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長崎・佐世保高1女子同級生殺害事件の犯罪心理学:教訓はなぜ生かされなかったか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)

■佐世保高1女子同級生殺害事件

長崎県警は27日、長崎県佐世保市の高校1年、松尾愛和(あいわ)さん(15)を工具で殴るなどして殺害したとして、同じ高校の同級生の女子生徒(15)を殺人容疑で逮捕した。遺体は女子生徒が1人で住むマンションの室内で見つかり、頭部と左手首が切断されていた。女子生徒は「すべて私が1人でやりました」と容疑を認めており、県警が経緯や動機を調べている。

出典:<高1同級生殺害>遺体の一部切断 女子生徒逮捕 佐世保 毎日新聞 7月28日

長崎県で、佐世保市で、「また」衝撃的な事件が起きてしまいました。

決して、この地域が悪いわけではないのですが。

むしろ以前の事件後、学校現場は良い活動をしてきたはずなのですが。

■長崎市、佐世保市での事件

2003年長崎市で中学1年の男子生徒が幼児を連れ去って殺害する事件が発生。

長崎男児誘拐殺人事件

2004年年佐世保市で、小学6年の女子児童が校内で同級生をカッターナイフで切りつけ殺害する事件が発生。

佐世保小6女児殺害事件

■容疑者生徒と被害者生徒

まだ断片的な報道しかされていませんが、成績の良かった女生徒のようです。被害者女児生徒とは中学も一緒で、高校も同じクラスになりました。県内有数の進学校と報道されています。

容疑者である女生徒は、成績は良かったものの、友人は少なく、小学校のときから人間関係でトラブルを度々起こしていたとの証言もあります。

犯行現場となったのは、1人暮らしをしていたワンルームマンションです。母親との死別後、父親が再婚しましたが、この女生徒は新しい家庭を嫌い一人暮らしを始めたとの報道もあります。

被害者生徒は、明るく面倒見の良い生徒だったようです。友人も少なく学校も休みがちだった容疑者生徒に、やさしくしていたとも思われます。

7/29補足:学校は県内有数の中高一貫進学校・新たな供述も 

佐世保高1女子同級生殺害事件の犯罪心理学:人を殺してみたかった・遺体をバラバラにしたかった

■教訓はなぜ生かされなかったか

長崎県教育委員会は、命の大切さを小中学校の児童・生徒に教える「心の教育」に力を入れてきた。~県教委と佐世保市教委は、毎年それぞれ「長崎っ子の心を見つめる教育週間」「いのちを見つめる強調月間」として、命の大切さや規範意識に関する授業を集中的に行う期間を設け、学校ごとに講話や授業参観、地域交流などを実施してきた。

出典:また悲劇、長崎県「命の教育」届かず 読売新聞 7月28日

命を大切にする心の教育は、すばらしいと思います。長崎県は良い活動をしてきたと、私も聞いています。

しかし、残念ながら再び事件は起きてしまいました。子どもが子どもを殺す事件は、事件の中でも最悪です。そして、とても稀なケースですから、残念ながらどんなにすばらしい地域でも、起きてしまうことはあるでしょう。事件が起きたからといって、地域を責められません。

しかし、命を大切にする教育がこのような事件を防止する力になっていたかと言えば、それは疑問です。

以前の長崎市の事件も、佐世保の小学生の事件も、今回の女子高生殺害事件も、事件の背景には、発達の問題や深い心の病理性が考えられるからです。

教育はもちろん大切ですが、たとえ教育が悪いからといって、同級生を自室で殺害し遺体を切断するような事件が起きるわけではありません。

道徳的な教育は大切ですが、それで心の深い病理性が解決するわけではありません。

関係者を責めるつもりは一切ありません。この容疑者少女に関わってきた人々は、おそらくその時々に努力してきたことでしょう。しかし、もしも誰かがもっと深く心の病理性の部分まで関われていたら、結果は違っていたかもしれません。

成績は良くても、トラブルは起きていたようです。おそらく本人も困っていたのではないでしょうか。もしかしたら、チャンスはあったかもしれません。

もちろん将来人を殺すことなど予測はできません。それでも、トラブルが起きたときに、トラブル処理だけではなく、専門機関につなげ、彼女をケアし続ける体制が取れていたら、事件は起きなかったかもしれません(実際にどうだったのかはまだ報道されていません)。

殺人事件ですから、簡単に容疑者を擁護するつもりはありません。しかし、プロの犯罪者ではない未成年者による少年事件は、小さなきっかけで事件が発生したり、防止できたりする可能性が大きいのです。

道徳的な教育、教育的支援、心理、精神医学的なケア、身近な人々に支え、それらがさらに充実していれば、被害者は出なかったかもしれません。

■学校へのケア

事件は起きてしまいました。事実の解明と正しい裁判が必要です。同時に、被害者保護、被害者遺族保護、そして地域と学校を守る必要があります。

加害者と被害者の両方を出してしまった学校は、嵐が吹き荒れていることでしょう。

事件の解決と、家族のケア、生徒たちの心のケア、そして学校全体が傷ついているスクールトラウマへの対応が必要です。

*新しい情報によりページをアップしました(7月29日)。

佐世保高1女子同級生殺害事件の犯罪心理学:人を殺してみたかった・遺体をバラバラにしたかった

*→新たな報道を受けてページをアップ(8月2日)

佐世保高1女子同級生殺害事件の犯罪心理学:カウンセラーも精神科医も児童相談所もなぜ止められなかったのか

実は、多くの専門家が事件の前から少女に関わっていました。

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有能な人が人生で失敗するとき:犯罪・非行・不適応:大学院出身の岡山倉敷女児誘拐監禁事件容疑者・進学校の佐世保女性生徒

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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