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映画「インサイド・ヘッド」で学ぶ感情の心理学:これはあなたの物語

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
日本語版のヨコロビとカナシミの声を演じた竹内結子さんと大竹しのぶさん。(写真:まんたんウェブ/アフロ)

■ディズニー/ピクサー長編アニメーション20周年記念作品となる最新作「インサイド・ヘッド」

ピクサーアニメは、いつも子どもを笑わせ、大人を考えさせます。

今回ピクサーが挑むのは、私たちの「感情」。物語は、一人の女女の子の頭の中で、進みます。

私たちの頭(脳・心)の中は、どうなっているのでしょうか。ピクサーが示すのは、5つの感情と多くの思い出です。

■インサイドヘッド(頭の中)

主人公ライリーが生まれた時、まず登場した感情は、ヨロコビとカナシミ。二人のどちらかがボタンを押すと、ライリーは喜んだり悲しんだりします。

心理学の研究でも、新生児の感情は快と不快だけです。

アニメ「インサイドヘッド」は、もちろんフィクションですが、心理学や脳科学の研究成果を活用しています。

感情の仲間はすぐに増えます。ヨロコビとカナシミと、そしてイカリ、ムカムカ、ビビリ。5人は頭の中の司令部に住んでいて、コントロール装置を操作することで、ライリーに様々な感情を起こさせます。

ライリーが見聞きしたこと、経験し記憶したことは、「思い出ボール」となり、次々と頭の中に入ってきます。

■感情の役割:生活に必要なこと

ヨロコビは、楽しい気持ちにさせ、積極的な行動を生みます。

イカリは、戦う時に必要です。

ムカムカは、嫌なものを遠ざけるために必要です。イカリを挑発するのも得意です。

ビビリは、不安や心配によって、慎重に危険を避けるために必要です。

カナシミの役割は、映画の中では秘密です。

感情は、必要です。喜びはもちろん、他の感情も必要です。人間にも動物にも必要です(アニメの中でも、動物たちのインサイドヘッドがでてきます)。

猫が細い棒の上を歩く時、足の肉球に汗をかきます。そのおかげで、汗が滑り止めになり猫は上手に歩けます。人間も同様です。手のひらの汗は暑いからかくのではなく、手のひらの汗は緊張による精神性発汗です。

しかし、猫はちょうどよく汗が出るのですが、人間は汗が出すぎることがあります。人間は、高度な知性を持ったために、感情がコントロールできないことがあるのです。心配も不安も、生活には必要です。しかし行き過ぎると、かえって上手くいきません(心配性と不安の正体:心理的メカニズムと克服法

■感情の役割:現在過去未来

映画の中でも、感情たちは忙しく働きます。過去の思い出も、感情たちによって楽しい思い出になったり、悲しい思い出になったりします。現在の体験も、感情体の働き具合で、楽しくもなり悲しくもなります。未来への想いも、感情たちの働きによって、積極的にもなり、消極的にもなり、自暴自棄にもなります。

■記憶と性格

映画の中では、記憶は無数の思い出ボールとなって、インサイドヘッドにやってきます。すぐに忘れてしまうこともあれば(短期記憶)、長く記憶に残るものもあります(長期記憶)。

映画の中では、睡眠中に記憶が整理されるシーンが出てきますが、心理学でも睡眠中に短期記憶が長期記憶になるとの仮説があります。

様々な記憶の中には、特別な記憶もあります。彼女の人生を左右するような記憶です。それらの記憶が、彼女の感情や行動を左右し、それは性格を作り出します。

最初から「性格」がインサイドヘッドの中心にいて、主人公を支配しているのではありません。

大切なのは「性格モード」

性格とは何か? あなたもなりたい自分に

だから、性格(行動パターン)は変化していきます。

■インサイドヘッドの主人公は

物語の主人公ライリーは、申し分ない素晴らしい人生を送っていました。しかし、11歳になったとき、田舎から都会への引越しと転校という、子供にとっての大事件が起きます。

頭の中の司令部は大慌て。5人の感情たちのチームワークが乱れる中で、ヨロコビとカナシミが司令部から消えてしまします。

明るく元気でユーモラスだったライリーは、暗くて消極的でひねくれ者になってしまいました。

このままでは、ライリーの新生活は台無し。ヨロコビとカナシミは、司令部に戻ってこられるのか。そして、カナシミの役割とは!?

■私たちの成長

ピクサーは言います。

「これは、あなたの物語」。

映画を見ていると、こういうことって、子ども時代にあるあると思うことがたくさん出てきます。乳幼児だって、楽しいことばかりではなく、辛いこと悲しいことがあります。しかし、心理学的に言えば、周囲の愛に包まれて、「感情のコーチング」を受け、「感情のチューニング」を学んでいきます。

それでも、大きな環境変化の中で、思春期という不安定な時期に、感情のバランスを崩します。映画は、主人公の成長を描きます。子どもから思春期になっていく過程の、ちょっとほの悲しい場面もあります。

私たちは、幼児は幼児として幼児の心の世界に住んでいます。でも、いつかそこから卒業します。多感な少年少女時代、思春期へと入っていきます。だれもが不安定になりますが、感情たちは新しくなった複雑な装置の操作にも慣れていきます。

主人公のインサイドヘッドの感情たちは、いつも大騒ぎしていますが、大人のインサイドヘッドの感情たちはそれなりに落ち着いています。

私たちは、成長していくのです。それでも、大人になっても危機と変化は訪れるでしょう。そのときは、また5人の感情たちが右往左往しながら新しいチームワークを作り出していくのでしょう。それぞれの感情が、それぞれの役割を果たしながら。

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「明日はきっといい日になる」(インサイドヘッド)

「悲しんでいる者は幸いです。その人は慰められるからです」(聖書)。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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