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フリーメーソン陰謀論の心理:テンプル騎士団、薔薇十字団、イルミナティ、都市伝説を信じる理由と危険性

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■フリーメーソンの正体:都市伝説の流行

「陰謀論」は、「終末論」とならんで、現代の流行です。

アポロ11号は月に着陸していない。エリア51には宇宙人の死体がある。東日本大震災は、地震兵器「HAARP」による人工地震。2014年東京都知事選挙開催の東京の大雪は、原発推進派による人工雪。ヨーロッパの新生児全員に公立病院でチップが埋め込まれる。

そしてテンプル騎士団、薔薇十字団、イルミナティ。水からの伝言(良い言葉をかけるときれいな結晶ができる)、EM菌など様々な都市伝説があります。ユダヤ人やフリーメーソンが世界を支配しているというのも、以前からある都市伝説、陰謀論です。

「よく聞かれますが、陰謀とは無縁です。そもそも政治活動はしないので、国際政治に影響力を行使することなどあり得ませんよ」〜

「定期的に集まり、語り合う社交クラブというのが実態に近い」〜

数多くの陰謀論が語られることについては、博士は「インターネット社会の今、あらゆる情報をいちいち気にしていられません」と笑う。むしろそうした映画や小説を楽しむ会員も多いという。

出典:<フリーメーソン>「世界を操る秘密結社」なのか? 活動盛んなドイツの実情探る 毎日新聞 3月21日

あまり報道されることが少ないフリーメーソンですが、たとえば「別冊宝島233:陰謀がいっぱい 世界にはびこる『ここだけ』の正体」(1995)では、日本のフリーメーソンの広報担当者にインタビューしています。

日本ロッジ元グランド・マスター・ロングインタビュー:ベールを脱いだ日本のフリーメーソンたち

世間に知られるフリーメーソンに関する話は、虚実入り交じっている都市伝説です。もちろん、世界征服はウソですが。たとえば、ユダヤ人は世界で偏見と差別にさらされていましたが、フリーメーソンの中で人種宗教差別をされなかったので、メンバーに多かったそうです。

そのような事情から、ナチスヒットラーによるフリーメーソン陰謀論ができたのかもしれません。オウム真理教も、フリーメーソン陰謀論を主張していました。

現実の現代のフリーメーソンは、世界を支配するような力はないでしょうし、そのような意図もないでしょう。こんな話をすると、「お前は真実を知らないだけだ」と真顔で言う人がいるかもしれません。

しかし、もしも本当に秘密結社による世界征服の陰謀があるのなら、そんなことをバラエティー番組でお笑い芸人が「信じるも信じないもあなたしだい(の都市伝説)」などと言いながら話せないでしょう。本当の陰の陰謀があるのなら、庶民の耳に簡単に入るわけがありません。あるいは、そんな情報が本当にあるのなら、特ダネをねらうマスコミが黙っていないでしょう。マスコミは、総理や大統領のスキャンダルさえ報道してしまうのですから。

CIAの行為ですら、外に出てしまう現代です。フリーメーソンの話題も、真実であるなら、ウィキリークスに載ってしまうでしょう。フリーメーソンには、秘密の儀式がありますが、脱会した人によって儀式の内容も明らかにされています。それなら、陰謀も明らかにされるでしょう。

宝島のインタビュー(1995)によると、「こうした珍妙な現象は、米国とかフィリピンではまず、みられません。韓国や台湾、香港やシンガポールでも、こんな偏見はありません。フリーメーソンリーが、陰謀団とか、オカルト団体であるとかという悪口を言われるのは、先進国では日本だけです。」とありますが、私は最近韓国の人が熱心にフリーメーソン陰謀論を語っているのを聞きました(この方も真面目で知的な方だとは思うのですが)。

イルミナティとは、フリーメーソンと関係があったと言われる昔の秘密結社です。フリーメーソン陰謀論が有名になりすぎたので(バラエティの都市伝説ネタとしては飽きられてきたので)、最近よく耳にするようになりました。歴史家によれば、現在はすでに存在しない団体ですが、イルミナティ陰謀論を信じる人は、「イスラム国」もイルミナティが作ったなどと言っています。

■人はなぜ陰謀論が好きなのか

庶民が知らない間に、巨大な組織が陰謀を張り巡らせている。こんな小説や映画はたくさんあります。たしかに、話としては面白いですね。

心理学の研究によれば、一つの陰謀論を信じる人は、他の陰謀論も信じます。互いに矛盾する陰謀論も両方とも信じてしまいます。陰謀論を信じやすい人は、科学への懐疑や権威への不信も多いようです。

たとえば放射線が0ではないと気が済まない人がいます。どんなに科学者が、このレベルの放射線は無害と言っても、その現代科学を信じません。あるいは政府発表を信じません。自然界にある放射線レベルと同じなので安全と言っても、「自然界の放射線と原発からの放射線は違う」といった珍妙で独特の疑似科学を振り回す人もいます。

