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エホバの証人信者が輸血拒否で死亡:宗教問題と社会問題

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
ドアの向こうのカルト:9歳から35歳まで過ごしたエホバの証人の記録 佐藤典雅
ドアの向こうのカルト:9歳から35歳まで過ごしたエホバの証人の記録 佐藤典雅

「エホバの証人」の人たちは、輸血をしません。今回、65際の女性がそのために死亡しました。「エホバの証人」信者の家族が輸血拒否…死亡(Yahooニュース2013.4.16)

私たちには、信教の自由があります。どんな宗教を信じることも、信じないことも、自由です。

エホバの証人は、キリスト教系の新興宗教です。ただし、一般のキリスト教会では、エホバの証人をキリスト教と認めていないでしょう。キリスト教には、カトリックやプロテスタント、ギリシャ正教など、いくつかの宗派があり、互いに教義や習慣が異なります。それでも、どのグループも、イエス・キリストを三位一体の神と考えていますから、互いにキリスト教であると認めています。

しかし、エホバの証人はイエス・キリストを神とは認めていませんので、他のキリスト諸教会は、キリスト教と認めないのでしょう。

もちろん、エホバの証人の信者が何を信じても自由です。伝統的なキリスト教会からは異端とされますが、それはキリスト教の中の話で、一般の社会には、あまり関係のない話です。

エホバの証人の信者さんの多くは、真面目で善良な人々だと思います。その一方、社会的な問題が発生することもあります。その代表が、輸血拒否問題です。

この問題は、かつてビートたけしさん主演でテレビドラマ化もされました。『説得〜エホバの証人と輸血拒否事件』1993年、TBS。

エホバの証人は、聖書が輸血を禁止していると主張します。たしかに、血を避けるようにとの記述はあります。ですから、聖書を信じるユダヤ教徒の中には、ステーキを食べるときには、血抜きして食べる人もいます。ただし、そのような人々も輸血は受けます。

ユダヤ教徒もイスラム教徒もカトリックもプロテスタントも、聖書(旧約聖書)を読みます。中には、かなり原理主義的で昔ながらの極端な生活をする人もいます。肉は血抜きします。しかし、どのグループの人々も、輸血は受けます。

「説得―エホバの証人と輸血拒否事件」 大泉実成著
「説得―エホバの証人と輸血拒否事件」 大泉実成著

輸血を受けないのは、エホバの証人だけです。ただし、エホバの証人は普通のステーキを食べますが。

インターネット上の「エホバの証人研究」にある「輸血拒否」、輸血リスクには、輸血に関する様々な問題が語られています。信者に知らせられている情報の誤りや、古すぎる情報も指摘されています。

これらが、単純な間違いならば良いでしょう。しかし、間違いを修正する様子はありません。エホバの証人は巨大組織です。日本国内でも信者である「伝道者」「聖書研究生」合わせて30〜40万人のメンバーがいると思われます。優秀な方々も大勢いるでしょう。これらはやはり、単なる間違いではなく、都合の良い情報だけを信者に流しているのではないでしょうか。(質問にお答えして補足:2013.4.17:「これらが単純な間違いなら」は、直前のリンク先に説明がある、輸血に関する医学情報の話です。)

また、たとえばハルマゲドン(世界最終戦争)に関して、エホバの容認はこれまで次のように言っています。

  • 1916年「今はハルマゲドンのさなかである」
  • 1941年「数カ月もすれば、ハルマゲドンに突入する」
  • 1967年「人類歴史の第七の千年区分(ハルマゲドンの後に来る千年王国)は1975年の秋に始まる」
  • 1995年「1914年の出来事を見た世代が絶える前にハルマゲドンが来る」

常識的に考えれば、予言が外れれば、信者は離れそうですが、実際にはそうなりません(予言が外れるとき:認知的不協和理論による解説)。

医療行為に関しては、かつてはペニシリンやワクチンにも否定的で警告され、臓器移植も、骨髄移植も禁止されていました。これらは、今は認めらられています。

組織が今日禁止していれば、世界中の信者がそれに従い、明日組織が認めれば、世界中の信者がそれを行います。

どの宗教に対しても、信教の自由は認められるべきです。信仰に基づく行為も尊重されるべきです。統一教会も、オウム真理教も、どのような教義を持っても良いでしょう。伝統的キリスト教や仏教が異端だと主張しても、それはそれぞれの宗教内の問題です。しかし、違法行為はもちろん、そうでなくても、様々なトラブルが発生すれば、それは宗教問題ではなく、社会問題として、社会全体で考える必要があると思います。

「エホバの証人」の悲劇―ものみの塔教団の素顔に迫る 林 俊宏
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教義は自由です。しかし、布教や信者教育において、道義的に許される行為と、許されない行為があるでしょう。

エホバの証人に関しては、エホバの証人被害者団体も設立されています。

他の警告や禁止されていた医療行為が後に認められたように、輸血も認められるようになることを願っています。関係者一人一人が、宗教組織が提供する情報だけでなく、広く情報を集め、判断をしていけるように、願っています。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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