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仕事には対価をは当然なので。あえて。無報酬の力:クールジャパンの秋元康氏の発言から

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
世界の中で、ハッピーな日本に。ハッピーな私に。

クールジャパン(格好いい日本を世界に売り込む)会議での秋元康さんの発言が、多くの注目を集めています。

政府は3日、クールジャパン推進会議を開き、~民間議員で「AKB48」プロデューサーの秋元康氏は「日本中の優秀なクリエーターにひと肌脱いでもらうべきだ」と指摘。アニメや芸術の関係者に、ポスターやキャッチコピーづくりに無報酬での協力を求めるよう提案した。

出典:Yahoo!ニュース「国内クリエーター結集を=クールジャパン推進で―政府 時事通信」

Yahoo!ニュース個人でも、すでにITビジネスアナリストの大元隆志さんが取り上げています(自分達が対価を払う価値が無い物に、海外のファンは対価を払うのか?

ビジネスの話としては、そのとおりだと思います。ただ、ここではあえて心理学のお話を。

■報酬は行動の質と持続性を下げる!? (「内発的動機づけ」の話)

今朝一仕事終えた後、このニュースを見て、さっそくツイートを2つ。

「秋元康氏は~ポスターやキャッチコピーづくりに無報酬での協力を」。 秋元さんは、ただのケチで言っているわけではないでしょう。 ある心理学の実験では、大学の新聞部の学生に見出しを作らせたら、無報酬のほうが良い作品を作ったなんてのもあります。 ただ彼らはプロではありませんが。

出典:碓井真史 @ 心理学「こころの散歩道」 @usuimafumi

このツイートをしましたら、早速多くのリツイートと共にご意見もいただきました。

「であれば対象を学生限定した方が良かったかもですね。」「こういう実験は児童心理学でも見ましたけど(´Д`)。もちろん、こどもたちはプロではありませんし。」

そこで、再度ツイート。

金銭報酬を与えると、無報酬の時より行動の質や持続性が下がるという心理学の研究。これは、報酬が悪いというのではありません。ただ報酬によって操られていると感じるとまずいようです。報酬によって有能感が高まれば、OKです。

出典:碓井真史 @ 心理学「こころの散歩道」  @usuimafumi

これらの研究は、1970年代に行われた「内発的動機づけ」に関する社会心理学の実験です。そのほかにも、金銭報酬やごほうびなどの「外的報酬」を与えると、その後の無報酬状況での行動持続が下がる(内発的動機づけが低下する)という研究が行われました。

これは、かなりびっくりの結果なので、その後も、多くの研究が行われました。その結果、

外的報酬は賞罰のために行動する「外発的動機づけ」は上げるが、賞罰なしでも行動する『内発的動機づけ」をかえって低下させてしまう(ことがある)。そして、内発的動機づけによる行動のほうが、楽しく、長く続くことが解明されていきました。

「内発的動機づけ」の考えは、私が研究を始めたころは、「なにそれ?」という感じでしたが、今では教育心理学などでは、ポピュラーなものになりました。そすうると、誤解する人も出てきてしまいました。

■お金などの外的報酬は悪者ではありません

私たちがが、お金をもらってお金の奴隷になってしまえば(心理学的に言うと自己決定感を失えば)、楽しくないし、仕事の質も下がります。けれども、報酬をもらって「自分は認められている」「高く評価されている」と感じられれば(有能感が高まれば)、内発的動機づけはさらに上がっていきます。

大切のは、「自律」と「自己決定」です。お金は必要ですが、自ら選びとっている感覚が大切です。金さえもらえれば何でもいいではななく、プロ意識を持って、職人魂を持って、良い仕事をしようとする人々の姿です。

ただ、日本では物にはお金を払って、言葉だのアイデアだの形のないものになかなか大金を払ってくれないという風潮がありますから、今回の秋元康さんの発言にも多くの反応があったのかもしれません。

■無報酬の力

もう一つツイートしました。

仕事には対価を払えは当たり前なので。あえて。 私は、今の日本人の心を救う一つの方法が、ボランティアだと思う。こんなに豊かで、物欲も労働意欲もない、現状満足の若者たちが続出。でも、君の力を必要としている人たちがいる。君にも使命があると。 クールジャパン・無報酬・秋元康。

出典:碓井真史 @ 心理学「こころの散歩道」  @usuimafumi

新潟青陵大学と短期大学部による被災地ボランティア(陸前高田市)
新潟青陵大学と短期大学部による被災地ボランティア(陸前高田市)

日本が貧しかったころは、立身出世が、動労意欲、生きるエネルギーになりました。でも、不景気とはいえ物があふれる日本で、やる気のない若者が増え、無気力が蔓延しています。でも、若者たちを見ていると、文化祭、体育祭、部活、被災地ボランティアなどでは、やっぱりとても輝いています。企業としてのボランティア活動で燃える心を体験した人もいますよね。(本当は、仕事も勉強も、世のため人のためにつながるのですが、実感が持ちにくいときはあるでしょう。)

しっかり金を稼ぐこと、良い仕事には相応の対価。とても大切です。でも、私たちが馬車馬のように金銭奴隷として働くのではなく、それぞれの置かれている場所で、天職だ、これが私の使命だと思って働けたら、心も軽やかハッピーで、結果的に業績アップにもつながると思うのです。

新入社員のみなさんも、ね。

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補足2013.4.4.18:30・2013.4.5.13:30

みなさん、こんにちは。

このページ上でいただいたコメントには、下記のように返信をいたしましたが、ツイッター上でもご意見ご質問をいただきましたので、それらに対するお返事をご紹介したいと思います。

  • 無報酬のボランティアが、単なる人手不足解消、行政の補完になってしまっては、本来いけないと思います。

  • 今のところ元記事の見出しにあるような「国内クリエーター結集」という雰囲気にはなっていないようです。秋元氏の発言が良くないのか、報道のされ方が良くないのか、政府のクールジャパンの進め方が良くないのか、わかりませんが。

  • 無報酬のほうが良いといっているわけではありません。自己決定された内発的動機づけによる活動の良さを言っています。働く人はお金をもらいますが、お金の奴隷ではなく、職人魂や、お客様のために、内発的に動機づけられている人もたくさんいるでしょう。

  • 無料、無報酬、ボランティアがあふれるネットで、今回の反発が出ているのは、こういうことなんでしょうね。RT 「クリエイター、文化にかかわる人たちの意識が全くついて行っていない」

  • はい。内発的動機づけの研究でも、見かけだけの自由(実は強制されされていて断れないとか、辛い義務感)では、まったくだめ(やる気は下がり、心の健康が失われる)と実証されています。
  • 自発的なボランティアは内発的動機づけですが、同じ無報酬でも、無理にやらされているという強制感を感じてしまうと、内発的動機づけは低下します(やる気は下がります)。

ページをアップしました。 2013.4.4.23:00

「無報酬!?」クールジャパン秋元康氏発言に波紋の理由:社会心理学的に考える

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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