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号泣県議は笑いもの?(研究者の物まねはダメなのに?):私たちは何をどこまで笑ってよいのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■野々村兵庫県議員とメディアと私たち

一躍有名人です。多くのメディアや、マスコミ人、芸能人が、彼の話題を取り上げています。彼は、数字(視聴率)が取れます。政治に関心がある人も、政治になんか関心のない人も、どちらも彼の話題に注目です。

そして、多くの人が彼を「笑いもの」にしていないでしょうか。STAP細胞の小保方晴子氏の物まねをしようとしたバラエティ番組は、放送前からずいぶん批判されたのに。野々村議員なら良いのでしょうか。私たちは、なぜそう感じてしまうのでしょうか。

一般紙の記事によくついている丸い形の顔写真すら、「号泣顔」が使われていました(新聞は笑いものにする意図はなかったかもしれませんが)。お笑い芸人の芸としての泣き顔と野々村議員の泣いているときの顔がそっくりだといった芸能ニュースも流れています。

■号泣県議

兵庫県議の野々村竜太郎氏。政務活動費の使い方に疑惑があると追求され、記者会見を開くことになりました。これだけなら、小さなニュースで終わったことでしょう。ところが、記者会見の途中で号泣です。これは、インパクトのある映像でした。

マスコミがいっせいに大きく報道します。ニュースでもワイドショーでも、新聞雑誌でも大きく取り上げられ、海外でも報道されました。大ニュース扱いです。

野々村議員が提出していた報告書は、たしかに不自然なところがあります。ただし、この段階では違法でもルール違反でもなかったようです。交通費の領収書はなくても認められます。野々村議員が、提出した書類どおりに出張し、議員として必要な「調査研究その他の活動に必要な経費」として使っていたのであれば、規則違反ではありません(もっと丁寧に内容を書くべきではあったでしょうが)。

もちろん、あのような号泣は、あの場にふさわしくないことは言うまでもありません。

■何を責めるべきか

野々村議員に対する責任追求は当然です。野々村議員も、政治家として政務活動費の支出に関する説明義務を果たすのは当然です。また、彼の極端に感情的な態度が非難されるのも、仕方がないでしょう。野々村議員自身も「感情的になってしまい申し訳なかった」と謝っています。

政務活動費の支出に関しては、いろいろ矛盾が指摘されています。本当に報告書どおりの支出なのか、議員として必要な支出だったのかと、追求は強くなっています。きちんと説明できない限り、責任を問われるのは当然です。

ただし大きなニュースバリューを持ったのは、「号泣」(号泣の映像)の方でしょう。

では彼の「号泣」については、さらなる謝罪や責任追及をするべきでしょうか。しかし、そんな声は聞きません。「号泣についてもっときちんと説明しろ!」などという意見はないようです。

あのような感情的態度をとるのは、議員としてふさわしくない、兵庫県民として恥ずかしいという意見はあるでしょう。政務調査費不正支出疑惑と合わせて、「議員を辞めろ!」という意見が寄せられるのは、理解ができます。

■政治家を笑ってはいけないか

いけなくはないと思います。疑惑の政治家や、多くの反対意見が出ている政治家を、ユーモラスな一コマ漫画にして笑うといった表現は、昔から行われています。表現方法として、価値のあるものです。

政治家や大会社の社長など、庶民がまともに戦えない相手に対して、笑いで戦うのは正しい方法だと思います。有権者に選ばれた政治家に対しては、基本的には敬意を表するべきだと思いますが、必要があれば、厳しく追求し、時に笑いの武器を使って戦うのも、国民の責任であり、マスコミの役割だと思います。

しかし、野々村議員を笑いものにしているとしたら、それは政務活動費に関してでしょうか。号泣に関してでしょうか。野々村議員の号泣を、笑いものにして良いのでしょうか。

■号泣

私も最初に号泣映像を見たとき、びっくりしました。訳がわかりませんでした。たしかに、ちょっと笑ってしまいました。

その後の報道によると、このような感情的態度は今回だけではないようです。若いころから、そして議員になったあとも、ときおり非常に感情的な態度が出ていたようです。

メディアに登場する心理学者の中には、「パーソナリティ障害」(性格の極端な偏り)を指摘する人もいます。

もしもそうだとするならば、私たちはその「障害」を笑いものにしてよいのでしょうか。

■心の病と報道

事件が起きた際、加害者の言動がとても奇妙なとき、精神科の通院歴ありのとき、しばらく実名報道されないときがあります。精神疾患によって責任能力がないと最初からわかっているのなら、マスコミは実名や顔写真の報道を控えるのでしょう(ただし、精神疾患の人が危険な人といった考えはまったくの誤解です)。→「責任能力、精神鑑定とは何か

