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「怒鳴らない子育て」の心理学:両親がイライラしない効果的な叱り方

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

怒鳴らない子育ては、イライラしない子育て。親も子も一歩ずつ進みましょう。

■怒鳴らない子育て

子育て支援と児童虐待防止の対策として、神奈川県茅ケ崎市が全国に先駆けて導入したプログラム「怒鳴らない子育て練習講座」が着実に効果を挙げている。~子供のしつけでは、「怒鳴る」のではなく、「ほめる」「説明する」といったことを基本に、講義やロールプレーイングを組み合わせる。~子供に対する接し方として、(1)「『着替えをしましょう』と言ったら『はい』と答えてきてほしいんだ」(2)「すぐ着替えたら幼稚園に行く前に遊ぶことができるでしょう」(3)「じゃあ一度やってみよう」-という順番で反復する。

出典:「怒鳴らない子育て講座」親子に着実な改善効果 虐待防止対策で 産経新聞 2014年4月11日Yahooニュース

「怒鳴らない子育て」。NHKのあさイチで取り上げられ、本も出版され(『どならない子育て』伊藤 徳馬 (著)ディスカヴァー・トゥエンティワン)、これまでも、いくつかの新聞にも取り上げられています。

「(茅ヶ崎市の「どならない子育て練習講座(通称・そだれん)」に)この日参加したのは母親6人。キレる子どもに逆ギレせず、いかに諭すかを交代で実演した。~深呼吸は前々回の講座で教わった。「10まで数えて心を落ち着ける」方法を試した母親もいた。~「そだれん」は2009年、増加傾向にあった児童虐待を防ぐ支援として始まったコモンセンス・ペアレンティングに基づいて、「効果的なほめ方」「問題行動を正す教育法」などを7回計14時間かけて学ぶ。~「受講してしかり方が分かってきた。まず自分が落ち着くことが大切ですね」」(読売新聞2013.4.24)

朝日新聞も、この「そだれん」を紹介しています。

「怒鳴って強制的に従わせると、子どもには、怒られた印象が強く残る。なぜ怒られたのか、どうすればいいのかがわからず、いっそう言うことを聞かなくなることもある。講座は、叱る意図をわかりやすく伝えることを重視する。(1)「ちゃんとしなさい」などあいまいな言葉は使わず、「片付けてね」「時間がないから急ごう」と具体的に話す(2)良いことはほめ、悪いことをしたら「しまった」と思うような体験をさせて気づかせる、などがポイント。事前によく説明する、約束をしておくといった方法も有効だという。」(朝日新聞2012.12.1)

■「怒鳴らない」は、「叱らない」ではない

Yahooニュースのコメントでも、読者から「叱ることは必要」といった意見があります。もちろん、しつけも、叱ることも、必要です。「怒鳴らない子育て」は、叱ることを否定しているのではありません。ただ、同じ叱るなら、しつけをするなら、効果的にしつけよう、より良い子育てをしようと言っています。

■怒鳴らない子育ては、イライラしない子育て

この講座は、小さな子どもの親向け講座です。小さな子どもに怒鳴るときは、どんなときでしょう。親にストレスがたまり、イライラし、冷静さを失っているときです。そんな状態で、怒鳴って、叱ったりしつけたりしても、なかなか上手くいきません。子どもが反発するかもしれません。ますます泣きじゃくるかもしれません。子どもが恐怖におびえて言う事を聞いたとしても、今度は親が自己嫌悪におちいります。

子育てが上手くいかないと、ますますイライラし、怒りを爆発させたりすれば、さらに深い悪循環におちいります。

イライラするのはやめましょう。と言われても、どうしたら良いかわかりませんよね。ここで、心理学の登場。特に行動療法的な心理学の登場です。

「イライラしない」といった抽象的でつかみどころのない目標ではなく、わかりやすい行動を目標とします。それが、「怒鳴らない」でしょう。

■わかりやすい目標に一歩ずつ近づく

わかりやすい目標を親自身が持つのですが、子どもにもわかりやすい目標を与えます。「ちゃんとしなさい」ではなく、たとえば「はい」と返事をすること、「着替えること」「片付けること」と具体的な行動を示します。

具体的な行動目標を示すことと、もう一つ大切なことが、「一歩一歩」です。心理学では「シェーピング」と呼んでいますが、すぐには直せない行動を、少しずつ直そうとするものです。基本は、「少しでも目標に近づいたらすぐにほめる」です。

■コモンセンス・ペアレンティング

怒鳴らない子育てのもとになっている「コモンセンス・ペアレンティング」は、子どもを虐待したためにわが子から引き離されてしまった親が、再び我が子と暮らすための更生プログラムです。

子育てが上手くいかない→イライラする→怒鳴る→ますます上手くいかない→さらにイラつく→虐待。この悪循環を断ち切るものです。親たちは、「子どもが言うことを聞いてくれない」とよく言いますが、しばしば、言う事が聞けないようなことを、子どもに言っているのです。

■効果的な方法を

教育においては、「べき論」が出やすいものです。「ここは叱るべきだ」とか、「厳しい言うべきだ」という発想です。しかし、心理学科学)の発想は、「どうすることが効果的か」です。

しつけは大事です。しかし、怒鳴ることはあまり効果がないことが多いでしょう。そのときは言うことを聞いたとしても、親子の関係が悪くなってしまいます。

サザエさんのお父さんは、「ばっかもーん」と怒鳴ります。でも、波平はイラついたストレスをただ子どもにぶつけているのではありません。子どもとの深い信頼関係を土台として、そしてユーモアをもっているのが、波平さんです。これは、なかなか高等技術でしょう。それに、波平さんは、タラちゃんには怒鳴っていません。

心理学の行動療法的な考え方や、この「怒鳴らない子育て」が、万能ではありません。でも、効果が上がる時も多いでしょう。

■一歩ずつ

おかたづけや、着替え、歯磨き。一日でできるようにはなりません。一歩ずつです。お母さん、お父さんも同じです。毎日イライラして、毎日怒鳴っている親が、明日から怒鳴らない親にはなれません。少しずつしつけ方叱り方を学びましょう。それで良いのです。一度に上手くいかないからといって、自分や子どもを責めてはいけません。

がんばることは必要ですが、がんばりすぎないことも大切です。

『どならない子育て』の出版社は、アマゾンの本書紹介ページで、読者に言っています。「この本の目標は、どなる頻度を10から6に減らすことです」。

子どもも親も、一歩ずつ。一歩進めば、進んだだけ良いことがあります。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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