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「アイスバケツチャレンジ」:え?! どうして悪いの?:寄付もチャリティーも普通になる日はいつだろう

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
あ!こっちの「氷」じゃないの?

■アイスバケツチャレンジ

今年の夏の、世界的話題の一つですね。

この運動の経緯やALS(筋萎縮性側索硬化症)については、次のページをどうぞ→「僕がアイスバケツチャレンジを受諾した理由、”次”を指名しなかった理由」。

運動に賛同して笑顔で参加する人もいれば、疑問を表す人もいますね(たとえば「“アイスバケツチャレンジ”は現代版“不幸の手紙。”セレブ支持で広がるキャンペーンの問題点」)。

それぞれのご指摘はごもっともです。一言で言えば、寄付や問題提起はすばらしいけど、この方法は疑問ということでしょうか。もしも強制感を感じさせてしまうとすれば、それはたしかに逆効果であり、問題だと私も思います。

でも、この方法だからこそ話題になり、この方法だからこそ多くの寄付が集まったのも事実でしょう。そしてこの方法に違和感を感じる人もいれば、違和感の表明に違和感を感じる人もいることでしょう。

■アイスバケツチャレンジは、チェーンメール? お遊び?

日本ALS協会は、次のように言っています。

皆さまへのお願い

「アイスバケツチャレンジ」で、冷たい氷水をかぶることや、寄付をすることは強制ではありません。

皆様のお気持ちだけで十分ですので、くれぐれも無理はしないようにお願いします。

言うまでもない、当然のことですね(それでも言う必要があるのでしょう)。

そして、次のようにも述べています。

「ALSアイス・バケツ・チャレンジ」は、難病ALSを克服するチャリティ運動として、アメリカから世界中に広がりを見せています。

当協会では、このイベントが、これまで難病ALSを知らなかった人に関心を持って頂くきっかけになり、ALSへの理解や支援の輪が広がっていると感じています。

また沢山の方からのお問合せやご寄付のお申し出に対し、心より感謝いたします。頂いたご寄付は、ALSの原因究明や治療研究および、患者家族への支援活動のために、大切に使わせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

アイスバケツチャレンジは、大成功のようです。

アイスバケツチャレンジは、まじめな意図で始められたものでしょうが、同時にユーモラスな行為でしょう。寄付金集めのために歌ったり踊ったりするチャリティー活動に似ているかもしれません。

芸能人やお金持ちが、何かのゲームに参加して、罰ゲームとして寄付をするなんて「遊び」もありますね(日本でもたまにある)。まあ、見方次第でしょうが、私は不謹慎とも強制とも思いません。

自然災害があるとイベントを自粛することが多い日本と、そういうときだからこそイベントを盛り上げて、お金を集めて被災者を支援しようと考える欧米人との違いもあるかもしれません。

大金持ちが多額の寄付をする。ショーやゲームの一環として小額の寄付をする。どちらも良いことでしょう。楽しいムーブメントに、一般の人が参加するのも、良いことだと思います。

本来的には、それらの活動も、今回のアイスバケツチャレンジも、わかっている人同士のユーモラスな行為でしょう。だから、不幸の手紙やチュエーンメールのような、強制感はありません。氷をかぶるのも、100ドルの寄付も、OKと感じる人を次に指名します。そうでない人を指名するのは、無粋というものです。

そして、ユーモラスな行為なのですから、ユーモアで返してOKです。氷をかぶる姿をYouTubeで流して良い人と、様々な問題がある人がいます。社会的地位の高い人等で、私の立場では氷をかぶれないと語って寄付だけをする人を、だれが責めているでしょう。健康上の理由で氷水をかぶれない人を非難する人など、いるでしょうか。

こんな行動で、好評を得た人もいます。

おお、さすがピカード艦長(スタートレック)・プロフェッサーX(X-MEN)!

誰かが100ドルも寄付できなくて5ドル寄付したとして、いったい誰が責めるでしょう。(そんなことを責めるやつは、このムーブメントから出て行け!!!)

「お気持ちだけでも十分」ということもあるでしょうし、それに、世界を動かすのは、金持ちの金貨の袋ではなく、庶民による「レプタ2枚」だと思うのです(マルコによる福音書12章)。

さて、アイスバケツチャレンジを実行した人は、次の3人を指名することになっています。最初の一人、二代目は3人、3代目は9人と増えていくと、20代目には10億人になります。そんなことにはなっていませんから、次の3人を指名するというのも、ま、適当ですね。

いろいろな仕掛けで、寄付を集めるのは、良いことだと思います。交通遺児育英会の「あしながおじさん」というネーミングも、「赤い羽」も、「タイガーマスク基金」も、すてきですね(「伊達直人の贈り物」の心理メカニズム:みんなタイガーマスクになりたかった)。

■善行、寄付、ボランティア

仕事は、基本的にするべきことが決まっています。自分の持ち場があり、休日もあります。私は、自分の勤務校で授業を行いますが、隣の大学の学生に授業をしていないと責められることはありません。

でも、善行、寄付、ボランティアは、なぜ別のことに対しても行動しないのかと責められることがあります。自責の念を持つこともあるでしょう。

どこかの大きな組織に寄付をして、使い道は任せるという方法もあるでしょう(ボランティアでどこかに行くのも、全国組織に登録して行き先は組織の判断に任せるという方法もあるでしょうか)。

でも人は、それでは行動しにくいのです。何かの「出会い」が、人の行動をスタートさせます。だから、報道は大切です。有名人の活動も意味があります。私たちは、統計の数字だけではなかなか動けません。

困っている花子さん、頑張っている太郎君、寄付をしている大好きなアイドル。その姿が、私たちの心を動かします。その仕組みは、「24時間テレビ」も同様ですね(24時間テレビの心理メカニズム)。

もちろん、寄付を必要としている難病の人はたくさんいます。遠位型ミオパチーの人も、アイザックス症候群の人も困っています。支援を求めています。

でもだから、ALSに寄付をするなということになるでしょうか。まずは、ALSに関心を持ってもらい、次に同じように体が動きにくくなる他の病気にも関心を持ってもらい、さらに様々な病気や、支援を必要とすることがらに関心を持ちたいと思います。

■売名・偽善

今回のアイスバケツチャレンジで言えば、大きく報道されるような人は、こんな程度のことで今さら売名にも偽善にもならないでしょう。一方、普通の人なら、してもしなくても、一般からの注目はないでしょう。

もしも、本気で売名、偽善ををしたいと思うなら、売名、偽善とばれてしまっては困りますから、もっと手の込んだことをするでしょう。

いずれにしても、多少の寄付行為やチャリティーへの参加は当然であり、売名にも偽善にもなり得ない社会を作りたいものです(「「どうせ売名行為」#あまちゃん:助け合いが「当たり前」になるように)。

*ALS(筋萎縮性側索硬化症)

知人の母親がALSで亡くなりました。体がまったく動かなくなっても、家族や周囲の支援を受けて、最期まですばらしく生きました。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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