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子供も列車も飛行機も昔からあるのに、なぜ今こんなにマナーが話題に? そして、私達が向かう方向は。

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
子供は泣くのが仕事です。

飛行機内や電車内で泣いたり騒いだりする子供たち。ベビーカーの使用やら、そもそも込んでいる車内機内に子供を乗せる是非など、いろいろ話題になっています。子供は昔からいるのに、電車も飛行機も以前からあるのに。なぜ今話題になるのでしょう。

年始から、一部のツイッター上で議論となっていたのが、電車に子どもを乗せる際のマナーについて。昨年も漫画家のさかもと未明氏が飛行機に子どもを乗せるのは子どもにとっても負担が大きく、周囲の迷惑になるという内容を書いた雑誌記事がネット上に転載され、「炎上」するという出来事があった。新幹線の乗降客の多い年末年始の時期に再び持ち上がったこの話題。公共交通機関でのマナーについて、世間の人々はどう考えているのか。

出典:子どもを電車に乗せてはダメ?大人が寛容にすべき?年末年始も賛否を呼んだ公共交通機関のマナー

■子供への風当たりが強い社会

子供はうるさく、きたなく、礼儀知らずなものです。それを大人たちは受け止めてきました。けれど、今子供たちへの風当たりが強くなっています。

私は、1997年の酒鬼薔薇事件神戸連続児童殺害事件:中学生による二人の子供殺害事件)のときに感じました。加害者が子供だとわかったとき、つまり死刑にも無期懲役にもならないとわかったとき、当時一般にも普及し始めたネット上で、ずいぶん厳しい意見が聞かれました。

「子供でも何でも人を殺したら死刑だ!」「死刑にできないなら、一生牢屋に入れておけ」「牢屋から出てきてもオレの町には来るな」。マスコミではあまり言えない「本音」がネット上で飛び交いました。

たとえ少年であっても凶悪犯の犯人を安易に同情はできません。けれど、殺害されてしまった子供、罪を犯して日本中から責められている子供を見て、私は「子供たちが守られていない」と感じました。

このようなことや、加害者の心理といったことを自分のホームページ「こころの散歩道」に書いたところ、「お前のように子供を甘やかすやつがいるから、少年犯罪が増えるんだ。お前の家族も同じ目にあってみろ!」といったメールももらいました。

ルールを破る子供には厳しく接することも必要でしょう。サル山のサルでも、ルールを破った子ザルを叱ります。けれども、決してその子ザルを群れから追い出したりはしません。そんなことをし続けていたら、群れは滅びるでしょう。子供を叱る。子供をしつける。でも子供を守り受け入れるのが、集団生活をする動物たちの生き方です。

子供を甘やかしてはいけません。しかし、子供を甘えさせることは必要だと思います。

少年犯罪と電車内機内の子供の問題は同じではないでしょうが、大人社会に迷惑をかける子供の存在としては、同じ部分があるのではないでしょうか。

確かに困った存在です。被害を受ける人もいます。疲れ果てて眠いのに、横で赤ん坊が泣いているときなど、こっちが泣きたくなるでしょう。単なる疲れではなく、大人だって体調が悪いときもあれば、病気の時もあります。

それでも、そもそも大人に迷惑をかけるのが子供というものです。

■弱くなった子供

赤ん坊は別ですが、ある程度の年齢になれば、公共の場でのマナーは必要です。親と社会(家族や保育園や近所の人)が教えるべきです。しかし、昔ほどには教え込まれていないでしょう。

暑くても寒くても、コートを脱いで立っていた、そんな朝礼はいつごろから変わったでしょうか。そう簡単にジュースも飲めず、我慢して親子でてくてく歩いていたのは、いつごろまでだったでしょうか。冷房が贅沢品だったのは、いつごろだったでしょう。

今の子供たちは、昔ほどしつけられても鍛えられていません。

大事に大事に育てられてきた子供が、いきなり窮屈な場所や暑苦しい場所、自由がきかない場所で、いい子にしてなさいと言われても、なかなかできないこともあるでしょう。

■弱くなった大人

大人も、以前ほど鍛えられていません。それは良い社会になったと言えるとは思いますが、私たちは以前よりもずっと快適な生活をしています。

それが突然車内や機内で子供から迷惑をかけられたら、我慢できないと感じる大人がいても当然でしょう。

昔、家庭内にも街にもうるさい子供があふれていたときには、私たちは慣れていたのでしょう。今から思えば、おおらかというか、いいかげんというか、やさしいというか。幼稚園や学校から、元気な(うるさい)子供の声が聞こえても、今ほどは文句は出なかったようです。

しかし、今は学校も騒音問題にはかなり気を遣っています。子供たちの「元気な声」は、今や「騒音」です。そのような少子化の今だからこそ、突然自分の横に現れた子供のうるささが気にさわるのも、仕方がないかもしれません。

■弱くなった人間関係能力

私自身は、自分の子育ての中で、世間のやさしさを知りました。若い新米パパとママが一生懸命子育てをしています。幼い子供をつれて、電車や国内線の飛行機にもよく乗りました。

特に飛行機のときは大変です。飛行機に乗る前から子供の体調とご機嫌を整え、1時間ほどのフライトを何とか切り抜けなくてはなりません。

電車も、大人だって不愉快になるような車内で、子供はクズリはじめます。

あるとき、地下鉄の車内で子供がグズリはじめたとき、横にいたおば様(たぶん子育てを終えられた方)が、おっしゃってくださいました。「いいのよ、子供は泣くのが仕事だから」。

