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科学の「仮説」とは何か:STAP論文笹井芳樹氏「合理的で有力な仮説」とは

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■STAP論文笹井芳樹氏会見「STAP細胞(STAP現象)は有力で合理的な仮説」

笹井氏は「論文は撤回が適切」とした一方で、STAP細胞の存在については自信を見せた。

笹井氏は「STAP現象は、現在最も合理的な仮説として説明できるのではないか」と語った。〜「存在しないと思っていたら、共著者に加わってなかったと思う。有望ではあるが、仮説として、戻して検証し直す必要がある。それをするだけの価値があるくらい、大きな結論なので。これをあいまいに信じる信じないというべきではない」

出典:理研・笹井副センター長が会見 「STAP現象は最も合理的な仮説」 フジテレビ系(FNN) 4月16日

「(細胞が刺激によって初期化され、多能性を持つという)STAP現象がなければ説明できないことがあり、有力な仮説として客観的に第三者が検証する必要がある」

出典:<STAP論文>「有力な仮説として検証の必要」笹井氏 毎日新聞 4月16日

小保方氏の指導役が会見、STAP細胞「最も有力な仮説」TBS系(JNN) 4月16日

笹井先生は、STAP細胞は、仮説だが、合理的な仮説で、検証する価値が十分になる有力な仮説だと語っています。ネット上で見られた一般の方からのコメントには、「仮説?小保方さんは、STAP細胞はありますと言ったじゃないか」というものもありましたが。

■「STAP細胞はあります!」

先日の小保方晴子氏の会見で、小保方さんは断言しています。「STAP細胞はあります」。

これは、信念とも言えるでしょうし、宣言とも言えるでしょう。また科学者としては、STAP細胞の存在は実証されている、確かな実験によって実在は証明されていると言いたかったのでしょう。

笹井先生も、当初はそう思っていたのではないかと思います。しかし、論文にこれだけのほころびが出てしまった今、「実証された」とはもやは言いにくい、「仮説」に戻ったということでしょう。

■仮説とは

科学の研究は、仮説に基づいて行われます。科学の「仮説」は、日常会話で使うよりも厳密です。

たとえば、隅田川で魚の数が減ったとします。そこである人が「僕は隅田川には恐竜が住んでいると思う。恐竜が魚を食べたんだよ」と考えたとします。この仮説に基づいて、川を調べたり、探検したりできるでしょう。

仮説とは、辞書的に言えば、「ある現象を合理的に説明するため、仮に立てる説」です。

魚が減った現象の説明として、恐竜の存在という仮説を立てた訳です。ただ、これが「合理的」でしょうか。子どもの理屈の範囲では合理的(理屈に合っている)かもしれませんが、大人の考え、専門家の考えとしては、とても合理的とは言えないでしょう。

もっと合理的な考えがあることでしょう。

空の星の複雑な動きを説明する仮説として、まず天動説が作られます。地球を中心としたとても複雑な宇宙の図が描かれます。でも、もっと合理的な仮説として、太陽を中心としてシンプルに描かれた地動説が作られました。

科学の仮説は、様々な観察や調査、それらを行った先行研究、科学理論などをもとに作られます。決してただの思いつきではありません。

隅田川に恐竜がいるという仮説は、科学的にいえば、ただの思い込みです。ネス湖のネッシーも、今や存在を仮定する科学者はいないでしょう。でも、雪男は、科学的にも仮説とえるレベルのようです。

実証されたもの、事実ではない、仮説にすぎないといっても、ただの子どもの思い込みから、科学的、論理的(合理性のある)仮説まであります。科学の仮説は、もちろん科学的に見て合理的でなければなりません。

(さらにややこしいことをいえば、「反証可能性」の問題などもありますが。)

そのようなきちんとした仮説だからこそ、お金と時間をかけて実証しようと思える訳です。

仮説に基づき、データが取られ、その方法と結果であるデータが公開され、検証され議論され、そうして科学者は、知識を得ていきます(科学の「知」:科学者は、どうやって何かを「知る」のか)。

笹井先生は、起きている現象を最も合理的に説明できるものが、STAP細胞の存在であり、STAP細胞仮説は、十分に検証を試みる価値のある有力な仮説だと言っています。STAP細胞が実証されれば、それは細胞生物学の歴史を変える大発見になるでしょう。

■STAP細胞研究の今後

前回の小保方晴子さんの会見では、STAP細胞があるのかないのかよくわかりませんでしたが、今回は論理的説明がされました(専門的な説明は素人には理解できませんでしたが)。

今回の説明は、理研以外の研究者にも影響を与えたかもしれません。笹井先生以外にも、「合理的で有力な仮説」と考えてもらえれば、追試(再現実験)を試みる研究者もまた現れるかもしれません。

一般の生活では、「信じる」ことは大切です。科学でも、信じることで研究が進みます。でも、信じるだけでは科学になりません。ある、ないと信じる、信じないの問題ではなく、検証し、確からしさを高めることが科学です。

今回の会見から推測できるのは、小保方晴子氏はたしかに多くの実験を行っていた。そこで、何かが起きていた。これまでの細胞では説明できない何か新しい現象が起きていたということです。

ただし、なぜこれまで世界の追試(再現実験)が失敗したのかは、よくわかりませんでした。

結局今回の騒動の真相はどうなのか、まだ結論は出ていません。いくつかの可能性(仮説)が考えられるだけです。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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