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ジャイアンの心理学:声優たてかべ 和也さんを偲んで

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■ジャイアンに命を吹き込んだ声優たてかべ 和也さん

私たちは、話の内容自体よりも、どんな話し方をしたかによって、意味を解釈し、相手へのイメージを作り上げます。

「ありがとう」の言葉を心から言ってもらえれば(そう感じれば)、とてもうれしくなるでしょう。一方、同じ「ありがとう」でも、いやみたっぷりに言われれば、不愉快です。

「バカ」という言葉も、とても侮辱的だったり、男同士の友情の言葉だったり、ときに女性から男性へのお前の言葉だったりします。

だから、漫画が動くアニメになり、声優さんが声を担当することによって、キャラクターたちは命を吹き込まれます。

先日お亡くなりになった声優、たてかべ 和也さん。26年にわたって「ドラえもん」に登場するガキ大将「ジャイアン」の声を担当しました(現在のジャイアンは別の声優さんが担当しています)。

ジャイアンのセリフは乱暴です。

「ことわったらぶんなぐる!!」「ギタギタのメロメロのボロボロにしてやる」「エラーしたらぶんなぐる」「さからうものは死けい!」。

文字だけを見ると、怖いセリフです。こんなセリフを子ども向け番組で言っていいのかと思うほどです。さらに、たてかべ 和也さんの太い声でセリフを言われると、のび太たちは震え上がります。けれどもジャイアン(たてかべ 和也さん)は、どこかユーモラスで、人情味があります。だから、アニメでのこんな怖いセリフでも許されます。

たてかべ 和也さんは、怖いだけではなくやさしさも、その声と話し方で表しました。

■ガキ大将ジャイアンの性格

かつて子どもたちは、大人たちには知ることができないグループを作っていました。それは、「ドラえもん」や「20世紀少年」に出てくる少年たちのグループです。心理学的には「ギャング・グループ」と言います。彼らは、大人に内緒で秘密基地を作ったりします。映画「スタンド・バイ・ミー」のように、子どもだけで冒険します。

「ドラえもん」では、宇宙に行ったりします。現実の子どもグループは、宇宙にはいきませんが、様々な危なっかしい遊びをします。その遊びを通して、子どのたちは多くのことを学びます。

このグループには、リーダーができます。それが、ガキ大将であり、ジャイアンです。

ジャイアンは、たしかに乱暴です。しかし遊びのリーダーになれます。彼がみんなをまとめて、野球の試合を行います。また彼は乱暴ですが、冷たくはありません。人情味があって、感動した時には、のび太を「心の友」と呼びます。のび太が本当の危機のときには、命をかけてのび太を助けます。

ただジャイアンの欠点は、計算や計画が苦手だとうことです。彼は落ち着きがありません。そのために、しょっちゅうお母さんや先生から怒られています。しかし、ジャイアンは怒られても落ち込みません。ジャイアンは、反省が苦手です。だから、どんなに怒られても元気に明日を迎え、また同じ失敗を繰り返したりするのです。

■ジャイアンの将来

ジャイアンは困った子どもですが、結局スネ夫も、のび太も、しずかちゃんも、ジャイアンと遊び続けます。他の子の親たちも、「ジャイアンと遊ぶな」なんて言いません。

ジャイアンはひどく怒られることはありますが、子どもたちはジャイアンの友達で、地域全体でジャイアンを支えています。だから、ジャイアンはちゃんと成長します。

たとえば短編映画「のび太の結婚前夜」の中で、ジャイアンは立派な大人になっています。それでもジャイアンは、相変わらず豪快で、大声で下手な歌を歌いますが、もうのび太を殴ったり、のび太の持ち物を取り上げたりしません。ジャイアンは成長し、その性格も円熟していくのです。

「大人になったのび太は、ジャイアンの大声の歌に「やめろぉー!へたくそぉ〜」と、ユモーララスにヤジを入れています。〜ジャイアンの方も、そう言われて「なにお!」と怒ってみせますが、決して暴力はふるいません(「ジャイアン、のび太の心理学:子どもたちはどう成長したか・出来杉君はなぜいつも留守番か」:Yahoo!ニュース個人有料)。

■アニメ「ドラえもん」での追悼

2015年6月18日、ジャイアンの声優だったたてかべ 和也はお亡くなりになりました。翌日6月19日放送のアニメ「ドラえもんの」冒頭で、次のような追悼テロップが流れました。

「1979年から2005年まで26年に渡り、テレビアニメ『ドラえもん』のキャラクター“ジャイアン”の声優を務めていただいた、たてかべ和也さんがお亡くなりになりました。多くの子どもたちに、夢を届けていただいたたてかべさんのご冥福を心からお祈りいたします。」

子ども番組では異例かもしれません。誰も死なない、大人にならない「ドラえもん」の世界で、追悼のテロップには違和感を感じる人もいるかもしれません。これは、たてかべ 和也さんへの、番組からの感謝と敬意でしょう。そして、子どもたちにも良いメッセージだったと思います。

アニメの登場人物は変化しないけれど、私たちは成長し、いつか死んでいきます。子どもたちは、大人たちの死に行く姿からも、人生を学びます。

「私たちは、変わらないけれど、成長し変わっていくのです」(「ジャイアン、のび太の心理学」Yahoo!有料)。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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