相手に温かな関心を示し、話を聞こうとする態度、カウンセリングマインドでアプローチしましょう。そうしなければ、どんなマインドコントロールの解き方を使っても、効果は上がりません。

3 質問

人は、意見を押し付けられても、自分の意見を変えません。自分自身で気づく必要があります。そのためには、適切な「質問」が必要です。可能であれば、カルト側の教えを事前に調べ、疑問を持ってもらえるような良い質問を投げかけましょう。

本人の中に疑問が生まれても、口には出さないでしょう。それでも良いと思います。本人の中に、疑問の芽を少しずつ育てるのです。

4 健康だった時を思い出す

「適切な質問」も、簡単ではありませんが、昔の健康で幸せだった時のことを語り合うのは、友人や家族ならできるでしょう。今の状態は、本当の幸せではないと、本人に気づいてもらうための一歩です。

5 カルト組織、教祖から引き離す

会って話をし、本人にカルトや教祖への疑問が生まれても、組織に戻ると、すぐに修復されてしまいます。できれば、ある程度の期間、組織から離す必要があります。強制的に引き離し、隔離するケースもありますが、逆に法的に訴えっれる危険性もあります。

入院や、今回のような法的な立ち退きなど、何かが起これば、マインドコントロールを解くチャンスです。

   カルトからの奪回と回復の手引き
   カルトからの奪回と回復の手引き

6 戻る場所を用意する

家族や友人ならば、何があっても、私たちはあなたのことを大切に思っていると伝えましょう。いつでも、戻ってきてよいのだと伝えましょう。多くのカルト信者は、実は疑問を持っています。でも、今さら一般社会に戻れないと思っているのです。

友人も、家族も、社会も、あなたを受け入れると伝えましょう。

今回の中島さんのケースであれば、仕事関係者だけではなく、社会全体の雰囲気も大切でしょう。ファンの存在も大きいでしょう。

■オセロの中島知子さんのケース(個人カルトの難しさ)

オセロの中島知子さんのように、個人カルトによって被害を受けている人はたくさんいます。

中島さんの場合は、本人がお金を持っていますが、世間では親がお金を払っているケースも多々あります。大きなカルト組織によるマインドコントロール被害とは違って、ほとんど注目されず、万策尽き、途方に暮れている家族もたくさんいます。

■オセロ中島さん救出成功事例から学ぶ

中島さんのマインドコントロール問題が大きく報道されたきっかけは、中島さんが住むマンションの家主で、樹木希林さんの娘婿、本木雅弘さんが中島さんを家賃滞納で訴えたことでした。家賃滞納問題、洗脳騒動と、マスコミを騒がせました。後に、中島さんのご両親が、訴えてくれるように樹木希林さんご家族に頼んだことがわかっています。

破壊的カルトの罠にはまった人を、家族は何とか守りたいと思います。できるだけ穏便に、丸く収めたいと願います。しかし、そのような配慮がしばしば問題解決を遅らせます。ときに、心を鬼にする必要があります。ご両親の判断は、適切でした。

また、樹木希林さんのご一家も、世間からのバッシングの可能性を覚悟の上で、引き受けたかと思います。

救出当日、ご両親だけでなく、多くの関係者がマンションの玄関口に集まります。このように、使える社会的な道具は全て使ってでも、家族を救い出そうとする強い決意が、救出を実現させるでしょう。

■マインドコントロールからの回復のために

自称霊能者から引き離すことができたのは、てても大きな一歩でした。しかし、マインドコントロールからの回復は、これからが正念場です。これだけ社会的に活躍していた人が、社会的、心理的、心理的に、これほどひどい支配を受けてきました。回復に時間がかかるのは当然です。

焦らず、急かさず、回復への道を歩みましょう。心の問題は、身体の問題のように、直線的に短期間には治らないのです。一般論として、失敗してしまえば、もとの破壊的カルトに戻ってしまったり、別のカルトに走ってしまうこともあります。一見普通の生活に戻ったように見えても、心の中に大きな傷を抱え、前のようには上手く行かないこともしばしばです。

オセロ中島さんの場合は、大きく報道されています。それが、プレッシャーになることもあるでしょうが、知り合いや助けてくれる人もたくさんいるでしょう。社会的力の大きな人もたくさんいるでしょう。

フジテレビの「しりたがり」でも、関西テレビ「たかじんの胸いっぱい」に出演し、この話題で話したときも、スタッフ、出演者のみなさんは、とても心配していました。中島さんの味方は、大勢いると思います。

どのようにして、マインドコントロールを解くのか、回復と社会復帰をどうサポートするのか。これは、大切なモデルケースになるのではないでしょうか。

オセロ中島さんのためにも、他の多くの破壊的カルトの被害者や被害者家族のためにも、回復を心から願っています。

オセロ中島マインドコントロール問題2:「激白を読み解く」

オセロ中島マインドコントロール問題3:「"マインドコントロールではない"に反論」

→「オセロ中島マインドコントロール問題4:「被害者の心理と脱会の難しさ」20130407

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『カルトからの脱会と回復のための手引き――〈必ず光が見えてくる〉本人・家族・相談者が対話を続けるために』日本脱カルト協会 (著)

『マインド・コントロール (2時間でいまがわかる!) 』紀藤正樹 (著)

『カルト教団からわが子を守る法』J.C. ロス (著), M.D. ランゴーニ (著)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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