陰謀は、たしかにどこかにあるでしょう。科学者によって意見が異なることもありますし、科学も間違えます。巨大企業や政府が国民をだますこともあります。しかし陰謀論が大好きな人は、そのような事実や、常識的な判断を、とても広く深く強力に適用してしまいます。

(放射線に不安を感じる人がいろいろなことを考えてしまうのは理解できますし、その方々を支援したいと思います。しかし、「福島県に行くと鼻血が出る」「福島県には住めない」といった言説は、もちろん誤っていますし、福島県を支援することにはならないでしょう。)

オウム真理教の麻原彰晃は、国政選挙で大敗した後、「票に操作がなされた」「国家権力により弾圧を受けている。これからは武力で行く」と陰謀論を主張して武力闘争へ向います。

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陰謀論を信じる人は、無力感や不確実感を持っているという研究もあります。麻原彰晃は、自分の大敗を理解できませんでした。そこで、陰謀論が登場するわけです。陰謀論は、不可解な世界を理解するための一つの道具なのです。

陰謀論は、占いや心霊など超自然的な現象、都市伝説を信じたい気持ちともつながるでしょう。みんなが知らないことを自分は知っていて、巨大な悪と戦っているというSF漫画的な、ニューエイジ思想的な英雄思想、優越感にもつながるでしょう(私も子どもの頃、いつか3つのしもべがやってきて「バビル2世」になれるといいなと思っていました)。

■陰謀論・都市伝説の危険性

すべての陰謀を否定するわけではありません。世の中の不正は正さなければなりません。しかし、テレビのバラエティーで語られる都市伝説は、あくまでお遊びです。ネス湖のネッシーや、ツチノコは、話としては面白いでしょう。視聴者も楽しいお話として聞いているなら良いでしょう。

しかし、普段は冷静で社会的にも立派な方々まで、いわゆる陰謀論、都市伝説を信じ込んでしまうときがあります。陰謀論が、人種、宗教への偏見差別につながることもあります。不要な不安や緊張を生むこともあります。

もしもフリーメーソンによって世界が支配されているなら、私達は環境問題を考えたり、日本の政治のあり方を考える前に、フリーメーソン問題を考えなくてはならなくなります。フリーメーソンが世界を支配しているなら、私達の日常的な議論も投票も無意味になりかねません。そのような世界観は、より良い社会作りにはマイナスです。

以前テレビで見た「ちびまる子ちゃん」にありました。まる子は、1999年に世界は終わるという「ノストラダムスの大予言」を信じます(この終末論は、ずいぶん流行りましたね)。そこで、もう勉強なんかしても無駄だと、宿題もさぼり始めます。でも、お姉さんに説教されます。

「あんたね、もしも世界が終わるならいいけど、もしも世界が終わらなければ、友達みんなは立派な大人になっていて、あんただけ何にも分からない大人になっちゃうよ!」

そう言われたまる子は、それは困ると宿題を始めました。

世界の終わりは、昔から言われています。キリスト教の終末思想、仏教の末法思想もあります。2000年前にキリストが登場した時も、世の終わりは近づいたから、みんな悪いことはやめて神を信じようと説きました。

その後、ある人々は、世界の終わりが近いと焦り田畑を売り払おうなどと考えた人もいたようです。しかし、キリストの弟子達は言います。世の終わりは近い。だから、いつもの仕事をいつもどおり、しっかりしようと。

世界の終わりが近いから、結婚もやめ、仕事もやめ、全財産を寄付しなさいなどというのは、破壊的カルト宗教でしょう。

世界には、分からないことがあります。巨大な悪もあるでしょう。しかし私達は、非常識で不確かな都市伝説などに振り回されず、一歩一歩、自分の生活と社会を良くしていきたいと思います。

補足:

記事を読んだ読者の方からご感想をいただきました。ある宗教指導者は、銀行のローン審査を通らなかったとき、「フリーメーソンの陰謀だ」と語っていたそうです。どこまで本気かわかりませんが、そんな陰謀論を信じてしまうと、審査を通すための正しい反省や改善ができなくなるでしょう。また、銀行もフリーメーソンに支配されていると思うと、銀行を恐れたり嫌悪したりすることにもつながってしまうでしょう。

○別冊日経サイエンス201『意識と感覚の脳科学』特集:だまされる脳「陰謀論をなぜ信じるか」

○『陰謀論にダマされるな!』(竹下節子/ベストセラーズ)

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陰謀論(陰謀説)とは

「ある出来事について、広く人々に認められている事実や背景とは別に、何らかの陰謀や策謀があるとする意見を指す名称」ウィキペディア

都市伝説とは

「口承される噂話のうち、現代発祥のもので、根拠が曖昧・不明であるもの」大辞林

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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