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相次ぐテレビの配慮は過剰な自粛?萎縮?:「心の戦争」日本人殺害脅迫テロへの反撃方法

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■日本人殺害脅迫:アニメ、音楽、笑点などテレビ番組で自粛相次ぐ

「笑点」に三宅裕司さん登場ということで、楽しみにしていました。お笑い芸人以外が、笑点前半の演芸コーナーに出演するのは初めてで、芸能ニュースでも話題になっていました。私は、当日日曜の朝のラジオ番組「三宅裕司サンデーヒットパラダイス」で、笑点出演の話題を聞きました。しかし、テレビ局は「自粛」しました。これは、オンエア間近になっての決定だったのでしょう。

~アニメ「暗殺教室」第3話の放送を見送った。~「ミュージックステーション」で、楽曲や歌詞の一部を変える措置を取った。~「笑点」で、予定していた三宅裕司さん(63)と小倉久寛(ひさひろ)さん(60)のコントを、別のお笑いコンビのネタに差し替えた。~

「事件と直接、関係のない番組での過剰な自粛には疑問を覚える。苦情や批判を避けるための対応が問題の本質をずらしてしまう。報道番組でこそ注意を払い、事件の背景を掘り下げる努力をしてほしい」~

出典:日本人殺害脅迫 アニメ、音楽、笑点…テレビ番組、配慮相次ぐ 産経新聞 1月27日

国家的な大事件ですから、何らかの配慮が必要なのは当然かとも思います。でも、自粛は「自ら進んで」ですが、萎縮は「しぼんでちぢむこと。元気がなくなること」です(大辞泉・Yahoo辞書)。

■自由な表現が許されない?

このYahooニュースに、次のようなオーサーコメントを書きました。

アニメ、音楽、お笑い番組。本来なら、他の分野よりもっと自由な表現が許されるはずなのに。過剰とまで言われる「自粛」が続いています。スタッフだって好き好んで自粛しているわけではないでしょう。彼らが感じる圧力はどこから来るのしょうか。政府か、スポンサーか、圧力団体か、私たち国民世論か、それともネットの反応でしょうか。

日本は、とても優しく配慮のあるすばらしい社会を作ってきました。でも、その時々の空気を気にし、雰囲気に流される失敗も、してきたのではないでしょうか。「心の戦争」と呼ばれるテロは、私たちに恐怖や萎縮や過剰な復讐心を起こさせようとしているのかもしれません。

(碓井 真史 2015/01/27 )

■テロは心の戦争

テロリストは、日本やアメリカを滅ぼすような力は持っていません。そこで、市民への無差別テロや、人質テロを行います。その結果、恐怖心に負けてテロリストの要求に従えば、テロリストの勝ちです。私たちの意見が割れて、国内が乱れたり、国際関係が悪くなったりしても、テロリストの勝利です。

こうして、テロリストは、私たちに心の戦争を仕掛けてきます。

テロリズムの心理学:心の戦争に負けないために

■自粛はテレビ局だけ?

「自粛なんかするな、必要なし!」とテレビを責めることは簡単です。でも、テレビ局がそう判断する社会を作っているのは、私たちではないでしょうか。最近も、テレビドラマのスポンサーが全部降りるという出来事もありました(「明日、ママがいない」:テレビの表現と偏見と暴力の心理学)。

そしてテレビ局に限らず、様々な職業の人が、クレームや社会の評価を気にして、自粛、萎縮しているのではないでしょうか。

安全や配慮はもちろん大切です。自粛も必要です。でも萎縮してしまっては、本末転倒かもしれません。

■私が体験したテレビ、ラジオの「自粛」

私が出演した新潟ローカルの情報ワイド番組。新潟中越地震が発生からしばらく、ちょっとおちゃらけたコーナーはありませんでした。ただ、番組自体はいつもどおり、明るく笑顔で元気よく進みました。視聴者の方は、あまり自粛には気づかなかったかもしれません。地元の災害ですから、多くのスタッフも出演者も心を痛めています。でも、笑顔で行こうと、みんなで話し合いました。

3月11日。東日本大震災から、1年、2年、3年。毎年、この日は特別番組などが放送されます。新潟県は、被災地と隣接しています。福島県から最も多くの避難の方々も来られました。でも2年目のその日、私も関わっている地元ローカルラジオが、朝から夜まで行った企画、リスナーに依頼したメールテーマは、「東北の良いところ」でした。東北の美しい景色、おいしい郷土料理の話題がたくさん寄せられました。

■「笑点」と落語とパロディと自粛

テレビ日本系列の人気長寿番組「笑点」。番組が始まったのは、1966年(昭和41年)です。「笑点」という番組名は、立川談志さんが、クリスチャン小説家三浦綾子さんの代表作「氷点」(朝日新聞連載1964~1965年)をもじって命名したそうです。

「氷点」は、何度も映像化されていますが、人間の原罪という重いテーマを扱っています。それをお笑い番組名にするのですから、なかなかのパロディーです。そして、三浦綾子さんも、朝日新聞も、クレームはつけなかったのでしょう。

三宅裕司さんのコントが自粛されたその日も、笑点の大喜利では、病気欠席の高齢司会者桂歌丸さんをネタにして大笑いしていました。もちろん、出演者の落語家の皆さんが、歌丸師匠を深く敬愛し、病気快復を願っていると私たちみんなは知っています。

でも、お笑いだからと言って、もちろん何を言っても良いわけではないでしょう。落語やお笑いは、いろいろなことを笑いにします。以前は、今よりもいっそう様々なことを笑いにしていました。そこで、寄席の楽屋には、「今日は足の悪いお客様がいらっしゃっています」といった情報が書かれていたそうです。そうすると、芸人さんたちは、そのお客さんが不愉快になりそうなネタは自粛するわけです。

東日本大震災のあと、しばらくして、お笑い芸人が被災地にやってきました。ずいぶん悩み、躊躇した芸人さんもいたようです。でも、テレビを見ていて、ベテラン芸人さんはすごいと思いました(私が特にそう思ったのは桂三枝さん!)。自粛したネタはあったことでしょう。でも萎縮することなく、しっかり笑いを取っていました。もちろん、被災者のみなさんへのあたたかな思いがあった上での、「お笑い」でした。

■心の戦い

心の傷ついた人々がテロリストなります。疎外感がテロリストを生みます。そしてテロから偏見差別が生まれたり、テロの被害国が、時に復讐心に燃え戦争を起こします。関係諸国は、テロ行為によってゆすぶられます。法的問題や、高度に政治的な問題があるのは、当然です。兵器も戦闘も必要なときはあるでしょう。でも同時に、テロは心の戦争です。戦争に勝つためには、熱い心と冷静な判断が必要です。

恐怖心、萎縮、復讐心の攻撃を仕掛けてくる彼らに、勇気と自由と愛の反撃ができればと願っています。

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■自粛とは

自分から進んで自分の言動を慎むこと。(大辞林・Yahoo辞書 )

自粛という言葉が一般的になったのは昭和前期頃からで、太平洋戦争開戦後に当時の政府から勧告を受け、落語家が時節柄似合わない噺を封印したことや、戦後にGHQの検閲対象として選ばれた噺を封印したことが残されている。

出典:ニコニコ大百科(仮)「自粛」

人質の無事開放を祈りつつ。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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