では、パーソナリティ障害ならどうでしょう。パーソナリティ障害で責任能力なしということはありません。パーソナリティ障害は、「病気」かというと、微妙です。

私たちの周囲には、パーソナリティ障害の人はたくさんいます。とても変わり者だけれども優秀で大成功している人は、たくさんいるでしょう。総務省も「変な人」を募集するほどです(変な人:「革新的な技術やアイデアを持っていながら、社会性が欠けているため研究機関に所属できなかったり、研究費の申請書類をそろえられずにくすぶっている「異能」の人」)。

だから、パーソナリティ障害だからと言って、実名報道しないとか、責任追及しないということはないでしょう。

けれども私たちは、人とは異なる、人と同じようにはできないという部分を、どの程度笑いものにしてよいのでしょうか。

■野々村議員と小保方研究員

兵庫県議会議員と理化学研究所研究員。どちらも税金が使われています。二人とも、現段階では疑惑が持たれていますが、どちらも野々村氏、小保方氏と敬称がつけられます(それは当然です)。

ところが、小保方氏をお笑いのタネにすることは世間が許さず、一方、野々村氏を笑いのタネにすることは世間が許しているように感じます。それは、政治家か研究者の違いでしょうか。疑惑の内容の違いでしょうか。

それとも、男か女かの違いでしょうか。二人の見た目、風貌の違いでしょうか。

小保方氏が抱える問題は素人にはわかりにくく、野々村氏がかかえる問題(お金と号泣)は誰にでもわかりやすいからでしょうか。

STAP問題と県議の不正支出疑惑の、問題の大小でしょうか。

それとも、映像(記者会見での態度)の違いでしょうか。

小保方氏の研究論文に関する疑惑は徐々に大きくなり、ついに論文は撤回されました。小保方氏の記者会見の内容は、他の科学者から見てとても不十分なものでした。

しかし、小保方氏の会見は一般の視聴者からみれば完璧でした。パフォーマンスとしては、最高でした。彼女がテレビに出るたびに、一般のファンはむしろ増えたのでないでしょうか。擁護する意見もたくさんでました。佐村河内守氏の記者会見とは大違いです。

そして今回の、野々村氏の記者会見。内容的にも、パフォーマンス(態度)としても、結果的に最悪でした。子どもが見ても、あんな態度はだめだと感じるでしょう。最悪のパフォーマンスでした。とびきりの最悪のパフォーマンスだからこそ、すばらしい「ネタ」になったのでしょうか。

失礼を承知で言えば、まるでコントのようでした。ただ野々村氏があのまま泣き崩れていれば、また違っていたかもしれません。笑いものにはされなかったかもしれません。しかし、彼はその後すぐ、奇妙なほどに普通の態度になって謝罪しました。

政治家としての本来強い立場、政務活動費疑惑、コントに出てくる泣き虫のような号泣、その後の冷静な立ち直り、最初に名詞を要求するような攻撃的態度。これらがあいまって、彼のことは「笑いものにしても良い」という雰囲気が作られたのでしょう。

野々村氏は、疑惑を持たれ責任追及されるようようことをしてしまいました。文句を言われたり、笑われたりするような態度も取ってしまいました。そのように報道されるのも当然です。

しかし、ここまで笑いものにされ続けると、私は個人的には不愉快になってきました。現段階では、彼は犯罪者ではありません。「病気」ではなくても「障害」かもしれないと語る人までいます。その野々村氏を、私たちはどこまで、いつまで、笑いものにするのでしょうか。

子どもたちは見ています。世界も見ています。みんなで政治家を見張りましょう。疑惑は追及しましょう。笑いも武器にしましょう。しかし、笑ってよいときといけないときを、しっかり考えていきたいと思います。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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