働くお母さんたちへ:仕事と育児の両立に悩むあなたは大丈夫
社会は変わりつつあるとはいえ、働くお母さんの苦労は続いています。
二刀流に挑む女子たちをためらわせる「現実の壁」「職場の理解」…無意識の甘えに女子たちは自戒(産経新聞 5月19日)
社会全体での子育て支援、夫や家族の協力などはもちろんですが、それでもやはり、辛さは残ります。母親の立場を優先させるべきか、職業の方を優先させるべきか。ワーク・ライフ・バランスの問題は、難しい問題です。今回は、政策や労働条件の話とはちょっと違う「心」の方向から、心理学のお話を。
■人生における「役割」
私たちは、生活の中で様々な「役割」を演じています。演じているといっても、お芝居をしているという意味ではありません。社会心理学の考え方、「役割理論」の話です。
人は、自分で意識しなくても、先輩の前では後輩らしく振舞い、後輩の前では先輩らしく振舞います。親として、店員として、リーダーとしてなど、人は周囲からの役割への期待を感じ取り、自分の役割を自覚して、その役割としての行動を身につけていきます。
数ヶ月前までいかにも高校生といった服装、言動をしてた人が、大学へ入ると、いかにも大学生風の服装、言動を取るようになります。4月から社会人になった人は、ずいぶん社会人らしくなったことでしょう。これが、役割行動です。
■「役割」における心の悩み
役割を身につけても、悩みがなくなるわけではありません。たとえば、「学生」としての役割を身につけた人が、学生らしく勉強しなくてはと考えるでしょうし、同時に、学生らしく自由にいっぱい遊ぼうとも思うでしょう。
「店員」や「営業マン」として、お客様のためにと考えるでしょうし、同時に、お店や会社の方針に従うべきとも考えるでしょう。これを、社会心理学では、一つの役割の中での迷いなので、「役割内葛藤」と呼んでいます。
■複数の「役割」の両立できない悩み
さらに、私たちは同時に複数の「役割」を持ちます。たとえば、「母」であり同時に「会社員」です。子どもが熱を出しているとき、母としては会社を休み子どもを看病したいと思いますし、同時に、会社員としては仕事を休んではあいけないと感じます。もちろん社会全体での支援が必要ですが、たとえそのような支援があったとしても、今日仕事に行くのか子どものそばにいるのか、選択しなくてはなりません。
「父」と「会社員」も同様ですが、日本では多くの場合、仕事を優先するべきだという社会通念がまだ残っています。もちろん、徐々に変化しつつあるでしょうが、それでも、家族のために「働く父」はりっぱだと見られるでしょう。
残業で遅くなった父を、「お帰りなさい」と温かく迎えてくれる家族も多いでしょう。父親自身も、残業する自分自身をほめてあげたい気持ちになるでしょう。
ところが、母親は大変です。残業で遅くなった母に対して、「どうして遅いの?」「おなかすいた、早くご飯作って」という厳しい声が来ることも、残念ながらまだ多いのです。そして、母親自身が自分を責めてしまうこともあるでしょう。
このように、親と会社員など、二つの役割の間で心が苦しくなることを、「役割間葛藤」と呼んでいます。
■心の痛みには意味がある
社会制度の整備や、職場、夫の理解が必要なことはいうまでもありません。けれども、それでも家庭と職場の両立で悩む「働くお母さん」は大勢いるでしょう。この心の悩み自体は、解決不可能です。身体を二つに分けることはできないからです。
でも、悩んでいるあなたは、もう十分です。
子どもを家に残し、「ごめんね」という思いで出勤するあなた。子どもが病気のために仕事を休んだり、早退するときに、同僚や上司に申し訳ないと思っているあなたは、それで十分です。様々な工夫はさらに必要かもしれません。でも、あなたの心の痛みは、意味のある痛みです。
子どもに対する「ごめんね」は、子どもに伝わるでしょう。子どもは、たしかにさびしい思いをするかも知れませんが、いずれお母さんの仕事のすばらしさを知るでしょう。それに、ごめんねの気持ちがあるお母さんは、きっと後で子どもの心をフォローするはずです。
職場に対して、申し訳ないという思いがあれば、同僚や上司に配慮した言動が出ることでしょう。さらに、きっと後で埋め合わせをしようと思うことでしょう。
「甘えが」が出てしまい、家族や職場に対して「当然だ」という態度を取ってしまうと、結局摩擦は大きくなるような気がします。
だから、心の痛みを感じている人は、すでに適切なことをしているはずです。たしかに、現実は甘くないかもしれません。でも、自分を責めすぎず、無理をしすぎず、健全な心の痛みを感じながら、母としてキャリアウーマンとして、生活していきましょう。
そういう心の余裕があれば、落ち込みすぎたり、イライラしすぎて失敗したりすることなく、職場でも家庭でも良いコミュニケーションが取れるでしょう。夫や祖父母の協力も、上手に取り付けられるかもしれませんね。
*本当は、働くお父さんも、家族への「ごめんね」の気持ちが必要なのは同じですが。
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「働くお母さんのために2:健全に悩み家族の協力を得る方法」Yahoo!ニュース「心理学でお散歩」