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小林悠TBS元アナ「私は適応障害でした」:適応障害とは:心の病を理解し支援するために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ・・・誰もが苦しい時はあるけれど)(写真:アフロ)

■NEWS23出演決定直後にTBSを電撃退社した小林悠元アナが初告白「私は適応障害でした」

3月4日にTBSを電撃退社して以来、沈黙を貫いていた元アナウンサーの小林悠氏(30)〜TBS上層部から「NEWS23」キャスターへの出演の打診を受けたのは、今年1月のことだった。

「当時の私は、心身ともに臨界点を超えていました。でも、自分が疲弊しているとか、周囲には言えなかった。そういう素振りを見せることも失礼ではないかと思っていました」

出典:小林悠TBS元アナが初告白「私は適応障害でした」 週刊文春 3月15日

大役が決まった直後に、親しい人への説明もなく突然の退社。様々な憶測報道が飛び交っていましたが、「適応障害」の診断を受けていました。

■適応障害とは

適応障害とは、ある状況が、その人にとってはとても辛くなってしまうものです。

DSM5(心の病の診断手引最新版)によれば、明らかなストレスの元があり、常識的に考えられるよりもずっと辛く生活に支障が出るようなものを適応障害としています。それは、死別や他の精神の病気によるものではなく、ストレスの元がなくなって半年もすれば治るものを指しています。

症状としては、抑うつ、不安、焦り、過敏、不眠、頭痛、腹痛、倦怠感などいろいろです。これらの症状のために、学校や会社へ行けなくなったり、自殺を試みるなど、様々な問題行動が出ることも多くあります。その問題行動を責められたりすれば、さらに症状は悪化するでしょう。

世間で有名になった事例としては、皇太子妃の雅子様が適応障害の診断を受けています。

雅子妃、適応障害診断から学ぶ私たちの心の健康

■適応障害など、心の病の分かりにくさ

たとえば足の骨が折れたのであれば、わかりやすいでしょう。誰も無理に歩けとはいいません。インフルエンザやガンも、私たちはある程度の知識を持っていますので、それで学校や会社を欠席しても責めません。

もしも花粉症の知識が全くなかったら、涙やくしゃみや鼻水で苦しむ人を責めてしまうかもしれません。けれども知識があれば、病で苦しむ人を助けることができます。

しかし、心の病はわかりにくいものです。うつ病も統合失調症(昔の精神分裂病)も、言葉はかなり有名ですが、なかなか理解されません。ましてや、適応障害はわかりにくいものでしょう。

うつの症状が強く長く出るのであれば、うつ病と診断されるでしょう。適応障害は、うつ病と言えるほどの症状はないけれども、健康とはとても言えない状態です。仕事ができないのも、サボりでも逃げでもありません。

適応障害は、怠け者や弱い人よりも、むしろ責任感の強い能力が高い人がなりやすいイメージがあります。頑張りすぎることで、ストレスが溜まります。

ただわかりにくい病であることは事実で、口の悪い人に言わせると、診断が難しい微妙なケースにつけられる診断名などとも言われます。また、DSMの中では、その病気の原因がはっきり書かれている珍しい例です(他の病気は原因ではなく症状で分類されます)。

適応障害の原因は、その人にとって苦しいと感じられる環境からのストレスです。

■適応障害の治療

症状を抑える薬も使われますが、環境を変えることが効果的です。転職、配置換え、転居などによって、適応障害は改善されるはずです。しかし、事情によっては環境を変えることが難しこともあります。そこで、薬や環境改善に加えて、認知行動療法など考え方や行動を変える心理療法も行われます。

■芸能人有名人と心の病

芸能人や有名人は、有能でやる気もあり素晴らしい仕事をしますが、同時に辛い環境に置かれます。いつも笑顔で意欲的であることが求められます。簡単に仕事を休めません。誰かに代わりを頼むのも難しいこともあります。もともと頑張り屋なのに加えて仕事上の責任から、今回の小林悠さんのように、「周囲には言えなかった」ということになります。

ずいぶん後になって、実はあの時は大変だったとカミングアウトする芸能人有名人もいます。実はあの頃、うつ病だった、パニック障害だった、適応障害だったなどと語る人は、何人もいます。

だから、今みんなに話していなくても、心の不調で苦しみながらテレビに出ている人もいます。笑顔で元気そうに見える人の中にも、苦しんでいる人はいます。

たとえみんなには話せなくても、医師やカウンセラー、職場の信頼できる少数の人にだけでも話せると良いのですが。

■心の病に苦しむ人を支える

有名人芸能人に限らず、苦しんでいる人がいます。とても苦しくて、その弱さも出しているのだけれども、周囲に思いやりのある頼れる人がいないケースもあります。あるいは、周囲に助けてくれる人がたくさんいるのに、自分の弱さを出せない人もいます。

多くの心の病は、適切な治療と休息と周囲の理解によって改善されます。比較的短期間で治るものと時間のかかるものはありますが、薬を飲みながら子育てや仕事を続けている人もたくさんいます。

適応障害は、環境を変えることで改善しますから環境を変えることは良いことです。ただ一般的には、うつ状態がひどい時には、退学退職や離婚など重要な決定は先延ばしにすることが原則だとは思います。休学休職や別居で様子を見てみることもできるでしょう。

有名人の心の病気の告白は、社会的な意味を持ちます。ただの芸能ネタではなく、社会全体の心の病への理解を深めることが大切です。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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