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10月10日は「世界メンタルヘルスデー(世界精神保険デー)」:心の病への理解と支援を

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■世界精神保健デー(世界メンタルヘルスデー)とは

日本ではあまり話題になりませんが、毎年10月10日は、「世界精神保健デー(世界メンタルヘルスデー):World Mental Health Day」 です。世界精神保健連盟(WFMH)が中心となって、メンタルヘルスについての啓蒙活動や偏見をなくすための活動が行われています。

今年2015年のテーマは、"Dignity in mental health"(「メンタルヘルスにおける尊厳」)です。

多くの内科的な病気に効果的な治療や予防が行われている一方、心の病はむしろ増えています。エイズをはじめ、身体的な病気や障害に対する偏見は改善されつつあるのに、心の病への偏見は相変わらず根強いものがあります。

世界中で、心の健康を失った人々の人権が奪われ、尊厳が傷つけられています。病に苦しむ人に必要なのは、侮辱と差別ではなく、治療と支援なのに。

あなたの婚約者の兄弟がガンになったらどうでしょう。たぶんあなたの家族も心配し、支援したいと思うでしょう。では、婚約者の兄弟が精神病になったらどうでしょうか。同じような温かな支援ができるでしょうか。

■あなたは心の病への偏見がありますか

「あなたは、心の病への偏見がありますか?」。 こう質問すると、多くの人は「偏見はありません」と回答します。では、質問を変えましょう。

「あなたが住んでいる家の隣に、心の病で通院中の人が引っ越してくることになりました。あなたは、歓迎ですが、反対ですか?」。

ここで、歓迎できないと思った方は、残念ながら心の病への偏見がある人です。あなたは、偏見ではない、現実的に危険ではないかと言うかもしれません。しかし、統計的に見て精神障害者が特に犯罪を犯しやすいということはありません。

統計的に見て危ないのは、むしろ酔っぱらいです。あるいは、犯罪者の特徴としてとてもわかりやすい特徴は、男であるということです(犯罪者の8割は男性)。でもあなたは、隣の人が酒をむとか、男だからという理由だけで避けたりしないでしょう。隣の人が、ガンや糖尿病だからといって嫌ったりしないでしょう。

心の病だからといって、それだけの理由で避けたり嫌ったりするのは、偏見です。心の病の人も、酒飲みも、男も、ガン患者も、それぞれ善人もいれば悪人もいるでしょう。それなのに心の病の人々は、周囲から強い偏見を持たれています。

あなたの近所に内科や外科の病院ができるなら、地域の皆さんは歓迎するでしょう。でも精神科の病院ができるとなると、反対する人もいるでしょう。

■あなたは心の病への知識がありますか

食べ過ぎと、胃炎と、胃潰瘍と、胃がん。難しいことはともかくとして、違う病気だとはわかります。だから、それぞれの診断名を聞いたときの反応も違うでしょう。

では、心因反応、神経症、心身症、精神病、統合失調症、パーソナリティ障害。これらの診断名はどうでしょうか。聞いたことはあっても、よくわからないという方が多いかもしれません。

家族が、40度の熱が続いたり、嘔吐や激しい下痢が何日も続けば、大抵の人は病院へ連れていくでしょう。ところが、明らかに統合失調症の症状が出ていると思えるような患者でも、家族はなかなか病院へ連れて行かないこともあります。やっと連れてきて、「ちょっと疲れているだけだと思いました」などと語る人もいます。

心の病の症状を理解していないことと、心の病への社会の偏見が、病院のしきいを高くしています。

■働く人のメンタルヘルス

厚労省の調査によれば、働く人の6割に強いストレスがあると言われています。精神障害の労災件数も年々増加しています。請求件数で見ると、2000年度は212件、2010年度は1181件、昨年2014年度は1456件(支給決定497)で過去最悪です。年代別で見ると、30代と40代がもっとも多くなっています。働く中年の心は追い詰められています。

メンタルヘルスの不調で連続1ヶ月以上仕事を休んんだ労働者がいる事業者は、10パーセントです。産業別に見ると、IT関係などの情報通信業がもっとも多く、28.5%です。

メンタルヘルス事業に取り組んでいる事業者の割合は、25年度で60%。ストレスチェックもすでに6割の事業所が実施しています。ストレスチェックは、平成26年6月25日に公布された労働安全衛生法の改正によって、実施義務が制度化されました。

働く人のメンタルヘスは、個人だけの問題ではなく、職場全体の生産性にも影響を及ぼします。企業は、働く人のメンタルヘルスの維持にも責任があります。

このように法律や制度の整備は進みつつありすが、どれほど効果的に実施できるかは、現場の人々の意識にかかっているでしょう。

■母子メンタルヘルス

WHOによれば、世界の妊婦の10%、出産した女性の13%が、うつ病などの精神疾患を持つとされています。放置すれば、自殺や児童虐待にもつながりかねません。

またWHOによれば、世界の子ども若者の10〜20%が、精神障害を経験するとしています。子ども若者の心の病を理解しなければ、人生のスタートからつまづくことになります。

母と子のどちらかが精神的に不安定になると、母子関係は乱れます。そこに父親からの適切なケアがなければ、問題はさらに悪化するでしょう。

■自殺予防

WHOによれば、世界で毎年80万人が自殺しています。それは、40秒に一人が自殺していることになります。自殺は、予防できるし、予防すべき死です。

■緊急時のメンタルヘルス

どんなに健康な人でも体の病気になるように、どのような人にも心の危機は訪れます。特に、大きな災害、戦争、難民の問題などが、世界にあふれています。

心理的、社会的な支援が必要です。

心のケアだけが必要なのではありません。必要な衣食住など、安心安全が必要です。

物やお金だけが必要必要が足りるのではありません。新しい道路も建物もできたけれども、心の復興は程遠い人々がたくさんいます。

■心の病で苦しむ人々

病は、どれも苦しくて大変です。さらに心の病は、偏見と差別に苦しみます。私がガンになったとすれば、多くの人は共感を示し、温かな言葉をかけてくれるでしょう。では、私が精神科に入院することになればどうでしょう。残念ながら、去っていく人々もいるでしょう。

心の病は、周囲からの理解がとても必要な病なのに、周囲からの理解がされにく病です。家族も、周囲からの冷たい目で苦しみます。たとえば統合失調症は、発病率1%弱の、珍しくもないありきたりの病気なのですが、社会の無理解が続いている病気です。

子どもたちの中には、親の精神疾患で悩んでいる子もたくさんいます。元気で優しかった父母の変化を、子どもは理解できません。周囲のサポートが必要です。

すべての病の人々と、共に生きていく社会を作っていきたいと思います。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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