この言葉がどれほど新米パパとママである私たちを励ましたことか。今でも、お礼を言いたいぐらいです。こんな体験をたくさんしました。

もちろん、親として精一杯の配慮はしてきましたし、子供が少し大きくなれば乗車前に言い聞かせもしました。

私自身が子供だったころ、電車の窓から景色が見たくて、よく窓側に向かってヒザを立てて座っていました。ただし、必ずクツは脱がされました。我が家だけではなく、どの家庭でも、常識だったことでしょう(自動車のチャイルドシートも最初はいやがりますが、最初から座らせれば、それが当然と子供も思うようです)。

夢中になって窓の外を見ている、そんな好奇心いっぱいの元気な子供たちを、周囲の大人たちも温かく見守っていたように思います。

群れで生きるサルもゾウも、子育ての最大の責任者は親ですが、でも群れ全体でみんなで子供を育てます。私たちはそういう動物です。

しかし、私たちのコミュニケーション能力が落ちています。親の側も周囲も、「すいません」「いいんですよ」の一言がなかなか言えません。親としては周囲に迷惑をかけない配慮をすべきです。当然です。しかし、親が周囲から責められていると感じてストレスをためるよりも、周囲から支えられていると感じるほうが、結果的に子供も落ち着くように、私は思います。

心理学的にいうと、騒音問題は、実は音の大きさだけの問題ではありません。隣の家でも、横の座席でも、まったく知らない子供の泣き声は騒音です。ところが、親しみを感じている子供の泣き声は、不愉快な騒音にはなりにくいのです。

■豊かになった私たち・忙しくなった私たち・ストレスがたまっている私たち

昔であれば、小さな子供が飛行機や新幹線に乗ることはめったになかったでしょう。でも豊かになった今は、子供がレストランにも新幹線にも飛行機もやってきます。ビジネスマンのすぐ横に子供がいたりします。

小さな子供をつれて混雑している乗り物に乗るのは、避けるのが無難でしょう。でも、私たちは昔よりも時間に追われる生活をしています。なかなか時間の余裕がないときもあるでしょう。

また、こんなに豊かになったのに、同時にスピード社会になった現代の私たちは、ストレスをためています。親も、周囲の人も、子供すらストレスをためています。そんな人たちが、狭い場所、不愉快な場所に押し込められれば、互いにぶつかることもあるでしょう。

時間や心に余裕があれば、混雑時を避け、次の列車、明日の飛行機にもできるでしょうが、余裕がないとそんなこともなかなかできません。

■個室化している私たち

図書館でも銭湯や温泉でも、ラーメン屋でも、隣の人とのしきりがあったりします。昔は大部屋で寝ていたのに、個室になったりしています。カラオケも、以前は他人同士が一緒に歌っていたのに、カラオケボックスになり、さらに「ひとりカラオケ」も今や普通のことです。

電車の座席も以前なら、体がぴったりするほど詰めあって座っていたのが、今では余裕を持ってすき間を作って座ることが多くなりました。

私たちは、以前よりも自分のスペースを守りたくなっているのです。そこに無遠慮に子供の泣き声などが響き渡ったら、不快に感じる人もいるでしょう。

■子育てが不器用になった私たち

あるデパ地下で見た光景です。おしゃれな若夫婦が、ベビーカーに子供(赤ん坊)を乗せていました。子供がぐずりはじます。泣き始めます。すると、若いパパとママは、「しばらく様子を見よう」と言って二人で子供を上から覗き込んでいました。

この話を年配の人たちの前で話すと、笑い声が起きます。ぐずり始めているのですから、当然子供を抱き上げあやすのが「常識」だからです。

現代のパパとママは、愛にあふれ、子育てへのやる気にあふれ、努力している知性豊かな人が多いと思います。それでも、なかなか上手くいかない「現代パパママ」たちです。「現代っ子」と言われて育った三丁目の夕日世代が、いまや父母や祖父母になっている時代です。

■自動化も合理化もできない子育て

何もかもが便利になり、スピードアップし、自動化が進み、合理的で清潔になた現代社会で、子育ては自動化も合理化もできません。紙おむつができたり、高性能のベビーカーができても、それでもやっぱり昔と同じように、うるさくてきたない子供を手間ひまかけて育てなければなりません。

これは、親にとっても社会全体にとっても、なかなかの重労働です。

■みんなで子育て

以前と違って、地下鉄にも冷房が入りました。小さな子連れの親への配慮もいろいろあります。それでもやっぱり、子育ては大変です。機械や規則の整備で改善できる部分はあるでしょうが、最後は、その場に居合わせた人間たち、私たちの力です。

困っている子供、親、周囲の人々。互いに協力し合うしかありません。子供は手間がかかるものですが、子供こそ私たちの希望です。

昔と同じように、みんなで子供を叱ったり、近所のおばさんにおっぱい(母乳)をもらったりはできないでしょう。それでも、現代人なりの協力の仕方がきっとあるはずです。

何だが当たり前の結論になってしまいましたが、子育ては犬も猫も原始人も行ってきました。当たり前のことだけど、当たり前のことが大切なのではないでしょうか。

大人だって強い人、弱い人がいます。同じ人でも、強いときも弱いときもあります。そんな私達みんなで、支え合いながら子育てをしてきたいと思うのです。

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○「子供」「子ども」の表記について。「子供」が差別的だというのは誤解のようですね。まあどちらでも良いのですが、文科省としては「子供」にしたようです。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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