東日本大震災「風化」を越えて
■風化:東日本大震災から3年
あの日から、3年がたとうとしている。まだたったの3年だ。まだ時計が動き始めていない人もいるだろう。昨日の出来事のように、あの日を感じる人もいるだろう。
しかし、千日を越えて、日本全体はどれほどあの未曾有の大災害を覚えているだろうか。記憶は薄れる。どうしても薄れる。印象は弱くなる。すでに風化は進んでいる。
ヤフージャパンの意識調査「東日本大震災への意識や関心は「風化」している?」(実施期間:2014年2月21日~2014年3月6日)によれば、およそ4分の3の人が、「風化している」と回答している(3月4日現在)。
被災地支援はおろそかになり、防災意識は弱まる。どんな巨大な出来事も、風化は免れないのだろうか。
震災後、学生達と一緒に陸前高田市に行った。陸前高田市から帰るときに、ボランティアセンターの人に聞いてみた。このあと、私達にできるかとは何かと。
こたえは、「忘れないでほしい」だった。
■悲しく辛い記憶の浄化
深く長く悲しむしかないこともある。しかし、それでも私達は前に進む。それは、戦争も、個人的な死別も、天災も同じだ。
大困難を経験した人たちが、長い長い年月のあと、穏やかにあの時の出来事を話す人もいる。記憶(思い出)が、「浄化」されたのだ。風化して忘れたわけではない。でも、もう取り乱したりもしない。むしろ、辛く悲しい経験を通して、何かを得たと語る人もいる(PTG:ポスト・トラウマティック・グロース:外傷後成長)。
風化ではなく、思い出の「浄化」が起きることはあるだろう。
そのために必要なのは、周囲が悲しみに共感してくれること。そして、安心安全が与えられていることである。
■感情に橋をかける
いつもいつも泣いていれば良いわけではない。しかし、忘れてはいけない。人は、心の中に橋をかけることができる。いつもは、明るく元気に働く。でも、時には、あの時のことを思い出し、深く悲しむ。たっぷり悲しみ、そしてまた日常生活に戻る。そんなふうに心に橋をかけたい。
■共感疲労を越えて:感情で終わらず
震災直後、被災地以外の人々の中で、体調をくずす人もいた。悲惨な報道を見過ぎて、涙が止まらず、食欲不振や不眠になる人もいた。「共感疲労」である。
そうでなくても、多くの人が悲しみを感じ、がんばっている人を見て感動したにちがいない。
けれど、その時の強い感情は、今どれほど残っているだろう。風化は進んでいないか。
感情が弱くなることを責めているのではない。心理学的に言って、感情はいつも一時的なのだ。どんなに大恋愛をしても、喜びの絶頂を味わったとして、その感情がどれほど長く残るだろう。人の心はそういうものだ。
だから、感情に頼ってはいけない。大切なのは、態度である。
■災害文化をつくる
怖いとか、悲しいとか、感動とか、それは大切だ。しかし、記憶や印象は薄れ風化する。だから、風化しない「文化」を作り上げる。たとえば、「津波てんでんこ」である。
古くから伝わる「津波てんでんこ」の文化を、さらに現代によみがえらせ、徹底した教育を行うことにより、「釜石の奇跡」は達成された。
海岸部で、大都市で、災害が起きたときに私達はどう行動すべきか。今次々と取り組みが始まっている。東日本大震災を通して、日本中にすばらしい災害文化が根付いた。そのおかげで、次に起きた災害ではこんなに被害を減らせたと、言うことができるようにしたい。
■夢プロジェクト・記憶を風化させない事業・私達にできること
私は、学生達とボランティア先から帰るとき、見送ってくれた老人の淋しそうな顔が忘れられない。
苦しんでいる人たちがいるのに、ボランティアが去り、支援が減り、記憶が薄れる。残された人々は、見捨てられたと感じる。こんなことがあってはならない。
被災者を支援し防災に役立つ災害文化を作るためにも、記憶や印象が風化していくままにしていて良い訳がない。記憶を、経験を語り伝えていかなければならない。
町の復興や経済支援、心のケアと共に、私達が長く続けられる支援方法を見つけたい。また記念事業や防災教材やモニュメントを作る、語り部を養成するといった作業も必要だろう。
「語り部」でなくても、語ってほしい。私は、阪神大震災や中越地震(おぼえていますか?)や東日本大震災の被害を受けた人々からいろいろな話を聞いたが、一つとして「ああ、聞いたことがある」と思う話はなかった。どれもこれも、新鮮な話だった。
人や物や行動を通して、忘れ去ってしまう風化を防ぎたい。
災害の記憶を風化させず無理なく支援を続けられる「陸前高田市図書館ゆめプロジェクト:みんなで図書館をつくろう」では、被災地支援のために、これまでに百万冊の古本が集まり、1,900万円の寄付がなされている。「陸前高田市の図書館再建のためにあなたの読み終えた書籍をお送りください。」
これは、大金持ちが1人で寄付するよりも、ずっと大きな意味を持つ。参加し、行動した人の記憶は、鮮明に残りやすい。
「大槌町:災害の記憶を風化させない事業」では、鎮魂の森公園の造成や、観光船「はまゆり」(あの、家の屋根に載ってしまった観光船だ)の復元のために、寄付をつのっている。ぜひ実現させたい。
震災の跡を見ると辛いと思う人も多いだろう。原爆ドームだって、「モニュメント」になるまでには長い時間がかかっている。広島市が永久保存を決めたのは、昭和41年だ。風化をさせず、浄化し、文化にするためには、長い時間と大勢の参加が必要である。
ヤフージャパンの「売って。買って。参加して。みんなでつなげよう復興支援」も、無理なく続けられる参加型支援の一つだろう。
震災直後、日本中に置かれた募金箱が見る見るいっぱいになっていった。もう一度同じことは起きないかもしれないが、行動は続けたい。次世代に思いを伝えたい。募金箱がからにならず、いつも誰かが募金したお金が入っているようにしたい。
私達の一つの小さな行動が、風化を防ぐ。支援につながり、防災につながるのだから。
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「陸前高田市図書館ゆめプロジェクト:みんなで図書館をつくろう」
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