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めちゃイケ三ちゃんこと三中元克さん不合格で「卒業」:予定調和が崩れる現代社会で生き抜く方法

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

番組は、三ちゃんを合格にもできたが、あえて予定調和が崩れるままにした。そんな社会で生き抜くには。

■めちゃイケ三ちゃんこと三中元克さん読者投票オーディション不合格

27日放送のフジテレビ系バラエティー番組『めちゃ×2イケてるッ!』で行われた再オーディションに不合格し、同番組を卒業したよしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属する“三ちゃん”こと三中元克(25)〜「残念会」を開いた。

「本当にびっくりしました。未だに実感がない。」〜「これを“おいしい”と思えるように芸人として頑張ります」

岡村は「俺らは落ちるわけないやんって思ってた。リアルだったね…」と苦笑い。

出典:“三ちゃん”三中元克、『めちゃイケ』卒業で号泣 コンビ改名で再出発 オリコン 2月28日

大方の予想をくつがえし、めちゃイケの三ちゃんは不合格。番組を卒業となりました。

■普通は合格なのに

三ちゃんが器用に漫才やコントをやるとは、ほとんどの人は予想していなかったでしょう。でも、素人三ちゃんは、番組制作者やお笑い芸人の皆さんに、上手にいじってももらって、5年にもわたって視聴者の笑いを取り、視聴率に貢献してきました。

先週、そして今週当日の番組では、三ちゃんのダメっぷりを示した後、頑張る三ちゃんの姿を紹介しました。これは明らかに応援の映像です。普通の公平な「オーディション」なら、これはダメでしょう。

そして普通なら、これだけ番組あげて応援しているのですから、視聴者投票にしたって合格ですよね。

投票前のネットでの意見を見ると、「どうせ合格でしょ」という意見が多かったように思います。「不合格にしよう!」という意見もチラホラ見られましたが。

本人も、他の出演者も「びっくりした」と言っているのですから、合格し番組出演続行を予想していたのでしょう。

■三ちゃんはなぜ不合格だったか:予定調和が崩れる現代社会

世の中には、常識とか、空気とか、流れといったものがあります。伝統とか、建前といってもいいかもしれません。年配の人が発言すれば、周囲はそれを尊重する。少なくとも大勢の前では露骨に反論しない。お上の言うことに従う。父親、先生、上司、おまわりさんの言うことは聞くのが、原則です。

その会の主催者や主だった関係者が、何となく、あるいはあからさまに、ある方向に持って行こうとしていたなら、みんなも従うのが、常識だったでしょう。

昔から上のものに逆らう人はいますが、それは本来は従うものだけれども、私は逆らうという意識があったことでしょう。

ところが、現代社会においては、これらの「お約束」が必ずしも守られます。それほど強い反発心を持っていなくても、自然に、素直に、悪びれずに、自分の意見を通してしまいます。

もちろん今も、年配の人が多かったり、かなり大きな形式張ったところでは、昔ながらの雰囲気があるでしょう。でも、かなり崩れてきました。父親の言うことも、先生の言うことも、おまわりさんの言うことも、聞きません。反発するというよりも、フレンドリーなので、別に聞き従わなくても良いのです。

例えば会議でも、以前なら上の人たちが原案を決めている総会は、シャンシャンでした。ところが、今は個人が平気で原案に反することを言ったりすることもありあます。

現代は予定調和が崩される社会です。

だから、おまわりさんも、「DJポリス」になったり、市長さんがAKB48のダンスをしたりするのでしょう。

■テレビと予定調和:めちゃイケは何をやったか

テレビスタッフは、そのような時代の雰囲気をもちろん感じ取っています。テレビドラマのストーリーも昔とは随分違います。バラエティーなども、予定調和通りにならないような、ドキュメンタリー的な要素を取り入れます。

さて、今回のめちゃイケ三ちゃんの場合は、どうだったのでしょうか。番組スタッフも、投票の結果を正確に予測できたとは思えません。番組の構成自体は、予定調和的な作り方です。三ちゃんを応援しているよう番組作りにも見えます。しかし、最終的な結論は読者の投票に任せました。

もしも、番組をあげて本当に三ちゃんを合格させようとするなら、実力と経験豊富なツッコミ芸人を相方につける方法もあったでしょう。そうすれば、きっと爆笑も取れたはずです。視聴者投票結果も変わったかもしれません。

あるいは、投票の時期もそれまでのプロセスも番組は自由にできるのですから、もっと時間をかけ、優秀なアドバイザーをつければ、今回よりは面白いネタを提供することもできたでしょう。

しかし、番組としてはそうはしませんでした。経験不足実力不足のコンビ二人にネタを任せ、面白くもないネタをさせました。そして、みんながびっくりするような結果が出ました。

番組としては、どちらに転んでもそれを笑いにし、視聴率アップにつなげる用意はあったことでしょう。でも、今回の結果の方が、たしかに「オイシイ」かもしれません。

■新しい社会の中で

予定調和通りいかない社会は、面白いと思います。同時に、なかなか厳しい社会だとも思います。自由でフレンドリーなことを重視する社会。特にテレビやネットで、その価値観はさらに広がっているように思います。それは、さらに素晴らしい社会を作っていくのでしょうか。

ただ、実力があり、先を見越している人は、そのような現代社会を上手に活用しながら、利益を得たり、自分の立ち位置をしっかりしたものにしています。一見、甘えを許したり、いい加減に見える社会でも、決して油断せず、翻弄されたりはしていません。

三ちゃんこと三中元克さんも、「これを“おいしい”と思えるように芸人として頑張ります」と本当に思っているなら、芸能界で生き残る可能性もあるのでしょう。

私たちも、時代の波に乗りながら、でも自分を見失わず、活動していくことが求められています。社会は、否応なしに変化していきます。若者も年配の人間も、その変化を否定するだけではなく、また変化に流されるだけでもなく、自律的にたくましく生きて、幸せをつかみたいと思います。

■関連サイト

「めちゃイケ」の素人三ちゃんこと三中元克さんは犠牲者か:芸人はいじめても良いが素人はダメと感じる心理:三ちゃんは自己決定しているからOK

「DJポリス」に警視総監賞。その言葉に若者が従った理由を心理学的に考える

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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