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交通事故の心理学:事故を起こしやすい人とは?:高校球児の事故報道を受けて

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
車は便利でかっこよくて、そして凶器にもなる(phtoAC)

■高校球児、野球部OBにひかれ両足切断:ブレーキ間に合わず

甲子園では、毎日熱戦が繰り広げられていますが、悲惨な交通事故が発生してしまいました。

19日午後6時半ごろ、淑徳大学のグラウンドに併設された駐車場で、野球部の練習を終えて帰宅しようとしていた淑徳高校野球部の2年の男子生徒(17)が車にひかれました。~男子生徒は両足を切断する大けがです。警察は、車を運転していた野球部OBの男子大学生(19)を自動車運転過失傷害の疑いで逮捕しました。

出典:テレビ朝日NEWS-Y! 高校球児が両足切断…野球部OBの車にひかれ 埼玉 テレビ朝日系(ANN) 8月20日(火)14時1分

野球部員、先輩運転の車にひかれて両足切断:後輩に運転技術を自慢し「いいところを見せよう」と駐車場内で急加速

野球のグラウンドの駐車場で、野球部員の男子生徒(17)が、猛スピードで突っ込んできた乗用車と建物の間に挟まれ、両足の膝下を切断する重傷を負った。

乗用車を運転していたのは、野球部の練習に来ていたOBの大学生(19)で、車に乗せた後輩に運転技術を自慢するために駐車場内で急加速したということで、自動車運転過失傷害の疑いで逮捕された。

警察の調べに対し、大学生は「後輩にいいところを見せようとした」「ブレーキが間に合わなかった」と話しているという。

出典:野球部員、先輩運転の車にひかれて両足切断 日本テレビ系(NNN)-Y! 8月20日(火)14時16分

■車の運転は脳の前頭葉で

車の運転は、目や手足を使いますが、車の運転は、人間の脳、心が行います。ここでは、交通心理学者長塚康弘先生による『交通心理学が教える事故を起こさない20の方法』から、特に事故を起こしやすい人のパターンを考えます。

運転は、反射神経だけで行うものではありません。その人の、判断、記憶、感情など、高度な心の働き(脳の前頭葉)によって運転は行われます。ですから、運動神経が良ければ事故を起こさないわけではなく、ドライバーの考え方、感じ方が大切です。

■事故を起こしやすい人とは

心理学の研究(東北大学交通事故研究グループ)によれば、事故を起こしやすい人は、次のような人です。

1 拙速:軽はずみで行動を早まる人。

2 見込みの甘さ:たぶん大丈夫だろうと、考えてしまう人。危険を感じにくい、あるいは感じつつ実行してしまう人。

3 カッとなる:いらいらし、怒りっぽい人。

4 自分本位(独りよがり):協調性がなく他人の立場になれない人。

別の研究(イスラエルの心理学者による研究)では、次のような性格が危ないとしています。

1 危険なことをあえて行う性格

2 刺激の変化を求める性格

3 攻撃的性格

ただし、性格は固定的なものではありません。交通事故の原因を、ドライバーの性格だけにしてしまってはいけません。そういう傾向がある人が、そんな運転をしないですむような、環境やシステム作りが大切でしょう。

■プロが教える無事故運転のコツ

長塚康弘先生(『交通心理学が教える事故を起こさない20の方法』)のインタビューによれば、無事故優良ドライバーは、次のようなことに気をつけています。

1 速度を抑える。

2 周りの状況を十分に確認する。

3 簡単に立腹しない。

4 自分のペースを守る。

5 どんな事故でも(もらい事故でも)回避に努める。

6 他人に迷惑をかけない運転。

当たり前かもしれませんが、この当たり前の徹底的な繰り返しこそ、交通事故の防止につながります。どんな完璧な自動車でも運転手の運転ミス(ヒューマンエラー)があれば、事故は起きてしまいます。

■運動神経の良い人はかえって事故を起こす?

すばやく運転操作をする人が交通事故を起こさない人でしょうか。心理学の研究ではむしろ逆です。「動作反応が知覚反応よりも早い人には事故を起こしやすい傾向がある」ことが、心理学の実験で実証されています。

ハンドルさばきやペダルの踏み方がすばやいと自慢しているような人が、満足な安全確認もしないで運転しているときこそ、最も危険だと言えるでしょう。

■運転適正とは

免許を取るときには、運転に向いているかどうか運転適正テストを受けます。適正テストの結果が悪いと、先生に説教されたりします。では、適正テストの結果が良ければ、事故を起こさない人といえるのでしょうか。そうではありません。

交通心理学者長塚先生は、「運転に向いた人が、運転に適した状態になって、初めて安全運転が実行できる」と述べています。車の点検が必要なように、自分の体と心と環境に関する自己点検、自己管理こそが大切なのです。そのために、適正テストによって自分を知ることが必要でしょう。

■悲惨な事故報道から

先輩の運転する車によって、高校球児である母校の後輩が、両足切断となる事故が起きました。何とも悲惨な事故です。駐車場内で、「ブレーキが間に合わなかった」と供述していますが、本来駐車場内は、ブレーキを踏めばすぐに止まれるスピードで運転すべきでしょう。

「後輩に運転技術を自慢するため」「いいところを見せよう」と、急加速したと報道されています。上に書いた安全運転のための行動や考え方とは、正反対の運転態度です。

事故を起こした先輩は、たぶん運動神経の良い人なのでしょう。すばやい運転操作のできる人なのでしょう。しかし、それがかえって事故の原因となったようにも思えます。

能力がある人こそ、その能力をコントロールし、自分の心を制しなければなりません。ほんの小さなことでも大きな事故が起きます(花火会場の露天火災のように。福知山線脱線事故のように。人為ミスによる飛行機事故や原発事故のように)。人の心の中には、様々な思いが次々とわいてきますが、何よりも大切なのは、「安全」ではないでしょうか。

事故にあわれた方の回復と癒しをお祈りしています。悲惨な事故が少しでも減りますように。

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長塚康弘著『交通心理学が教える事故を起こさない20の方法:ドライバーズ・ハンドブック』新潟日報事業社

『交通心理学が教える事故を起こさない20の方法:ドライバーズ・ハンドブック』
『交通心理学が教える事故を起こさない20の方法:ドライバーズ・ハンドブック』

一般の方向けのわかりやすい本です。今回の記事は、本書のごく一部をもとにしていますが、事故は様々な要因が絡んでいます。すべてのドライバーに一読をお勧めします。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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