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災害発生時にマスメディアが伝えるべき5つのこと:熊本地震

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(イメージ写真:新潟中越地震の避難所横にずらりと並ぶテレビ中継車:筆者撮影)

■災害時のマスコミの役割

災害心理学の研究などから、災害発生時のマスコミの役割が検討されています。

1.災害発生直後の生活情報

災害発生直後に必要な報道は、被害を受けた方々の安心安全に役立つ生活情報です。しかし、マスコミはこれが意外と苦手です。東京のスタジオに学者を呼んで、地震のメカニズムを話したりしますが、避難している人にとって今役立つ情報ではないでしょう。そんなニュースを見聞きして、腹立たしい思いを感じる人もいるでしょう。

先ほど東京からのニュースで、東京の放送局名入りのヘルメットをかぶったレポーターが、話していました。

「先ほど地元の人から、どこで炊き出しをしているのかと質問されました」。

マスコミの人ならきっと知っている、きっと教えてくれると、期待したのでしょう。

こんな時に活躍するのが、ローカルテレビや、ローカルラジオです。地元のための役立つ情報を流し続けていることでしょう。

今回NHKの全国ニュースで、炊き出しを行っている具体的な場所の情報を流していました。地元の人以外には、直接的には役に立たない情報です。けれど、全国の人も不快感などは、ないでしょう。それが、どれほど視聴率につながるかはわかりませんが、炊き出しが行われている情報は、全国の人にも必要な情報です。

ただ全国放送で、ローカル情報ばかり流すわけにはいかないでしょう。それでも、役立つ情報こそ、災害直後には必要です。

東京からの全国放送でも、「これから避難所に向かう人のための注意事項」を伝えている番組もあります。これは、地元にも役立つ情報でしょうし、被害拡大を防ぐ情報でしょうし、他の地域の人にも今後役立つ情報でしょう。

2.被害増大を防ぐ情報

役立つ情報の中でも、生活情報だけではなくて、被害増大を防ぐ情報も大切です。たとえば、電気のブレーカーを落とすことが必要だと伝え、ただし、半壊した家の中に入るようなことは危険だと伝えることです。荷物を取りにいったん帰宅するにしても、一人で行くことは危険だと伝えることです。

あるいは、余震に気をつけることが必要と伝えることです。さらに、今回の「平成28年熊本地震」と似ていると言われる新潟県中越地震では、4日目に大きな余震が来たことを伝えることです。

不確かな情報はかえって不安を高めますが、冷静で正しい情報は必要です。

地震メカニズムの話も、地球規模の話をされても役立ちませんが、今後の九州地方における地震の危険性といった情報なら、被害増大を防ぐ情報になるでしょう。

3.被害の大きさ、悲惨さの報道

これは、中央のマスコミも盛んにしていることです。熊本地震発生直後に伝えられた熊本市中心部の映像(大きな被害が出ているようには見えない映像)だけでは、熊本地震の様子は伝わらなかったでしょう。夜があけて、益城町(ましきまち)の惨状が伝えられ、熊本市内でも被害が出ていることが伝えられて、私たちは初めて熊本地震の様子を少しずつ知ることになります。

新潟県中越地震の時には、最も大きく揺れた川口町の情報が何も入りませんでした。被害が大きすぎ、震度計も壊れ、陸の孤島状態でマスコミもなかなか入れなかったのです。その結果、地震直後には報道もほとんどありませんでした。

その川口町から、必死の思いでローカル放送局に来た人が訴えていました。

「報道してほしい。報道がないから、救援物資も来ない。救援の人も来ない。報道してほしい!」

4.被災者へのインタビュー

無遠慮に被災者にマイクを向けることは間違いです。しかし、インタビューが悪いわけではありません。悲劇は、破壊された建物や、被害額の統計にあるのではなく、一人ひとりの人生にあるからです。

インタビューを通して、初めて視聴者がわかることもあるでしょう。インタビューに答えることが、心の癒しにつながることもあります。

ただし、もちろん無理なインタビューは誰も求めていないでしょう。

5.明るく前向きな情報

報道は、悲惨な被災地、かわいそうな被災者を伝えれば良いわけではありません。被災地、被災者と呼ばれることでさえ、違和感を感じる人々もいます。実際以上の悲惨さや探し出し、作り出して報道することは誤りです。

新潟県中越地震の時に、ある施設の責任者から聞きました。地震直後、備蓄していたものを次々と提供したそうです。数日すれば支援物資は必ず来ると確信していたからです。そこへ、東京からテレビ局の人が来ました。

インタビューに答えて、大丈夫、安心していると答えました。しかしインタビュアーが、もしも支援物資が来なかったらどうするとしつこく質問してきました。そこで、もし支援物資が来なければそれはとても困ると回答しました。全国に向けて放送されたのは、「とても困る」と答えた部分だけでした。

ニュースバリューとしては、異常な出来事や混乱の方が価値が高いのでしょう。しかし、じきに正常を取り戻す場所や人もいます。頑張る地元の人々がいます。

その明るく前向きな報道こそが、地元の人に勇気を与えます。特に、これからも地元と共に生きて行くローカルメディアは、この種の報道に力を入れます。

もちろん、長い支援が必要でしょう。忘れてしまうことも、安心させすぎてしまうこともいけません。同時に、紋切り型の「余震に怯える被災者」といった報道を続けるだけが、災害時のマスメディアの役割ではないでしょう。

地元のラジオ局もテレビ局も、地元紙も、東京の大マスコミも、それぞれがマスメディアとしての役割を果たしてほしいと思います。

関連サイト

NHKハートネット「お役立ち情報 災害・誰も取り残さない」

災害時のマスコミの役割:大震災のとき新聞、テレビ、ラジオ、マスメディアは何を報道すべきか:2011.3.19

マスメディア・スタッフの心のケア:新聞、テレビ、ラジオ、雑誌スタッフの惨事ストレスケ:私が見たスタッフの心:2011.3.28

災害発生時のマスコミの役割・必要な情報:西日本豪雨:20180709

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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