『アナと雪の女王』主題歌の感動を深める映像の意味を心理学で読み解く:レット・イット・ゴーありのままで
■『アナと雪の女王』ミュージック・クリップ:Let It Goありのままで/エルサ(松たか子): 歌と映像
現代人が抱える問題と解放への道を高らかに歌い上げる「レット・イット・ゴー:ありのままで」。
映画『アナと雪の女王』の「テーマ」(『アナと雪の女王』の心理学:レリゴーと個性の本当の意味を読み解く)、主題歌「レット・イット・ゴー」の「歌詞」の意味(『アナと雪の女王』の魅力:主題歌「レット・イット・ゴー:ありのままで」の歌詞を心理学から解説)を解説してきましたが、今回は主題歌が流れる時の「映像」について解説します。
主題歌の感動を高めてくれる映像も、心理学的に見てとっても深い意味を読み取れます。レリゴー♪の感動は、歌と映像の共同作業ですね。
■夜と足跡さえ消す雪
濃いブルーの夜。真っ白な雪が積もった夜の世界、エルサは一人寂しく歩き、山を上ります。彼女の足跡も降り続く雪で隠れます。
夜は、エルサの暗い心を暗示させます。しんしんと降る雪は、音を吸収し静寂を作り出します。その静けさに、エルサの悲しい心を感じます。雪も山も、精神性や純粋さを感じさせますが、エルサの現実世界への絶望も感じさせます。
足跡が消えて行くのは、エルサのこれまでの人生のむなしさや孤独感を示しているようです。存在感のない、生きてきた証など何もないことの象徴のように感じます。
寒さそうに体を縮めるのも、悲しみと孤独を表します。
■手袋を脱いで
しかし、エルサは「このままじゃだめなんだと」気づきます。小さな頃から、魔法の力(個性)を封じ込めてきたのは、手袋です。エルサはその手袋を脱ぎ取ります。風に舞って飛んで行く手袋が、これまでの束縛からの自由を感じさせますね。
■手を開き、ありのままで
エルサは、「ありのままの自分見せるのよ」と、手のひらを上に向けて、きれいな雪と氷を作り出します。手のひらを上に向けるポーズは、心の解放を感じさせます。
■美しくかわいい雪と氷、雪だるま
心が乱れて、恐怖と不安で鋭い氷を作り出していたのとは違います。小さくきれいな雪と氷、かわいらしい雪だるまを作り出します(後にこの雪だるまはオラフとなって大活躍しますが)。
このシーンでは、エルサの解放された美しくかわいらしい心を感じます。
■さらに大胆な雪と氷「ありのままの自分になるの」
ところが、エルサは小さくかわいらしい雪と氷の模様を、打ち消すような動きをします(雪だるまはもちろんそのままですが)。そしてさらに「ありのままの自分になるの」「何も怖くない」と、さらに大きく大胆な雪と氷を作り出します。
エルサは、小さくかわいらしくまとまろうとはしません。エルサは、もっとビッグに、大人になろうとしています。それが、ありのままのエルサだからです。
■ガウン
エルサは、「少しも寒くないわ」と歌いながら、高価で重たいガウンを取ります。とてもカッコいいシーンです。
エルサを長い間守ってきた、そして縛ってきた重たいガウンを彼女は脱ぎます。エルサの地位や、王国の力や、家来たちが、彼女を守ってきた訳ですが、自立したエルサには、もう必要ありません。
「風よふけ」とチャレンジ精神に燃え、「少しも寒くないわ」とガウンを脱ぎ捨てます。
■悩んでいたことが嘘みたいとと振り返る
「悩んでいたことが嘘みたいね」と彼女は振り返り、遠くの町を見ます。今、高い山に一人で登り(自立し上を目指す)、町を振り返る(過去を振り返る)と、今までの悩みが嘘のように感じます。こうして上から見ると町がとても見えるように、悩み事の数々も、砂粒のようにちっぽけなものに見えます。
エルサは、山の上に駆け上ります。過去を振り切り、自立と自己実現を目指して、高い目標を目指して行く象徴でしょう。
■氷の橋
走り上るエルサの目の前に、深い崖があります。普通なら、ここでストップです。でも、エルサは歩みをとめません。「どこまでできるか自分を試したいの」と氷の橋を作り出します。
最初にできた氷の橋は、たくさんの霜がついたように見えますが、エルサを一歩踏み出したとたんに、きれいに磨かれた氷のようになります。ソフィストケートされた、エルサの心を表すようです。エルサが一歩上るごとに、氷の橋は磨かれて行きます。「僕の前に道はない、僕の後に道はできる」という感じですね(詩人:高村光太郎)。
