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がんばった被災地の子ども若者を守れ:熊本地震での心のケア

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:子どもはいつも前向きに頑張ろうとする)(写真:アフロ)

ボランティアが来るまで、避難所を支えてがんばった子ども若者たち。この子達を守るのが、大人の役割です。

■子どもの心が崩れた事例

ある大地震後の避難所で。一人の小学生の女の子が、とても元気に働いていました。大人たちと一緒に、ボランティアの皆さんと一緒に、一生懸命働いていました。彼女は、避難所のアイドルでした。多くの人が、その笑顔に元気をもらい、癒されていました。

ところがある日、ある作業で「それは子どもには危ないから、大人がやるからいいよ」と言われたのをきっかけに、彼女は急激に元気を失います。暗い顔でふさぎこんで無口になり、とうとう寝込んでしまいました。

実は、彼女の家も大きな被害を受けていました。とても辛い体験をしてきました。けれども、泣き言ひとつ言わずに、ボランティア活動をしていたのです。その女の子にとっては、働くことで気を紛らわしていたのかもしれません。心を保つために、毎日働き続けるしかなかったのかもしれません。

しかし、人はスーパーマンにはなれません。彼女の受けた言葉は、一つのきっかけにすぎません。心の体の疲れが一気に出て、元の元気な姿を取り戻すためには、長い時間が必要となってしまったのです。

■熊本地震被災地で

本来は、熊本地震発生後すぐにボランティアセンターが開設され、ボランティアが集まる予定でした。ところが、4月14日夜の前振、18日未明の本振をはじめ相次ぐ大きな余震の連続で、ボランティアセンターの開設が21日までずれ込み、ボランティア受け入れが遅れました。

その間、活躍したのが地域の子ども若者です。特に避難所になった学校では、子どもたちが懸命に働きました。その姿は、テレビニュースでも紹介され、被災者だけでなく、全国の人が元気をもらいました。

子ども若者が復興活動に参加することは、とても良いことです。ただし、無理はいけません。

■子どもたちの頑張りと心のケア

子どもは、元気です。大人からみれば、とても元気です。しかし、一日中遊んだ後はぐっすり熟睡します。帰りの電車や車の中で寝てしまうと、揺り動かしても起きないほどです。それが、子どもです。

今回の避難所の頑張りも、一日か二日なら良かったでしょう。しかし、自分自身も被災者で、心身ともに衝撃的な体験をした直後に、子供達は頑張り続けました。中には、頑張りすぎた子どももいるでしょう。

この後、快適な自宅でのご褒美や楽しいレクレーションが待っていれば良いのですが、困難は続きます。心身ともに休ませることが必要です。

この後は、ボランティアたちもたくさん来るでしょう。子どもたちの体を休ませるには良いのですが、無理に仕事を取ってしまうと、気が抜けてしまうことも考えられます。

子どもは、保護されるべき存在ですが、子どもの強さを認めずに弱く小さいものと扱いすぎることも問題です。

特に泣けない子ども、感情を出せない子どもは、要注意です。

体の疲れをとりながら、おしゃべりをしたり、楽しく勉強したり、思いっきり遊べる環境が必要です。避難所は静かにしなければなりませんが、子どもがおお声を出せたり走り回れるような場所をぜひ作っていただきたいと思います。

■学生達も

熊本県立大学も、地震直後から避難所になり、千人もの避難者が集まり、そして18日に閉鎖されました。熊本県立大学は、もともと一時的な避難場所として指定されていただけで長期避難の準備は何もありませんでした。その中で、自らも被災者であり、親元から離れた18、19の青年も含めた学生たちが、必死になって働きました。避難場所の運営は、学生がボランティアで担当し、食糧配布や部屋の見回りなどを実施しました。

しかし、早期の避難所閉鎖に、世間からのバッシングを受けます。もっと言えば、非難中傷罵詈雑言(ばりぞうごん)です。大学側は、「何もかも足りなかった。大学だけで避難所を運営するには限界もあることを理解して欲しい」と述べています。

その後、大学側の事情を理解し、県立熊本大学を擁護する意見も出始めました。一生懸命働いている学生に対して、避難者達の態度がひどかったという証言もあります。千人の人がいれば、様々な人がいるでしょう。大学への批判は、今も批判は続いています。

様々な意見はあるでしょうが、現地の学生達が懸命に頑張ったのは事実です。そして、非難を受けることになりました。

■がんばった被災地の子ども若者を守ろう

災害ストレス反応の一つとして、火事場の馬鹿力的な頑張りがあります。それが必要な時もあります。しかし、そのあとは激しい心身の疲れが襲ってきます。しかも、子どもは自分のストレスを自覚できません。青年は、必要以上に自分を責めがちです。

だから、大人たちが、がんばった子ども若者のストレスを解放してあげましょう。

今までの頑張りをねぎらい、子ども若者の力を認め、そして休ませましょう。その後で、子ども若者らしい楽しく健康的な活動ができるように、支援しましょう。大人の守りの中で、子ども若者が遊んだり勉強したり、そしてそれぞれ無理せずできる復興活動に参加させましょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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