Yahoo!ニュース

化け物来襲行事は子どもがかわいそうな行事か:叱り方と子育ての心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

不必要な恐怖心は良くありませんが、怖い存在を安心できる存在と共に体験することは、大切です。

■化け物来襲は「子どもかわいそう」? 時代の流れで消える伝統行事

海にすむ化け物に扮した大人が行儀の悪い子をたしなめる福井市越廼地区の伝統行事「あっぽっしゃ」が、少子化の影響で取りやめとなった。毎年2月6日に行われてきた奇習に「脅されて子どもがかわいそう」と受け入れを拒む家庭も出てきたという。

出典:化け物来襲「子どもかわいそう」 時代の流れで消える伝統行事 福井新聞ONLINE 2月6日

この行事の取りやめは、少子化で子どもの数が減ったことが大きいようですが、子どものところに化け物がやってくる行事は、日本各地にあります。「鬼から電話」といったアプリもあります。

子どもを怖がらせるのは、悪いことなのでしょうか。

■子どもを襲う化け物の意味:子どもを怖がらせる意味

節分の豆まきのときにも、迫力のある鬼の登場で、泣き出す子もいます。「なまはげ」は、とても有名ですね。毎年、怖がって泣きじゃくりながらお母さんにしがみついている子どもの様子が報道されます。

子どもにとって、怖い存在、叱られる存在は、必要だと思います。私の知り合いは、近くの用水路で遊ぶとカッパにさらわれると聞かされていて、本気にしていたそうです。悪いことをしたり、ルールを破ったりすると怖い目にあうと感じることは必要だと思います。

サル山の子サルでも、ルールを破れば、怖いボスザルや大人のサルにとても怒られて、怖い目、痛い目にあいます。そうして、世の中のルールを覚えます。人間の社会も同じでしょう。怖い人の存在は必要です。

ただし、「怖い人」は同時に正しい人でなくてはなりません。ただ暴力を振るってくる怖い人に子どもがおびえるようなことは、もちろn避けなくてはんりません。

「悪い子はいないかー」とやってくる「なまはげ」は、正しくて怖い人の象徴でしょう。鬼は怖い存在ですが、自分自身の力でやっつけることができる存在です。

子どもを怖がらせることは、悪いことでしょうか。たしかに、必要もないのに怖がらせることはありません。でも、子どもたちは怖い話が好きだったりします。お化け、妖怪、怪獣、みんな好きですね。

子どもですから、中には本気で怖がる子もいるのですが、それでもやぱり、化け物は想像の世界やメルヘンの話です。子どもは、本気にする部分はあっても、どこかで理解もでいるできるでしょう。

■正しい化け物の使い方

怖い鬼や、化け物が現れると、子どもは悪いことはやめようと思います。同時に、大好きなお父さんお母さんが絶対に守ってくれます。恐怖と安心は、セットでなければなりません。お化け屋敷も、怪談話も同様です。

怖がって言うことを聞くからといって、どんどん使っても良いわけではありません。よく効く薬ほど副作用が強いと考えて用心し、使い方に気をつけなくてはいけません。

子どもがどの程度怖がっているのか、どんなフォローが必要なのかを理解していないと、鬼や化け物を上手に使えません。「なまはげ」行事は、ずっと続いてきた伝統行事です。多くの親が、自分自身も子どものころ怖い思いを体験しているでしょう。だから、なまはげの怖い体験をしても大丈夫だとわかっています。怖がらせ方の程度、そのとき取るべき親の態度もよくわかっています。

今回ニュースになった福井の行事では、訪問を断った親が悪いわけではないと思います。この行事は、少子化と受け入れ家庭の減少でいったん途絶えて、また復活しています。このことで、かつては十分に伝わっていた様々なことが、伝わらなくなってしまったのでしょう。

■かわいそうな子どもとは

怖い思いをすることが、かわいそうなのではありません。海が怖い子もいますし、ジャングルジムが怖い子もいます。しかられるのが怖い子もいます。たしかに、不必要に恐怖心を与えるのはよくありません。大きくなった後も、「化け物」の力によって悪いことをさせないわけにはいきません。

けれども、発達に応じて、怖い存在、困難な目標、守ってくれる存在などを体験していくことは、大切でしょう。そんな体験に乏しい子こそ、かわいそうな子だと思います。

抱きしめてくれる存在も、怖がらせてくれる存在も、勇気を与えてくれる存在も、それぞれが、子どもにとって大切な存在なのです。

~~~~~~~~~~~~~~~

「鬼から電話」の効果と使い方:叱り方の心理学

節分の豆まきと妖怪ウォッチの心理学:「妖怪のせい」と言われたたら?:「鬼は外」と子供の叱り方伸ばし方

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

心理学であなたをアシスト!:人間関係がもっと良くなるすてきな方法

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

心理学の知識と技術を知れば、あなたの人間関係はもっと良くなります。ただの気休めではなく、心理学の研究による効果的方法を、心理学博士がわかりやすくご案内します。社会を理解し、自分を理解し、人間関係の問題を解決しましょう。心理学で、あなたが幸福になるお手伝いを。そしてあなた自身も、誰かを助けられます。恋愛、家庭、学校、職場で。あなたは、もっと自由に、もっと楽しく、優しく強く生きていけるのですから。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

碓井真史の最近の記事