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「緊急保護者会」と「スクールトラウマ」:事件事故不祥事のとき学校と保護者はどうあるべきか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■中3自殺で緊急保護者会

誤った非行歴のため志望校への推薦を出してもらえなかった広島県府中町立中学3年の男子生徒(15)が自殺した問題を受け、中学校で8日夜、臨時保護者会が開かれた。

出席した保護者からは「子供を預けるのが怖い」などと声が上がった。

保護者会は午後6時半から始まり、約450人が出席。厳しい質問が絶えず、予定終了時刻を2時間ほどオーバーし、午後10時ごろに終了した。

出典:「子供預けるの怖い」=中3自殺で保護者ら―広島 時事通信 3月9日

臨時全校集会や臨時保護者会は、大きな事件事故、不祥事などが発生した時に開かれます。そして、しばしば荒れます。

<広島・中3自殺>サーバーに訂正済み生徒資料…知られず」「<広島・中3自殺>生徒への教諭指導 学校説明「立ち話で」」という学校側の問題も報道されています。

■臨時全校集会、臨時保護者会で大切なこと

一般に、臨時全校集会や臨時保護者会で大切なことは、対象が子どもであれ大人であれ、今わかっていることをできる限り正確に冷静に伝えることです。

被害者がいれば、当然哀悼の意を表すべきですし、通常の学校であれば当然教師たちもショックを受けています。しかしこのような集会で大切なのは、責任者である校長先生がみんなの前に立ち、きちんと経緯を説明することです。

学校側には、隠したり責任逃れをしない、その覚悟が求められるでしょう。ただし、この段階ではわからないことも多いはずです。あるいは生徒個人のことで言えないこともあるでしょう。それらが隠し事と受け取られないために、わかっていることは全部説明するという学校側の真摯な態度が求められます。

生徒向けの説明であれば、校長先生による全体への説明の後で、各担任が各クラスで説明すること、不安定になっている生徒がいればさらに個人的にケアすることが求められます。

学校には、管理職、担任、事務職員、スクールカウンセラーなど、様々な役割の人間がいますが、この学校全体の危機の時に、それぞれの役割を果たすことが必要です。

■保護者のあるべき態度

では、臨時保護者会が開かれる時、保護者側はどうあるべきでしょうか。事実解明のための厳しい質問が必要な時もあるでしょう。激しい議論が必要な時もあるでしょう。しかし同時に、学校と保護者は本来協力関係にあるべきことも忘れてはいけません。

学校を責め立てて困らせることが目的ではないはずです。誰かを引責辞任させることが目的ではないはずです。大切なのは、被害者や家族の保護であり、そして他の生徒達や学校を守ることではないでしょうか。

学校を守るとは、事実を隠蔽することではありません。学校を守るとは、子どもたちが元気に学校に通えるようにすることです。

こんな時こそ、PTAの出番ではないでしょうか。PTAは、学校の手先ではありません。同時に学校を攻撃するものでもありません。親と教師が協力し合い、子どもたちのために良い学校づくりをすることが目的のはずです。PTA会長や役員らは、しばしば学校と保護者との間に立ちます。あるいは、学校と地域との間をつなぐ役割を果たします。

日常的な深い信頼関係があれば、こんな時も、より良い臨時保護者会が開けるように力が出せるはずです。

■スクールトラウマの癒し

学校が不名誉なことで全国ニュースになれば、学校全体が傷つきます。もちろん事実を解明し、必要な謝罪をし、問題を改善する必要があります。誰かが責任を取る必要もあるでしょう。教育問題、社会問題として、厳しい態度が必要なこともあります。

しかし、その学校の保護者からすれば、子どもは明日も学校に通い、この学校を卒業します。大きな問題を考えると同時に、今ここにいる子どたちのことを考えなくてはなりません。

それは、被害者に我慢してもらうことでもなく、臭いものにフタをすることでもありません。それが、子どもたちのためになるとは思えません。大人たちの誠実な態度を見せることが必要です。

大きなニュースになれば、学校全体が傷つきます。全国でよくない話題になり、地域でもよくないうわさ話が広がります。子どもたちが学校に誇りを持てなくなり、先生を信じられなくなることもあります。学校全体が傷つく、「スクールトラウマ」です。こんな状態を長引かせてはいけません。

事実解明や被害者保護と共に、学校と保護者、生徒と先生との信頼関係回復のための努力が必要です。学校全体が傷ついたスクールトラウマからの回復が必要です。

*関連サイト

「指導死」:広島中3自殺報道から考える子どもの自殺予防

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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