オリンピックと欲望:自己ベストの出し方
連日、ソチオリンピックの様子が報道されています。メダルが取れた人、取れなかった人。選手たちは、それぞれの思いを込めて、オリンピックに参加しています。すべての選手に様々な物語があります。
◆五輪と欲望
◆必要な欲
欲は必要です。食欲がなければ病気です。性欲がなければ人類滅亡です。勝ちたいと思わなければ、競技になりません。ひきこもりの人も、うまいものが食べたい、恋人が欲しいなどの「欲」が出てくれば、それは改善の兆しです。
幸せになりたい、勝ちたい、誰かを助けたい。こう思えるから、がんばれます。能力が発揮されます。進歩します。
◆欲が強すぎると
心理学では、ヤーキース・ドットソンの法則と呼ばれるものがあります。たとえば、ドアを開けたいと強く思わなければ、立て付けの悪いドアは開かないかもしれません。
ところが、雑居ビルで火事が起きたときなど、今すぐ逃げなければ死んでしまうといったぐあいに、猛烈にドアを開けたい気持ちが強くなりすぎると、かえってドアが開かなくなってしまいます。鍵をあけなければいけないことに気づけなかったり、そのドアは開かないので反対側のドアに行かなくてはならなかったりすることに、気がつけないのです。
(今回のソチオリンピックでは、ドアをぶち壊して開けた選手もいましたが。)
ボブスレー米代表、選手村のバスルームからドア壊し脱出AFP=時事 2月9日Y!。写真はこちら。
ヤーキース・ドットソンの法則によれば、パフォーマンスをあげるためには、欲望(動機、やる気)が低すぎても高すぎてもダメで、適度さが必要です(やればやるほど逆効果:空回りと人間関係の心理学)。
◆欲望のゆがみ
モテたいとか、金持ちになりたいとか、有名になりたいといったことは、多くの人が思うことです。プロゴルファーが、この最後のパットが入れば優勝というとき。この1メートルで、名誉と大金が手に入るというとき、緊張しすぎて手が震えることがあります。練習なら絶対はずさないのに、優勝がかかった短いパットをはずすことがあります。
勝負に勝って良いものを得たいという欲望もありますし、負けて恥をかきたくないという欲もあります。みんなの期待に応えなければと感じる責任感という欲もあります。まじめで良い人ほど、強く感じるでしょう。
でも考えすぎると、練習のように上手にできなくなることがあります。甲子園には魔物がすむ。オリンピクの怖さを知ったというセリフがよく聞かれるように。
◆浅田真央選手も
実力トップレベルの浅田真央選手も、前回バンクーバーオリンピックのフリー演技の直後は、「あっという間に終わってしまった」と涙のインタビューです。
今回、ソチオリンピックのフィギュアスケート団体でも、浅田選手は転倒してしまい、「予想していた以上に緊張してしまった。」「自分の滑りができなかった。」と語っています(個人戦では「自分の滑り」ができますように)。
4年に1度のオリンピックは、特別な場所です。
◆自分らしく:ベストがつくせるように
最初にご紹介した選手は語っています。「これまでよりもっとベストを尽くしたい」。これこそ、大切なことでしょう。オリンピックで自己ベストを出せることこそが、大切ですし、勝利につながります。
もちろん、ベストを出すためには、体の調子や技術の問題など、さまざまな事がらが絡みます。ただ、心理的な面で言えば、欲望のコントロールでしょう。「これが僕にとって最後の五輪だから」と思うことも、一つの方法でしょう。
「オリンピックを楽しむ」というのも、いろんな選手が言う言葉です。上村愛子選手も、キム・ヨナ選手も。でも、この「楽しむ」は、決して手を突くという意味ではありません。欲望をコントロールし、適度な緊張とリラックスを作り出すということでしょう。
それぞれの選手が、自分らしくベストが出せるように、体と心を整えているのです。
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それぞれのベストの出し方
○ソチオリンピック
・上村愛子選手のベストの出し方:自分らしい滑りと「達成感マックス」
○過去のオリンピック
・里谷多英選手(モーグル金メダル)のベストの出し方:「コースしか目に入らなくなった。周りの声も耳に入らない」
・清水宏保選手(スピードスケート金メダル)のベストの出し方:「緊張やプレッシャーから逃げてはいけない。逃げようとすると、よけい緊張する。」
○自分らしさの心理学・サポートの心理学