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水害はなぜ逃げ遅れるのか。ではどうすれば良いのか:命を守るための災害心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
茨城栃木で記録的大雨(写真:ロイター/アフロ)

東日本を襲った豪雨は、大きな被害を出しました。そして問題になっているのが、避難の遅れです。

■パニックと逃げ遅れ

災害というと、「パニック」がよく話題にされます。しかし実際は、パニックは簡単に起きません。そして人は、パニックよりも「逃げ遅れ」で命を失います。

最悪は、逃げ遅れて、事態が切迫した中でのパニックです。

■水害は逃げ遅れが出やすい災害:火山災害との比較

たとえば、伊豆大島での火山噴火の時には、見事な避難行動が見られました(1986年)。関係者一同の努力の賜物ですが、島の中央部の火山爆発は、島中から見えます。

火山の場合なら、真っ赤な火や、高く立ち上る噴煙、爆発すれば大きな音もします。地震が起きることもあります。地域中の人がわかるでしょう。急いで逃げようと思うでしょう。

ところが、水害は本当に身近に迫らないとわかりにくいものです。水害は静かに発生します。川の水かさが増しても、まさか堤防が壊れたりしないだろうと感じます。家の中に濁流が入ってきて初めて水害が発生したことを知る人もいます。水害は危機が目前に迫るまで危機感を感じないために避難が遅れるのです。

テレビの全国ニュースで、近くの川の水かさが増していると知っても、まるで他人事のような気がしたと語る被災者もいます。

今回の常総市の水害では、市内にあまり激しい雨は降りませんでした。雨は川の上流で降っていたのですが、危機的状況は実感できませんでした。

また自宅付近に大雨が降っている時には、その大雨が避難の邪魔をします。災害心理学的に言えば、避難の「コスト」が高くなるわけです。明るくて暖かな自宅を出て、土砂降りの中、時には暗くて寒い中、避難するのは大変です。

火山の噴火のともかく遠くに逃げようで良いのですが、水害が迫っていると知った場合には、避難所に行くのか家の2階に行くのか、判断に迷います。無理な屋外避難でかえって被害を出すこともあります。こうして、どこにどのように逃げたら良いのか決めかねているうちに、避難が遅れます。

水害と逃げ遅れとパニックの災害心理学:命を守る行動を:正常性バイアスの心理

■危機の「実感」

火山災害に比べると、水害は危険が近づいている実感を感じにくい災害です。危機が近づくと様々な警報が出ますが、理解が難しいこともあります。

川の水かさが増してくると、

はんらん注意情報(洪水注意報/はんらん注意水位)

はんらん警戒情報(洪水警報/避難判断水位)

はんらん危険情報(洪水警報/はんらん危険水位)

はんらん発生情報(洪水警報/はんらん発生)

が出されます。

でも言葉だけでは、なかなかわかりません。

水害に関する防災情報:気象庁ホームページ
水害に関する防災情報:気象庁ホームページ

はんらんと、「決壊」は、どう違うの?と思う人もいます。はんらんは、川があふれ出る、決壊は堤防が壊れるですね。堤防が壊れると、一気に水が押し寄せます。

避難勧告と避難指示のどちらが強いのか、わからなくなることもあります。

避難せよ:避難勧告・避難指示・避難命令:私達の命を守るために

客観的に正しく正確な言葉を全国ニュースで言われても、ピンとこないことがあります。身近な情報源からの、緊迫した声や言葉を通して、人は危険を実感し、行動を起こします。

■水害から逃げ遅れないために

今回も、地元の災害情報がよく聞き取れなかった。次々色々な言葉が聞こえてきたが、よくわからなかったという声があります。積極的な情報収集と、聞き的状況になる前に、自分で危険を感じ始めたら行動を起こすことが大切でしょう。

災害情報が、いつも適確に早めに出れば良いのですが、そうとはかぎりません。警報を知り、危機感を持ったとしても、どうすれば良いのかそこから考え始めていると、どんどん時間が経ってしまいます。水害時にはどうすれば良いのか、事前に確認をしておきましょう。

避難するときは

長愚痴ではなくスニーカーなど歩きやすい靴

足元注意。濁った水で足元が見えなかったり、速い流れで足を取られる。

身軽で動きやすい目立つ服装。荷物は最小限に。

みんなで避難。一人ではなく複数で避難。

自助/近助。自分から進んで行動する。自主避難。近所に声をかける。弱者を助ける。

「津波てんでんこ」という教えがあります。自分で判断し各自で逃げなさいという教えです。津波のときには、止まっていたり戻ったりしないで素早く逃げなさいという教えです。ただし、目の前にいる人は助けるのも、津波てんでんこの教えです。

また事前に各地域に「緊急避難場所マップ」や「洪水ハザートマップ」も見ておきたいものです。

あなたの町のハザードマップを見る:国土交通省

■身近な災害としての水害:心理的距離を遠くしない

私は、東京下町の「0メートル地帯」で生まれ育ちました。昭和一桁生まれの親の世代には、洪水もあったようですが、私には記憶がありません。立派な堤防ができたからです。万が一堤防が決壊したら、大変なことになり、このあたり一面は水びたしだという知識はもっていました。

しかし、それはあまりにも大きな被害になるので、正直そんなことは起きないだろうと思っていました(現実にまだ起きていませんが)。大きすぎる災害予想は、時に現実味を失わせます。

逆に今回宮城県では、普段の水位が数10センチの小さな川が洪水を起こしました。この川で水害が起きるとは、地元の人も考えていなかったようです。大きな川も、小さな川も、水害を起こすことがあります。

私たちは、実は海や川のそばに住んでいます。でも、住宅地の中に住んでいると、海や川を実際の距離よりも遠くに感じることがあります。何キロも先の海や川のせいで、自分の命が危なくなるなど、想像できないことがあります。

危険からの「心理的距離」が遠くならないように、危険は身近にある、海も川も近くにあると、自覚したいものです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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