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アイドルの握手会、どうするべき?:芸能人はなぜ狙われるのか、どう犯罪と戦うか:AKB48襲撃事件から

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(イメージ写真)

■AKB48握手会襲撃事件の衝撃

AKB48が握手会の会場でのこぎりを持った男に襲われる事件が発生しました(「AKB48襲われる、握手会で男が刃物振り回し川栄李奈さん、入山杏奈さんら3人負傷」:社会と心のバランスと防犯)。

逮捕された男性は、「誰でもいいから殺したかった」と供述しています。中学時代は、陸上の選手でしたが、性格が荒いと評価されると同時に、無口でおとなしい内向的な人とも言われています。

内向的の良いとこ悪いとこ:内向的な人が幸せになる方法

逮捕された男性は、特に川栄さんらを狙ったわけではないようです。「AKBなら誰でも良かった」と語っていますが、なぜAKB握手会で犯行に及んだのか、単に人が集まっている場所を選んだのか、AKBにこだわりがあったのかはまだわかりません。

「誰でもいいから殺したかった」などと犯行動機を語る通り魔的犯罪者は、しばしば駅前や繁華街、大学付属小学校など、にぎやかな場所、幸福そうな人々、成功者と感じられる人が集まる場所で凶行に及びます(秋葉原無差別殺傷通り魔事件の犯罪心理学)。

アイドルとの握手会は、AKBとその系列グループだけではなく、多くのアイドルたちが実施していますが、事件を受け、延期中止が相次いでいます。

■なぜアイドル、芸能人は狙われるのか

大スターが襲われた事件としては、 

1957年、美空ひばりさん(当時19)がファンの少女に塩酸をかけられ、顔にやけどを負う事件が発生しています。

1963年には、吉永小百合さん(当時18)の都内の自宅に、ピストルを持った男が押し入る事件が発生しました。

1983年には松田聖子さん(当時21)が沖縄での公演中、舞台に上がってきたファンの少年に頭を殴られ気絶する事件が発生しました。

1980年のジョン・レノン射殺事件も、ファンの青年によるものでした(陰謀説はありますが)。

今日5/29も、ブラッド・ピットが顔殴られる、「マレフィセント」のプレミア上映で(ロイター 5月29日)といったニュースも入ってきました。

熱烈なファンが起こした事件は、ストーカー殺害事件などに近い心理でしょう(三鷹市女子高生刺殺事件:ストーカー犯罪防止のために私たちができること)。

恋愛感情ではなくても、スターに理想を求め、思い通りにならないと裏切られたと感じる人はいます。芸能人は目立つ存在ですから、社会への恨み、成功者へのねたみの象徴として、選ばれてしまうこともあるでしょう(恋愛心理学恨みの心理学)。

歪んだ性的欲求によって、タレントを狙ったり、アイドル握手会でも自分の手に体液をつけて握手しようとする参加者もいるようです。

■「会いにいけるアイドル」への現代的攻撃

身体的な攻撃ではなくても、暴言などをアイドルに向ける「ファン」もいます。

「ライブで最前列にいて応援していたのに、どうして目線を合わせてくれなかった!」「ブログやツイッターでコメントしてるのに、なんでレスしてくれないの」「何回も握手会に通っているのにどうして名前を覚えてくれないんだ」

出典:AKB襲撃事件で表面化 握手会のキケンな実態 手に唾液や精液を付けてくるケースも (夕刊フジZAKZAK) 2014.05.27

たとえば昔の映画スターは、雲の上の人でした。しかし今のアイドルたちは、身近さを強調します。特にAKB48は「会いにいけるアイドル」のコンセプトで活動してきました。その成功から、その後のアイドルたちも同様の路線で来ています。

するとファンの中には、本当に身近な存在だと誤解して、無理な要求をしてくる人が現れるのでしょう。スターに近づきたい思いは以前のファンも同様だったでしょうが、昔は「分をわきまえていた」と言えるかもしれません。また現代の青年の方が、思ったことは直接口にしやすいのかもしれません。

■アイドルの握手会どうするべき

Yhoo!JAPANの意識調査「アイドルの握手会、どうするべき?」では、「中止すべき」が42.9%、「警備など安全対策を強化して開催すべき」が49.4%となっています(5.29現在)。

これだけの騒ぎになり、被害者が出ているわけですから、いったんは中止(延期)は当然でしょう(AKB、31日まで秋葉原の劇場休館&当面の握手会延期に)。今後どうするかが問題です。一切中止にするべきだという意見もあるでしょう。

しかし、これまでの芸能人襲撃事件も、握手会のような場面だけで発生しているわけではありません。コンサート会場でも、公道上でも、危険は常にあるでしょう。

特定個人の芸能人を狙った場合などは、まだ対策も取れるでしょうが、今回のような「誰でも良い」と考える加害者、また通り魔事件でよく見られるような逮捕を恐れていない加害者の場合には、対策はかなり難しいでしょう。

