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佐世保同級生殺害事件容疑少女の父自殺報道:被害者家族の支援・加害者家族の支援のために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■佐世保高1女子同級生殺害事件、逮捕された少女の父親自殺報道

今日、ショッキングなニュースが入ってきた。

今年7月、長崎県佐世保市で起きた高1同級生殺人事件で、逮捕された少女の父親が自宅で死亡しているのが見つかりました。

死亡していたのは、今年7月、佐世保市内で高校1年の同級生を殺害した疑いで逮捕された16歳の少女の父親です。5日午後4時過ぎ、知人女性から消防に119番通報があったということです。自宅の中で首をつっていたという情報もあり、警察では、自殺を図った可能性があるものとみて調べています。

出典:佐世保・同級生殺害事件、加害少女の父親が死亡 TBS系(JNN) 10月5日(日)21時18分

長崎県佐世保市の高1同級生殺害事件で、殺人容疑で逮捕された少女(16)の父親が5日午後4時ごろ、同市内の自宅で首をつっているのが見つかった。〜自殺を図ったとみられる〜

父親は事件後、弁護士を通じて書面で「どんな理由、原因でも娘の行為は許されるものではない。おわびの言葉さえ見つからない」と述べていた。

出典:<佐世保同級生殺害>容疑の少女の父が自宅で自殺か 毎日新聞 10月5日(日)20時28分

■精神鑑定と今後捜査、更正への影響

佐世保高1女子同級生殺害事件「人を殺してみたかった・遺体をバラバラにして解剖したかった」と供述している少女。

逮捕された少女は、現在精神鑑定を受けている。精神鑑定は、脳波や血液検査のような検査だけではない。おそらく、鑑定人が少女との人間関係を徐々に作りつつ、対話を進めていたことだろう。

今回の出来事をどの段階で少女に知らせるのかはわからない。しかし、いずれにせよスムーズな精神鑑定の進行に悪影響があるだろう。実母はすでに死去し、父も亡くなったことで、生育歴を調べていくにも支障があるだろう。

少女は、有罪になったとしても、死刑にも終身刑にもならない。少年法の精神からも、また実際上からも、彼女の更正プログラムを作っていかなければならない。今回のことで、困難度はさらに増すことになるだろう。

少年事件では、加害者少年が少年院から出てみると、両親は離婚し、家は売り払われていたといったケースもある。これでは、更正は難しい。今回の少女も、実の両親がいない社会の中で、更正をしていかなければならなくなった。

■加害者家族の自殺

家族の逮捕も、家族の自殺も、とてもつなく衝撃的だ。

加害者の家族が自殺することは、残念ながら、時おり起きている。

2008年に発生した秋葉原通り魔事件の加害者加藤智大の弟は、逮捕直後に手記を週刊誌に発表などしていたが、2014年に自殺している。彼は死の直前、週刊現代のインタービューに答えて語っている。

「あれから6年近くの月日が経ち、自分はやっぱり犯人の弟なんだと思い知りました。加害者の家族というのは、幸せになっちゃいけないんです。それが現実。僕は生きることを諦めようと決めました。死ぬ理由に勝る、生きる理由がないんです。どう考えても浮かばない。何かありますか。あるなら教えてください」。

『秋葉原事件』加藤智大の弟、自殺1週間前に語っていた「死ぬ理由に勝る、生きる理由がない」

東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の加害者宮崎勤(1989年逮捕、2008年死刑執行)の父親も、1994年に自殺している。

父親は自宅を売却し、その代金を被害者の遺族に支払うようにした後、自殺している。この自殺に対して「現実逃避であり被害者家族を顧みない行為である」と非難する識者もいた。

今回の父親の自殺も、社会的に言えば無責任な行為と言われてもしかたがない。

ただ、自殺予防の観点から言えば、自殺を潔いなどと美化することも、また亡くなった人を責めることもしたくはない。

■被害者の家族・加害者の家族

犯人に家族を殺された被害者遺族は、地獄の苦しみを味わっている。

長崎県佐世保市の高1同級生殺害事件で、被害者の女子生徒(当時15歳)の両親が18日、四十九日法要後の心境をつづった手記を、代理人弁護士を通じて公表した。「娘を失った悲しみ、寂しさ、悔しさもかわらず毎日、涙があふれます」〜「防げたのではないか」〜「家族の中心にいた笑顔のたえない大切な娘だった」〜「理不尽に娘の命を奪ったあの行為をも決して許す事はできません」〜「これから先もかわらず思う気持ちは私達の娘を返してほしい。それだけです」

出典:佐世保・高1殺害:被害生徒両親が手記「決して許せぬ」 毎日新聞 2014年09月19日

そしてこれまでの事件の加害者家族も。

全国から段ボール1箱分にもなる非難の手紙〜長女は、勤め先を退職に追いやられ、婚約も破棄になり、次女も看護学校を退学〜

「人殺し!」という脅迫電話〜自宅の壁には「殺人者の家」と落書きされ、学校からも転校を勧められ、〜『家族を抹殺する』などのインターネット上の書き込み〜

出典:“加害者”家族の現実 失われる日常、自殺、退職、執拗な脅迫:ビジネスジャーナル2013

■罪意識と恥意識

悪いことをしてしまったとき、大失敗をしたとき、臨床社会心理学的に言えば、人は「恥意識」を持つ時と、「罪意識」を持つときがある。

イエスを銀30枚で裏切ったユダは、自殺している。イエスを三度知らないと拒んだペテロは、激しく自分を責めながらも、逃げ出さず、許されて、キリスト教の土台を作っている。

恥意識は、自分の行為を後悔するが、自分が窮地に陥っていることに苦しみ、「穴があったら入りたい」という感覚となり、人間関係から退却する。さらに心が追いつめられると、自分を否定し、社会を否定し、破壊的行動に至る。

一方、罪意識は、自分の誤った行為を強く意識し、謝罪の思いとつぐないの思いがわく。仮に許してもらえなくても、努力し続けようとする。人間関係から逃げず、建設的行動がとれるのだ。

被害者側も、加害者側の心からの悔い改めを、求めているのではないだろうか。

■被害者家族支援と加害者家族支援

犯罪を起きたときには、犯人逮捕と被害者保護をすること。正しい裁きが行われ、適切な制裁が行われること。同様の犯罪の発生を防ぐこと。それが、もちろん大切だ。その上で、すべての関係者を支援することが、必要ではないだろうか。

崩壊した家庭の中から、新たな加害者や、新たな悲劇が生まれることもある。それは、犯罪被害者にとっても、新たな重荷になりかねない。

「ワールド・オープン・ハート」は、加害者側の家族を支援する団体である。私の家族も被害者になるかもしれないし、私の家族も逮捕されることもあるかもしれない。

家族の再犯を防ぎ、新たな被害者の発生を防ぐためにも、家族が癒され力を持つことが必要ではないだろうか。

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特定非営利活動団体「ワールド・オープン・ハート」

全国犯罪被害者ネットワーク

自殺予防総合対策センター

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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