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放火の犯罪心理学:韓国病院放火、地下鉄放火事件報道を受けて

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■韓国で連続して放火事件発生

◇82歳認知症患者を放火容疑で逮捕~韓国南西部~の病院で28日午前0時半ごろ、火災が発生し、高齢の入院患者20人と病院職員1人の計21人が死亡したほか、8人が重軽傷を負った。

出典:<韓国>病院で火災 高齢患者ら21人死亡 毎日新聞 5月28

韓国ソウル南部の地下鉄3号線道谷駅付近で28日午前11時(日本時間同)ごろ、乗客の男が地下鉄車内に放火し、乗客が避難する騒ぎがあった。~男は逃走したが、まもなく放火容疑で逮捕された。男は70代で、持っていたリュックサックに火を付けたという。~車内には約370人の乗客がいたが、全員避難した。

出典:ソウルの地下鉄でも放火=乗客避難、1人負傷 時事通信 5月28日

放火はどこの国でも毎日のように起きてしまいますが、多くの被害者が出た病院への放火、大事故になりかねなかった地下鉄への放火が連続して発生し、大きなニュースになっています。

■放火罪

日本では、人がいるような場所に放火すると(現住建造物等放火罪)、死刑または無期懲役あるいは5年以上の懲役となっており、殺人と並ぶ重罪です(刑法108条)。

韓国では、人がいる場所に放火すると、無期または3年以上の懲役。その放火によって人が死亡すると死刑、無期又は7年以上の懲役と定められています(刑法164条)。

日韓どちらの場合も、人がいる場所というのは、民家のほかに病院や電車なども含みます。

日本では、火災原因としてタバコと一位二位を争うのが放火です。日本を含め様々な国で、全火災の中の十数パーセントが放火です。

■放火犯

放火犯の多くは、男性です(7割程度)。若い人の犯罪も目立ちます。

放火は、実行が簡単な犯罪です。特別な道具も要りませんし、腕力も必要とせず、高い技術も知識も必要ありません。ですから、時に幼い子どもが放火で補導されることもありますし、今回の韓国の病院放火事件では82歳の認知症患者が逮捕されています。

■放火の動機

1 報復、恨み、嫉妬、憤怒

人間関係のトラブルが、放火の大きな動機になります。個人的な恨みもありますし、激しい怒りの表れの場合もあります。

2 権威への挑戦

その人にとって、大きくな存在、自分を押しつぶすようなものへの放火もあります。

4 犯罪隠匿

自分が犯した別の犯罪を隠すために火をつけることがあります。

5 利得目的

何かの利益を得るための放火です。保険金目当てだったり、放火すれば嫌なテストを受けないで済むといった動機もあるでしょう。火事の写真をネットに投稿して注目を集めるために放火するといった事件も起きています。

6 脅迫、テロ

言うことを聞かないと、家に火をつけるぞという脅しの実行です。

7 放火癖

火をつけること事態に快感を感じ、癖になってしまったように繰り返す放火です。スッとする。ワクワクするという犯人もいます。どうしても放火が止められない場合は、一種の衝動制御障害とも言えるでしょう。

■韓国病院放火、地下鉄放火事件

今回の2つの放火事件の動機は、まだ不明です。

地下鉄の放火事件は、個人的恨みではないでしょう。70代の男性が逮捕されていますが、自分の人生や社会全体への何かの思いがあったのでしょうか。

韓国では、2003年にテグ地下鉄で放火事件が発生し、192人が死亡、148人が負傷する大惨事となっています。この事件は、犯人の自殺願望が動機となっていました。

日本では、1980年の新宿西口バス放火事件がありました。6人が死亡、14人が重軽傷を負う惨事となりました。この事件の犯人男性は、人生に絶望していたことと、事件の直前に通行人に侮辱されたことが事件の動機になりました。

韓国の病院放火事件は、個人的恨みかもしれませんし、病院への不満かもしれません。自殺願望かもしれません。そもそも逮捕された「82歳認知症患者」に、どれほどの判断能力、責任能力があったのかわかりません。

韓国は、短期間に大きな経済成長を達成しました。しかし、どの社会でも急激な成長はひずみを生みます。韓国も残念ながら自殺者が増えています。

安全意識を高める、防犯への備えを強める、そして国民一人ひとりが希望を持てる社会を作ることが大切ではないでしょうか。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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