アイドルとファンとの間にアクリル板を置いて、穴から手だけを出して握手会を行うなども考えられるでしょうが、それは「握手会」と言えるでしょうか。

(テレビドラマ「24」では、大統領と握手する方法で大統領を毒殺する場面も出てきます)。

■安全と交流:アイドル握手会どうするべき

芸能人も、政治家も、安全を考えれば、一切一般国民に近づかないという方法も考えられます。しかし、それは彼らの本意ではないでしょう。

銀行窓口やコンビニのレジカウンター、タクシーなども同様です。安全を考えれば、鉄の板で仕切り小さな小窓からやり取りする方法も考えられます。そんな店やタクシーは、日本にはないでしょうが。

防犯を考えないのではとても困りますが、防犯だけを考えてもうまくいきません。バランスが大切です。

「危険」なことはするべきではありません。しかし「危険性のあること」をすべて中止にすることも、望ましくありません。それは、たとえば乗り物や、子どもの遊具、運動会や体育の競技種目も同様でしょう。

衝撃的な事件事故があったからといって、即座に中止することは冷静な判断とも思えません。また、被害者が出ているのに対策を取らないのも無責任です。

何事にもメリットとデメリットがあります。大切なのはバランスです。危険性を下げたうえで、本来の目的(楽しさや体力増進やお客様との交流など)が達成されるように考えるべきでしょう。

■ファンから声を上げよう:アイドルの握手会どうするべき

危険性を下げる具体的工夫はいろいろあるでしょう。タレント側も、主催者側も、事件事故は防ぎたいと強く思っているに決まっています。しかし、主催者側は心配しています。

「不審な人物に対しては手荷物検査も行っていたが、あまりやり過ぎてもファンの反発を招く。警備を厳格にし過ぎるとファン離れにつながることもあり、難しい部分もある」

出典:AKB握手会の惨劇 警備上の問題点とノコギリ男の素性:ZAKZAK(夕刊フジ) 2014・5・26

せっかくアイデアがあり、予算をつけても、主催者側のこのような心配と不安によって実行されないのでは意味がありません(心配と不安の正体)。またたしかに参加者側も(アイドルもファンも)、スタッフたちからにらみつけられ、強制され、楽しい雰囲気のない握手会など、望んでいないでしょう。

だから、ファンの側から声を上げるのはどうでしょうか。積極的に防犯に協力すると申し出るのはどうでしょうか。特に熱心なファンの皆さんを中心に、他の参加者にも呼びかけるのはどうでしょうか。

その結果、より良い防犯アイデアが実行され、同時に楽しいふれあいの雰囲気もかもし出されるのではないでしょうか。

AKBでは、すでに警察官OBで組織された「OJS48」(おじさん48)という警備スタッフも警戒にあたっているそうです。このようなユーモラスでかつ効果的な防犯を進めたいと思います。

ファンから声を上げると言っても、ファンの皆さんが互いに疑心暗鬼になったり、妙な自警団のようなものを作ってしまうのは、逆効果でしょう。ファンからの素朴で純粋な声と、それをまとめ上げる組織的対応が必要でしょう。

国家によるテロ対策なども、国民からの協力がないとできません。荒れた学校を良くするのも教職員の上からの力だけではなくて、保護者や生徒からの力が必要です。

DJポリス」も、楽しい雰囲気を壊さずに安全を守る良い方法でした(「DJポリス」の言葉に若者が従った理由を心理学的に考える)。

■犯罪に負けない方法

卑劣な犯行のために、大勢の人がいままで築きあげてきたすばらしいものが一瞬に壊れてしまっては、犯罪に負けてしまうことになるでしょう。今後無期限で握手会を中止とか、まったく握手会の楽しい雰囲気が消えてしまうのはとても残念です。

一方、十分な対策を取らず再び犯罪被害者を出してしまうのも、犯罪に負けることになってしまうでしょう。

警察も、AKB48の運営会社「AKS」に、劇場の警備強化を要請しています。AKB48の姉妹グループ「NMB48」「SKE48」「HKT48」の公演にも、金属探知機が持ち込まれたりしています。

事件を通して、さらに安全でさらに楽しい握手会にしていくことこそが、犯罪への勝利ではないでしょうか。それは、関係者みんなの力によって実現することだと思うのです。

■握手会なくさず安全確保対策を

《碓井真史・新潟青陵大大学院教授(社会心理学)の話》 衆人環視の中での犯行を思いとどまらせるのは、家族や会社といった社会とのつながりだ。コミュニティーの絆が弱い現代の社会では、こうした事件のリスクはかつてより高いと言える。だが、事件が起こったからといって、握手会が開かれなくなることはファンは望まないだろう。握手会をなくさず、しかし安全を確保するにはどういう対策をとるべきか、ファンも一緒になって考えるべきではないか。

出典:AKB握手会場、突然の悲鳴 手荷物検査はランダム 朝日新聞デジタル 5月25日

(今後のことを考える上で、被害者のことももちろん考えなくてはいけません。犯罪被害者保護について、引き続きページをアップします。)→アップしました。

心の傷の癒しとAKB48総選挙:犯罪被害者のトラウマと支援:心の傷はゆっくり治る

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『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』 碓井真史著

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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