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ロビン・ウィリアムズ氏急死報道から考える自殺予防

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
畑ごしに望むモン・サン・ミッシェル修道院

■ロビン・ウィリアムズさん苦しめた「うつ」、無差別につきまとう病

世界中の人々が、コメディアンのロビン・ウィリアムズ(Robin Williams)さんの死を悲しむ中、かつて最も面白い人と呼ばれたアカデミー賞(Academy awards)受賞者であるウィリアムズさんの精神状態については、多くの疑問が浮上した。〜「(この敏感な感性は)偉大な作家や詩人、音楽家が生まれてくる土台になるが、それは同時に不安、憂うつ、苦悩、気分障害につながる可能性もある」〜「うつは、金持ちであろうと貧しかろうと、どの民族でも、どの宗教を信じていてもつきまとう身体的症状だ。人生の困難な状況において起きると考えられがちだが、その多くは明白な理由なしに起きる」

出典:R・ウィリアムズさん苦しめた「うつ」、無差別につきまとう病 AFP=時事 8月13日

アカデミー賞受賞の名優ロビン・ウィリアムズ氏(63)。その突然の訃報は、世界に衝撃を与えました。私も、ショックでした。

最高におもしろいコメディアンで、ハートウォーミングな人からで、珠玉の名作の数々に出演してきました。彼の作品は、深く人生を味わうような作品でした。

そんな著名な俳優の死は、世界の人々の心を揺さぶったことでしょう。

でも、どんな素晴らしい人に苦悩はあります。いえ、素晴らしい人だからこそ、悩みも深かったと言えるでしょう。芸術家も、コメディアンも、繊細な心の持ち主が多くいます。研ぎすまされた鋭い感覚の持ち主だからこそ、素晴らしい創作ができ、また時に心を病みます。有能だからこそ大きな問題を抱えることもあるでしょう(「有能な人が人生で失敗するとき」)。

日本でも、落語家の桂枝雀さん、桂三木助さんが自殺しています(「桂三木助さん・桂枝雀さんの自殺から考える」)。

ロビン・ウィリアムズ氏も、うつや、アルコール薬物問題に苦しんできました。彼は、その問題を隠さず、戦い続けてきました。一時は乗り越えたかのように思えましたが、最近はまた状態が悪かったそうです。

地元のサンフランシスコ近郊のベイエリア周辺には衝撃が広がっている。〜近所では路上で子どもに笑いかけたり手を振ったりする姿や、バイクに乗っている様子が目撃されており、自殺の可能性が濃厚と伝えられたことに住民の多くが驚きを隠せないようだ。〜「彼は誰からも好かれていた」。〜「とても悲しい。とても残念だ」

出典:R・ウィリアムズ死去で広がる悲しみ、地元は自殺報道に驚き隠せず ロイター 8月13日

■中高年の危機

「スターでない限り、中高年の自殺について聞くことがない」〜研究者たちによれば〜1946年から64年の間に生まれたベビーブーマーは、青年期に自殺率が高かったが、それが中年にまで続いている可能性があると述べている。〜「彼らは年を重ねても、それ以前の世代のような宗教心の高まりがみられない。また、それまでの世代に比べ独身(離婚または未婚)である確率が高く、子供もいない」と述べた。〜過去10年間、ベビーブーマー世代が中年になるにつれ、45歳から64歳までのこの世代の自殺率が高齢者層のそれを上回った。

出典:米のロビン・ウィリアムズさん年齢層、自殺リスク最大 ウォール・ストリート・ジャーナル 8月13日

若い世代の自殺は多く報道されますが、実は自殺が多いのは、中高年です。中高年世代は、日本でもアメリカでも危機的状況かもしれません。

多くのプレッシャーと孤独感の中で生きている中年たちがいます。ぎりぎりのところで苦しんでいる中高年がいます。中高年の自殺予防は大きな課題です(「中年期の自殺予防のために:笹井芳樹氏死亡報道から」)。

男らしく強く立派に生きねばならないと、苦しんでいる人もいるでしょう(「男らしさ・女らしさの心理学:みんなで幸せになるために」)。

中年期クライシスは、誰もが通る道です。

■『奇跡の輝き』

ロビン・ウィリアムズ氏の出演作品は、どれのこれも面白く感動的ですが、作品の一つに自殺を扱った作品があります。

ロビン・ウィリアムズ氏主演『奇跡の輝き』(1998・アカデミー視覚効果賞受賞)です。

愛する妻を残して交通事故で死んだ主人公クリス(ロビン・ウィリアムズ)は、天国に行きます。しかし妻のアニー(アナベラ・シオラ)は、普段はとても前向きな人だったのですが、夫を亡くしたショックで自殺してしまい、地獄へ行ってしまいます。クリスはアニーを救うため、危険を冒して天国から地獄への旅を始めるという物語です。

自殺は罪であり、自殺した人は地獄へ行くという発想はアメリカ文化の中に昔からあるのでしょう。しかし同時に、現代のアメリカ社会は、自殺者を冷たく断罪するだけの社会ではありません。

(「大統領就任式に登場した牧師の息子が自殺:自死遺族へのアメリカ社会の成熟した態度「泣く者と共に泣く」・「自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題」。)

映画の中では、二人の愛から奇跡が生まれます。

そのロビン・ウイリアムズが自ら死を選んだことは、返す返すも残念です。そんな彼だからこそ、悩みは深く、また遺族、ファンの苦しみも大きいことでしょう。

彼が亡くなっても、彼の生前の業績、作品の価値は下がりません。彼はすばらしいコメディアン、俳優でした。同時に、その最期はとても残念なものでした。

自殺は、心理的に追いつめられた末の死であり、予防できるし、予防すべき死です。しかし、起きてしまった自殺(自死)に関しては、どうしようもなかったとしか言いようがありません。

それでも彼の遺志を継ぐとしたら、やはり残された私たち一人ひとりが、すばらしい人生を歩むことだと思うのです。

「うつは、金持ちであろうと貧しかろうと、どの民族でも、どの宗教を信じていてもつきまとう身体的症状だ。人生の困難な状況において起きると考えられがちだが、その多くは明白な理由なしに起きる」

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・悩んでいる方は、「全国いのちの電話」にぜひお電話を。

・家族や友人のうつで悩んでいる方は、「うつの人との接し方」を、ご参照ください。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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