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心の傷の癒しとAKB48総選挙:犯罪被害者のトラウマと支援:心の傷はゆっくり治る

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■『第6回AKB48選抜総選挙』開票イベント(東京・味の素スタジアム):川栄李奈さん

AKB48握手会での襲撃事件で、けがをした川栄李奈さんと入山杏奈さん。AKB48選抜総選挙には欠席とされていましたが、サプライズ登場です。

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右手の負傷箇所に包帯を巻いたまま会場に現れた川栄は、涙を浮かべながら〜「大丈夫です」〜「今回は皆さんにすごいご心配をおかけしました。私は今すごく元気です。こんな素敵な場所を用意して待ってくれたファンの方に本当に感謝しています。私のピンチを皆さんがチャンスに変えてくれました。だから私はまたこの1年、大好きなAKB48で頑張っていきたいと思います。本当にありがとうございました!」〜「全然怖くないです、大丈夫です。応援してくれるファンの皆さんとメンバーがいる限り、私は絶対に負けません!」。

出典:16位の川栄、包帯巻き急きょ会場入りし涙のあいさつ…初の選抜入り デイリースポーツ 6月7日

とても前向きで元気な発言でした。ファンの皆さんにとっては、嬉しい限りでしょう。でも、少し心配です。

■犯罪被害者の心の傷

大きなケガをすれば、痛いし、怖いし、たとえばバイクで大けがをすれば、退院後もすぐにバイクに乗りたいとはなかなか思えません。事故ですらそうですから、事件、犯罪被害となれば、なおさらです。

犯罪被害を受けた方は、どのような心理を持つでしょうか。

・否認:現実を受け入れられない。

・怒り、憎しみ:加害者への怒り憎しみ。

・抑うつ状態:気持ちが沈む、やる気が出ない。無力感。

・自己矮小(わいしょう)感:自分が小さくなってしまった感じ。

・恥:本当は恥じることなどない被害者なのだが、恥ずかしく感じ、自尊心が低下して隠れたくなる気持ち。

・恐怖:恐怖心が消えない。同じような状況を避ける。

・孤独感:犯罪被害者の数は少なく、共感が得られにくく、孤独感を持つ。周囲からの支援も受け取れない。

・様々な二時被害:心ないうわさ、失職、退学などで、様々な心の問題が生じる。

これらのことが、すべての犯罪被害者に出るわけではありません。個人差が大きなものです。体の傷のように、客観的に測ることもできません。

■PTSD(心的外傷後ストレス障害)

大きな衝撃を受けた後、おびえたり、不安を感じるのは当然でしょう。それが、数週間で消えていけば良いのですが、時には長期間残ってしまうこともあります。いったん元気になったようにみえた後で、症状がでることもあります。

PTSDの症状

・侵入、フラッシュバック:あの時の恐怖が、突然よみがえります。

・回避:ショッキングな出来事が起きた場面を避けます。

・覚醒亢進:リラックスできない。不眠、イライラなどが起きます。

ある犯罪被害者の女性は、事件直後とても不安定になり、その後元気になったように見えたのですが、数ヶ月後再び悪夢を見るようになりました。

PTSDは、激しい症状として表れるだけではありません。たとえば、勇気がなくなったと感じられたり、決断力が鈍くなったと感じられることもあるでしょう。

■アイドルと心の傷

川栄李奈さんと入山杏奈さんも、病院から退院する時にも元気な姿を見せ、前向きなコメントを述べています。二人ともプロ根性があるのでしょう。病院に運ばれた時も、握手会がどうなったかを心配していたそうです。

そして総選挙開票イベントでの態度も、とても立派です。本当に、心の傷を乗り越えたなら、すばらしいことです。

でも、芸能人、アイドルは、元気で前向きな姿を見せざるを得ない面もあるでしょう。マネージャーに強いられるわけではなくても、アイドルはもともと一生懸命な人たちですから、元気な態度を見せることでしょう。

ファンとして、周囲としては、ますます応援したくなるでしょう。けれども、もしかしたらその態度ほどはまだ元気になっていないかもしれません。意識的無意識的に無理をしているかもしれません。

長い目で見ましょう。体の傷は直線的に治っていきますが、心の傷が治るのはもっと時間がかかり、行きつ戻りつしながら治るでしょう。

ひたすら大事を取れとは言いません。総選挙のようなイベントが、回復のためのステップになることもあるでしょう。もうすっかり元気なのかもしれません。でももしかしたら、心が無理をしているのかもしれません。

いったん元気な姿を見せたからといって、もう心配がいらないわけではありません。たしかに、いつまでも腫れ物にさわるように対応することも間違いです。しかし簡単に元気になったと思い込まないことも必要です。

心は、ゆっくり回復していくでしょう。マスコミ、ファンの皆さんも、私たちみんなで、見守っていきたいと思います。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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