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がんばれ千葉大:監禁事件で傷ついた全ての人と共にスクールトラウマを癒す(「推定無罪」でも処分はあり)

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージであり、千葉大生ではありません)(写真:アフロ)

ネット上では、千葉大への批判や悪口がたくさんあります。事件後の千葉大の謝罪も、処分への言及も、特別なことではないと思いますが、なぜか批判されたりもします。大勢の千葉大生が傷ついているのに。

■学校が傷つくとき:スクールトラウマ

事件事故の関係者が学校から出たとき。それが大きく報道されたとき。学校全体が傷つきます。このスクールトラウマの問題は、たいていは小中高の問題ですが、今回は千葉大が傷ついています。

容疑者はすでに卒業式を終えているとはいえ、在学中の犯行と見られていること、そして監禁現場が大学のすぐそばだったこともあり、大学名が目立つ報道が続いています。週刊誌の記事でも、大学名が大きく見出しになっています。

学生が逮捕されたとき、大学名が出るときと出ないときがありますが、今回は強調されすぎだと感じます。

「女子中生誘拐事件で千葉大生を襲い始めた「風評被害」」といった記事も出ています。

「千葉大は呪われているのだろうか...」「就活中の千葉大生は大変だな」~

一部のネットユーザーからは「千葉大は犯罪が多いイメージ」という声も上がっており、千葉大在学生は「風評被害」の影響を心配している。~

ネット掲示板には「監禁しながら卒業できる千葉大」「また千葉大関係者の犯罪か」といった罵詈雑言に近い書き込みが殺到し、いわゆる「炎上状態」~

出典:女子中生誘拐事件で千葉大生を襲い始めた「風評被害」 大学は寺内容疑者の卒業「留保」を決めた J-CASTニュース 3月31日

匿名のネットユーザーだけでなく、識者、有名人で千葉大に否定的な発言をする人もいます。

ある名のあるライター(編集者)さんは、身近に犯罪者がいても気づかなかった問題を指摘し、千葉大生は、もっと東京の大学生や多様な大人とつき合った方がいい、都内の大学生と比べると幼い印象がある、オープンマインドな人材が育たないとツイートしてます。

そのツイートには、こんな反応がありました。

一年間千葉大に通って、たくさん立派な奴、頭のキレる奴、こんな僕を慕ってくれる奴に出会うことができた。そいつら全員を否定する権利が何も知らないコイツにある訳がないし、それを非難する事が幼稚だと言うなら僕はガキのままでいい

出典:ピカクルーンさんのツイート(3.28)

■千葉大の事件に対する対応への批判

千葉大学は、記者会見で謝罪し、容疑者男性の卒業取り消しなどの処分の可能性を語りました。これに対して、ネット上のコメントとして、「学業とは別の話だ」といった意見も多数見られました。

まあ、そう言われればそうかもしれません。しかし、多くの学校で在学生が刑事事件を起こしたら、当然何らかの処分をします。それは日常的に行われており、千葉大だけが行っているのではありません。

誘拐事件に関し、千葉大が卒業取り消しを検討することは「推定無罪」の原則に反するとの記事も出ています。

なるほど、おっしゃるとおり「推定無罪」ですし、被疑者の人権は守られなければなりません。社会的リンチなど、もっての外です。ただ、この記事では大学の謝罪も、安易だと批判されています。たくさんの、賛同のコメントもついています。

しかし、推定無罪の被疑者も身柄拘束はされます。学生や社員が大きな刑事事件で逮捕起訴されれば、学校や会社が謝罪や処分を行うのは、普通のことでしょう。どうして、今回の千葉大は批判されてしまうのでしょうか。もしも千葉大が謝罪しなければしなかったで、社会のバッシングを受けることでしょう。

学校でも、会社でも、あるいは政党でも、裁判で有罪が確定するまで、謝罪も処分も何もいたしませんというのが、はたして正しいのでしょうか。大学は学生を守らなければなりませんが、同時に社会的責任を果たさなければなりません。

一般的には、逮捕の段階で謝罪が行われ、起訴の段階で正式な処分が下されることが多いでしょう。後に無罪になれば処分は取り消されるでしょうが、これまでの例では、起訴前に処分が下されることもありますし、また時には大学や会社の処分が甘すぎると、世間から非難されることもあります。

ある教育大学で学生が集団準強姦容疑で逮捕された際には、大学側の「教育的配慮」による比較的軽い処分に対して、世間からは厳しい意見が多数寄せられました(ちなみに、この事件は被害者との示談が成立したことで起訴猶予となり、学生らからは大学の処分取り消しの訴えがなされました)。

どのタイミングで、どの程度の処分を下すのかは、難しいものです。

警察からは、暗に学校へ話が来たりすることもあるようです。罪の重さや時期によって、ここは学校もどうか穏便にとか、何らかの処分はあるのでしょうね、などと指示ではありませんが、会話の中に出てきたりするものです。

3月中は卒業生も在籍中ですから、千葉大の謝罪も処分への言及も、ごく一般的なことだと思います。ただ、さかのぼっての処分には、様々な意見はあるでしょう。

■がんばれ千葉大生

残念なことに、何件かの事件が起きてしまいました。しかし、決して千葉大生が特に犯罪を犯しているわけではありません。ただ、たまたま大きく報道される事件が起きただけです。

ほんの何人かの人のせいで、その大学全体、学生全体が非難されることなど、あってはなりません。この春の卒業生が、誇りを持って出身大学名を言えるように、この春の新入生が喜びと希望を持って入学できますように。

千葉大は、言うまでもなく、りっぱな大学です。事件によるマイナスイメージを払拭するのは、卒業生や在学性の使命です。もちろん、心ある人たちは、事件によって傷ついた全ての人々を応援します。

同じ大学の学生が逮捕されて、ショックを受けている人もいるでしょう。あの、監禁されていた建物を毎日見ていた人の中には、衝撃を受けたり、悔やんだりしている人もいるかもしれません。

傷ついているあなたの心を癒しましょう。そして、学生と教職員が協力して、スクールトラウマを癒しましょう。

事件によって、これ以上傷つく人を増やしてはいけません。

→「がんばれ千葉大2:尾木ママ先生のご批判もありますが:事件で傷つくすべての人のために

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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