「鬼から電話」の効果と使い方:叱り方の心理学
☆鬼から電話☆
スマホアプリ「鬼から電話(おにから電話)」が好調です。鬼から電話がかかってきて、画面には怖い鬼の顔、怖い鬼の声で、言ううことをきかない子どもを叱ってくれます。多くのメディアに紹介され、ユーザーも増えています。「もしもし、赤鬼です!今から行きます」スマホに“鬼”が電話を掛けてくるアプリ、子育て世代ママに人気(Yahoo!ニュース産経新聞2013.4.3)
☆ガォーさん☆
こちらは、大坂朝日放送の人気番組「探偵!ナイトスクープ」のキャラクター。視聴者からの依頼を受けて、番組の「探偵」さんが自宅へ行き、恐ろしい「ガォーさん」に変装して、言うことをきかない子どもを叱ってくれます。
☆鬼から電話・ガォーさんの効果☆
どちらも、効く子には効きます。恐怖におびえ、泣きながら、言ううことをききます。一番効くのは、三歳から五歳ぐらいでしょうか。あまり小さすぎると、怖さがわかりませんし、大きくなれば作り物だとわかってしまいます。
ただし、同じ年齢でも個人差はあります。「鬼から電話」のユーザーレビューを読むと、言うことをきいてくれたというレビューが多数ですが、怖がりすぎてかわいそうになったとか、逆におもしろがって怖がってくれなかったというレビューもありました。
☆鬼から電話・ガォーさんへの評価☆
ガォーさんを実際に体験したのは、テレビに出演した家族だけですが、「鬼から電話」は大勢の親子が体験しています。すばらしいと評価する人もいれば、これでいいのかと疑問を投げかける人もいます。危険だ、こんなのはダメだと言う人もいます。
☆心理学者(スクールカウンセラー)から見た「鬼から電話」「ガォーさん」☆
「なまはげ」もかなり怖いです。子どもは本気で泣いています。昔の子どもは、地獄のえんま様を怖がります。グリム童話も、けっこう怖いです。私のいとこは、近くの川には河童がいるから近づいてはいけないと言われて、大きくなるまで信じていました(危険な場所に子どもを近づけさせない大人の知恵ですね)。
近所に住んでいる偏屈な老人を、子どもをつかまえてしまう恐ろしい人だと、子どもたちは思い込んだりします(映画「ホームアローン」などにも登場しますね)。
子どもが、メルヘンの世界で何かを怖がることは悪くはありません。
ただし、なまはげを見て泣いている子は、お父さんやお母さんにに抱きついています。河童も、地獄も、グリムも、恐怖のジジイも、子どもの物語性の中にある恐怖です。怖いから、よい子になろうと思ったりするのですが、それは目の前に突きつけられた本物の包丁の恐怖とは違います。
心から安心できる親の愛の包まれつつの、「恐怖心」なのです。こういう恐怖心なら、しつけにも使えるでしょう。子どものチャレンジ精神が害されることもありません。それは、「怖いお父さん」も同じです。「お父さんに叱られたら怖いぞう」と思っていますが、それは虐待するする父への恐怖とは違うでしょう。怖いけれど、優しくて、愛してくれて、守ってくれる父です。
- 父親力の伸ばし方:Yahoo!「心理学でお散歩」
☆「鬼から電話」「ガォーさん」の使い方☆
「鬼から電話」の鬼も「ナイトスクープ」のガォーさんも、怖いけれど、どこかユーモラスです。「探偵!ナイトスクープ」に依頼する親は、みんなユーモアのある、良い親御さんです。ガォーさんを演じるタレントの長原成樹さんは、収録後はその家のシャワーを借りてメークを落とし、「こんなおっちゃんやで」と子どもたちに種明かしをしているそうです。
長原さんは、幼くして母親を亡くし父親も忙しく、一時はグレたそうです。親にきちんと叱られる友達がうらやましかったと語ります。けれども、周囲に支えられて更生し、タレント業や学校での講演活動を行っています(ナイトスクープ大人気キャラ「ガォーさん」を生んだ長原成樹の“半生”:Yahoo!ニュース産経新聞2013.4.13)。