両手を広げたポーズも、心の解放と、エルサの自信を感じさせます。もしも橋が壊れたら、エルサは崖に落ちて死んでしまいます。でも、エルサは自分が作り出した橋が壊れる不安など、少しも持っていないようです。力強く、手すりにつかまることもなく、両手を広げて、駆け上がります。
「ありのままで空に風に乗って」と歌いながら駆け上るエルサ。まるで空を飛んでいるようです。上に駆け上る映像は、エルサの心の自由と勇気(自尊感情)を示すようです。私たちの心も高ぶります。
■床を踏みならすエルサ
エルサが力強く床を踏むと、きれいな氷の結晶で大理石のような立派な床が出来上がります。このシーンの英語の歌詞は、
“ Here I stand And here I stay ” 。
「ここに私は立つ」といういわけですが、自立して(自律して)しっかりした歩みをしていこうとするエルサの強い決意を感じさせる映像です。
■氷の城の土台と壁を作る
床を作ったエルサは、さらにちょっと腰を落とし、力を込めて、ムギューと両手を上げます。足を踏み鳴らすシーンも、この全身に力を入れるシーンも、あまりお姫様らしくありませんね。エルサは、ただ上品なだけの「お姫様」を捨てようとしています。
高価だが重いガウンは脱ぎ去りましたが、自分の力で自分の城を造ります。お城の土台の部分も、とても立派な土台がむくむくと出来上がりますね。このしっかりとした土台は、エルサの行動と思いがあやふやなものではない強いものだと示しているようです。
■お城の屋根と天井
エルサはお城の屋根と天井を作ります。カメラを真上に向けたような映像です。観客の私たちは、もちろん前方のスクリーンを見ているのですが、エルサ(カメラ)と一緒に上を見上げている気分にさせられます。
音楽が盛り上がると同時に、私たちの心も上を見上げて、さらに高揚感がまします。
■ティアラを投げ捨てる
エルサは、女王の印ティアラを投げ捨てます。ガウンの時は、風がガウンを持ち去りましたが、ティアラはエルサ自身が、「もう決めたの」と歌いながら髪から外し、力一杯投げ捨てます。自由になって、自分の力で歩んで行くことの象徴でしょう。
■髪をほどくエルサ
エルサは「これでいいの」と歌いながら、長い髪をほどきます。それは、自由の象徴であり、大人になることを暗示しているようにも感じます。心理学的に言って「大人になる」とは、自分のことは自分で決めて、自分で決めたことに責任をもつことです。
■ドレスの色が変わる
「これでいいの」「自分を好きになって」「自分を信じて」と歌いながら、エルサはドレスの色を変えて行きます。もしかしたら、王女エルサは、自分で自分の服を決められなかったかもしれません。もしかしたら妹のアナは、もっと自由だったかもしれませんが、女王になるエルサは違っていたかもしれません。
英語の歌詞を見ると、良い子の理想の女の子の私はもういないと歌っています。エルサは、大人になり、自律と自由を手に入れたのです。
■朝日と光とモンローウォーク
「光り浴びながら」と歌ってバルコニーに出るエルサ。朝日が上ってきます。朝日は、新しい生活の象徴。光は喜びや希望の象徴でしょう。西洋キリスト教の世界観に立てば、光は私たちを解放する神の象徴でしょう。
このシーンのエルサの歩き方を見ると、腰の動きを強調した「モンローウォーク」に見えます。これは、大人の女性の象徴であり、自律と力強さの現れのように思えます。
■完成したお城、閉じるドア、きびすを返すエルサ
映像は、カメラを引いたように、エルサが作った氷の全体像を移します。移します。大人になったエルサを力を感じます。エルサは、きびすを返し、バタンとドアが閉まります。古い私は過ぎ去ったと語っているようです。誤った過去との決別、これからの力強い歩みを連想させます。
自律して歩みはじめれば、困難はあるに決まっています。でも、もう今まではと違います。
「少しも寒くないわ」
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