そんな長原さんだからこそ、怖くて、優しくて、愛のあるガォーさんになれるのだと思います。子どもたちにとっては、きっと怖かったけど、楽しかった思い出になることでしょう。
「鬼から電話」の鬼も、私には同じに見えます。怖いけれど、本当は子どもが大好きな鬼さんです。ただし、人間である「なまはげ」や「ガォーさん」と、アプリの鬼は違います。人間のように臨機応変には動いてくれませんから、ポイントはアプリを使う親です。
子どもが孤独にふるえているのに、追いかけ回す「なまはげ」はいないはずです。「鬼から電話」がどの程度子どもに効いているのか、見極めが必要です。まったく効かなければそれでもよいのですが、効き過ぎている、強すぎる恐怖心をもちそうならば、親が配慮しましょう。
程よい効き目があるときでも、「抱きしめてくれる親」が絶対に必要でしょう。がんばりすぎると、失敗することもあります。「パパママのがんばり過ぎない子育て」が必要なときもありますね。
☆叱り方の心理学☆
子どもを「叱らない」のは良いことだと思います。怒鳴らない叱り方は良いことです。。でも、「叱れないの」は、困ります。きちんと叱れる親が、ちょっとユーモラスに「怖い物語」を使うのは良いですが、叱れない親が、「鬼から電話」や、恐怖を使ったしつけを試みるのは、危険があると思います。頼りすぎ、使いすぎてしまう恐れがあるからです。
上手に叱れない親が頼ってしまう方法が、体罰や安易な恐怖。そして、愛の剥奪です。これこそ、子どにとっての最大の恐怖です。
言うことをきかなければ愛さない。言うことをきかなければ、お母さんは家を出ますよと脅す。そうすると、子どもは大泣きをして、言うことをきいてくれる。これは便利な方法だと、毎日のように使う。そんなことをしてしまうと、ますます上手な叱り方を学べなくなります。子どもは強い不安を持ちます。
良く効く薬は副作用も強いと理解しましょう。一発で言ううことをきくような方法を使う時こそ、慎重に使いましょう。
たいていの叱りすぎてしまう親は、愛のある親です。でも、余裕を失っています。お片付けも、早く寝ることも、大切なしつけです。でも、一日で上手くいくわけがありません。一度にしようと思うと、叱りすぎてしまいますし、イライラしてしまいます。
今日は今日の分だけ叱りましょう。どうせまた明日になれば、しでかしてくれるので、明日はまた明日叱りましょう。マンガ『サザエさん』の中で、カツオ君は毎日のように叱られていますが、彼は愛を感じているし、家族全体があたたかなユーモアに包まれていますよね。
子どもに向かって、そんな悪いことをしているとこんな悪いことが起こるというような、神様のバチが当たるといったしつけも、私はあまり賛成できません。「神様」は、正しい存在だから悪いことをうやむやにしないけれど、同時に神様はみんなを愛し守ってくれている、そんな世界観を子どもたちに持たせたいと思います。
がんばりすぎない子育てが大切です。
そして、子育てに大切なことは、「あの手この手」です。どうすれば、お片付けをするのか、あの手この手を考えましょう。様々な工夫、ほめることや、叱り方も含めて、あの手この手を使いながら、我が子とのつきあい方を学びましょう。そうして、子どもと親と、一緒に成長してして行けたらと思います。
(2013年4月15日)
「鬼から電話」に関する補足(2014年1月11日)
新聞報道(2014.1.11新潟日報夕刊)によると、「鬼から電話(おにから電話)」を開発したメディアアクティブの佐々木社長は、秋田県出身で、自身の「なまはげ体験」をもとにこのアプリを作成したそうです。昨年12月には英語版も発表されました。
社長はインタビューに答えて、次のように語っています。
「子どもが気持ちを切り替える道具として使い、ほめるのも忘れないで」。
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叱り方・しつけ・罰・子育て
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